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進行性大腸がんで死を意識し、怖いものがなくなりました 元経済産業省キャリア・古賀茂明 × 鎌田 實
原発事故の背景にある電力業界の組織文化問題
古賀 今回の原発事故について、技術論やコスト論が盛んに行われていますが、いろんな問題の根底には組織というか、組織文化の問題があります。さらに突きつめれば、競争がなく、利益が保障されている電力業界のぬるま湯的なシステムがあります。競争がなく、利益が保障されている状態が長く続けば、人の意見に耳を傾けないだけでなく、都合の悪い情報は出さない、独善的な体制になっていきます。もし、不都合な情報を隠していたことがばれても、競争はなく、利益は出せますから、何ら怖いものはない。ですから、組織の改革を行うこともしない。
これまでに小さな原発事故はたくさんありましたし、津波に関する指摘もいろいろ行われていました。しかし、電力会社はそうした情報を隠したり、無視したりしてきたわけです。もし、発送電が分離され、電力自由化が促進されていたら、そんな情報隠しをする会社や、危ない原発でつくった電力は買わないという、消費者の動きが起きていたはずです。それが電力業界を開かれた世界にしていたかも知れません。
鎌田 古賀さんは終始一貫して、日本の中枢のあり方に警告を発し、システムを変えるべきだと言い続けていますが、その1つが発送電分離だったわけですね。私も、発送電を分離し、地域独占をなくすことが、国民が安い電力を使えるようになることにつながると思います。しかし、以前から官僚が発送電分離に反対しているのは、発送電分離によって官僚の利得が壊されるからですか。
古賀 官僚の頭の中の経路は非常に複雑です。単純に、自分たちの利得を守るために発送電分離に反対している、と考えている人はほとんどいないと思います。主観的には正しいことをやっていると思っている人が大半です。どうしてそうなるのかと言えば、まず、理論的に正しいことが理解できていないからです。
国家・国民のために働く官僚・公務員に改革すべき
鎌田 頭がいいエリート官僚が、理論的に正しいことがわからない?
古賀 いわゆるキャリア官僚は小さい頃から勉強一筋で来ています。良い大学に入るのも受験勉強、公務員試験も受験勉強です。その勉強の仕方は、基本的には過去問を解いて正解がわかっている問いに答えるというものです。それをひたすら勉強してきているわけです。ですから、いろんな政策課題に直面したときに、基本的に過去にさかのぼり、同じような事例がなかったか、緻密に調べるのです。そうすると、大体似たような事例が出てきて、それを踏襲するわけです。
私はそれにものすごく違和感を感じていました。昔の資料を隅から隅まであたるのは、とても手間がかかる。それがイヤなんです(笑)。ですから、課題が与えられると、何の根拠もありませんが、自分の頭で考えて答えを出し、こうしたらいいんじゃないですかと言うと、先輩から「過去との整合性がないからダメだ」と否定される。キャリア官僚にはそういう習性がありますから、何か新しい課題に対応するとき、新しい発想で対応することができないのです。官僚が発送電分離という新しい課題に抵抗するのは、そういう面もあるわけです。もちろん、天下りなど自分たちの利権や存在価値を維持する狙いもありますけれど……。
鎌田 古賀さんは役人生活の最後に、必死に公務員制度改革に取り組まれましたよね。公務員制度の根本を改革しないかぎり、この国は変わらないということですね。
古賀 そうです。政治家だけでは行政は動きませんから、何をやるにしても、官僚を使わざるを得ません。しかし、官僚・公務員を使おうとすると、企画・立案段階から正しい答えが出てきにくいのです。また、政治家が正しい政策を打ち出しても、官僚が執行する段階でそれが歪められていく。いかに声高に改革を叫んでも、新しい政策を決めても、1年経ったら官僚の手によって何も変わらなかったということでは、何の意味もありません。
その硬直化した公務員制度を根本的に変えるためには、官僚が国民のために働くようにし、それをきちっと評価するシステムを作るほかありません。官僚が国家・国民のために働けば給料が上がる、そうでなければ下がる、という制度にすべきです。また、ミスをした幹部クラスには降格人事を適用し、積極的に優秀な若手の登用を図るべきです。
