- ホーム >
- 闘病記 >
- がんになった著名人 >
- スペシャルインタビュー
がんをきっかけに「いのちの連鎖」を見つめ直しました 毎日新聞主筆・岸井成格 × 鎌田 實
父親のがん治療を機に次男が介護の仕事に就く

鎌田 しかし、がんになって、日本のお医者さんが患者さんのためにどれぐらいがんばってくれているか、見えたのではないですか(笑)。
岸井 見えましたね。お医者さんはもちろん、看護師さんやスタッフの皆さんも本当に良くしてくれましたし、折々の会話が励みにもなりました。留学先から一時帰国していた息子が介護士を目指していま介護施設で仕事をしていますよ。私の入院・手術と関係あるかどうか分かりませんが……。
鎌田 介護に従事する人たちが現在の待遇条件で、本当に生活していけるのかという問題もあります。息子さんの心意気はすごいと思いますが、将来の生活設計の面など、心配な面もあるでしょうね。
岸井 話を聞いてみると、大変だなぁと思います。体力的にも大変なようですし、生活が成り立つのかと思います。
鎌田 日本の医療、介護、福祉現場は大変です。医師もマスコミからいろいろ批判されることが多い。岸井さんのようなマスコミのリーダー的な立場にいる方に、率直な意見を言っていただければと思いますね。
岸井 ニュースというのは、どうしても医療過誤など事件性のあるものを追いかけますからね。
鎌田 岸井さんは毎日新聞の主筆に就任されましたが、岸井さんはニュートラルな立場から、バランス感覚を持って意見を述べられているような感じがします。マスコミがニュートラルなスタンスで報道をすれば、日本はもう少しまともになるような気がします。
岸井 極端に走らず、ニュートラルな立場から正しい情報を提供することを、常に意識しています。そのことがますます重要になっています。
文明の岐路に立たされいのちの輝きを求める
鎌田 ところで最近、従来はむしろ死の問題を避ける傾向にあった雑誌が、ブームのように死を取り上げているのは、何か時代と関係しているのでしょうか。
岸井 いま世界も日本も、ある意味で文明の岐路に立っている。私は植林活動を行うNPOの理事長もやっていますが、最近、日本の森が急速に荒廃しています。だから、あちこちでクマが出てくると、「それ見たことか」と言っているんです。
地球環境の破壊が急速に進み、文明の危機的状況が明らかになってきています。抽象論になりますが、その危機が迫ってきていることを、人間も、ひょっとしたら動物も植物も感じているのではないかと思います。
そして人間はいま、いのちの尊厳、いのちの輝きを求め始めている。私たちの植林も、ただ山に木を植えるだけでなく、心にも木を植え、いのちの森を作ろうという発想になっています。私たちを指導してくださっているのは、横浜国大名誉教授で82歳の宮脇昭先生ですが、先生は「おまえらが真剣に植林しなかったらどうするんだぁー!」と言って、若い学生たちの尻を叩きますよ。栃木県の足尾銅山や八幡平の松尾鉱山の跡地の、鉱害で草木も生えなくなった山に植林するわけですから、本気で植えないと木が育たないのです。人間がいのちを燃やして植林することが、環境をよみがえらせ、人間自身のいのちの輝きを取り戻すのです。
鎌田 文明が厳しい岐路に立たされている。それを土俵際で何とか持ちこたえようと、努力することが、いのちの尊厳を取り戻すことにもなる。そういう必死の努力が行われていることと、メディアで死の問題が真正面から取り上げられることは、表裏一体の関係にある。
岸井 だろうと思います。みんながそういう共通の感覚を持つようになってきた。こういう先行き不透明な時代には、明確な生きがいを持つことが難しいと思いますが、人間はいのちに関わるときに、いちばん輝くんですよ。
毎日新聞主筆として環境といのちテーマに
鎌田 私は先日、160人の障害者の方々を連れて、上諏訪温泉へ行ってきました。もうこの旅は6年続けていますが、教えられることが多いですね。いま日本は経済が悪いし、何かみんな内向きになっていますが、こんなときこそ外向きになって、誰かのために何かやってみたりすると、免疫力が上がって、いのちが輝き、元気になるんじゃないかと思うんですけれどね。
岸井 鎌田さんの本を読んだり、話を聴くと、勇気や元気をもらえますよね(笑)。
鎌田 ひとりひとりが心を温かくすることが、世の中のマインドを温め、経済も好転させるような気がしますね。最後に、がんになってよかったと思うことは、何かありますか。
岸井 暴飲暴食をしなくなった。がんになる前は、よく生きているなと思うぐらい飲んだり、食ったりしていましたから(笑)。がんと言われたときは、ちょうどたばこをやめようと思って、禁煙パイポを始めたときでした。それまでは1日に最低60本吸っていました。がんになったことで、完全にたばこをやめることができました(笑)。
鎌田 3年前にがんの手術をして、体調がよくなったからこそ、主筆の仕事も引き受けることができた(笑)。
岸井 そういう意味では、主筆として、環境といのちの問題を取り上げていくことに使命感を感じています。
同じカテゴリーの最新記事
- 人間は死ぬ瞬間まで生きています 柳 美里 × 鎌田 實
- 政治も健康も「あきらめない」精神でがんばりたい 小沢一郎 × 鎌田 實
- 自分を客観視する習性が、がん克服に導いてくれたのだと思います なかにし礼 × 鎌田 實 (後編)
- 人間を診ないロボット医師にいのちを預けるわけにはいかない なかにし礼 × 鎌田 實 (前編)
- 検査しないまま収監されていたら、帰らぬ人となっていたかも知れません 鈴木宗男 × 鎌田 實
- 治ると思ってがんに対峙するのと ダメだと思って対峙するのとでは全然違う 与謝野 馨 × 鎌田 實
- 病気にはなったけど 決して病人にはなるまい 田部井淳子 × 鎌田 實
- 神が私を見捨てないから 難治性乳がんにもへこたれない ゴスペルシンガー・KiKi(ゲーリー清美) × 鎌田 實
- 原稿も旅行もゴルフもできるうちは好きなようにやって生きていきたい 作家・高橋三千綱 × 鎌田 實
- 5年、10年と節目をつけ、少しドキドキしながら、娘を見守っていく 女優/タレント・麻木久