鎌田 政治主導を標榜した民主党政権は、官僚を使いこなせていませんね。想定外の原発事故への対応も、早い段階から優秀な官僚を官邸に集めて対応していたら、もう少し違っていたと思います。
総理を目指す政治家は国家戦略スタッフを持て
古賀 おっしゃるとおりです。私たちは自民党政権時代に国家戦略スタッフの創設を提言しました。民主党政権になって国家戦略室が設置されましたが、これは組織を作っただけで、機能しているとは言いがたい状況です。私たちが提言した国家戦略スタッフというのは、総理が大きな改革や政策をやり遂げるために、日頃から信用できるスタッフを官邸に集めて、総理と国家戦略スタッフが一体となって改革や政策を実現していくというものです。そういうスタッフは、総理になる前からブレーンとして揃えておき、総理就任と同時に一緒に官邸に入るぐらいでないとダメです。
自民党政権は官僚と一体となって政治を動かしていましたが、民主党は官僚に頼らない政治を標榜し、何ら戦略スタッフの準備もなく、政権に就きました。民主党こそ優秀な国家戦略スタッフが必要ですが、鳩山さんも菅さんも野田さんも、そういうスタッフを作ろうとしなかった。大震災対応、原発事故対応の遅れは、そこにも一因がありますね。
鎌田 古賀さんは経産省のはね返り分子のようなものですが(笑)、自民党はフトコロが深いのか、その古賀さんを公務員制度改革推進本部の審議官として使おうとした。
古賀 私は渡辺喜美元行革担当大臣に請われる形で審議官になりましたが、その数日後に渡辺大臣が更迭されたんです。民主党政権なら、私もすぐに切られていたでしょうが、自民党はそうしなかった。自民党が組織で決めたことだから、大臣が代わってもクビにしない。どこか理性が働いていた。そういう意味では、民主党のほうが感覚的、感情的ですね。
鎌田 自民党に批判的なぼくを自民党政権はいろいろな委員に使いました。民主党も1割ぐらいは批判的なスタッフを入れておいたほうがいいですよね。民主党は自分たちを批判する人が嫌い。もっと大人になったほうがいい。そうしないと、かえって組織が弱くなる。原子力村も一枚岩にして、批判勢力を排除していたから、弱かった。
古賀 官僚も同じですよ。人間、絶対に間違えないということはありません。しかし、金太郎飴のような組織にしておくと、間違えたときに変更できない。同じ方向を向いて真っ直ぐ進んでいくと、間違えたときに大きく外れて、修正が効かなくなります。
大阪府市統合本部入りで改革勢力の結集を図る

鎌田 古賀さんのお話をうかがっていると、政治家になられたほうがいいような気がしてきます(笑)。
古賀 いや、2世議員やタレント議員ならともかく、いまの政治の仕組みでは、政治家になるにはコストがかかりすぎます。あらゆる精力を投入しなければなりませんからね。それなら、改革を目指す政治家にいろんなアイデアを提供し、役割分担をしながら改革を実現したほうが効率的だと思います。
鎌田 いろいろ声がかかるでしょう。
古賀 大阪市長に転身した橋下徹さんが、大阪府市統合本部を作りましたが、大阪府と大阪市の特別顧問になり、統合本部の仕事に参画していくことになりました。これは表面的には大阪に限定された地方の話ですが、国のほうで変えてくれないと、大阪だけではできないという問題がたくさん出てきますので、中央をかなり巻き込んでいくことになると思います。
場合によっては、国政選挙で維新の会が大阪や関西圏で候補者を擁立し、国政の場に出ていくこともあるでしょう。また、みんなの党とは政策的な共通点もありますし、さらに自民党にも民主党にも改革派の人たちがいます。そのような私たちと考えを同じくする人たちをサポートしながら、改革勢力の連携を図っていき、本格的な改革を断行できればいいと考えています。
鎌田 大震災、原発事故という未曽有の国難状況からの再生と、古賀さんたちの目指す改革がつながっていくことを期待します。ありがとうございました。
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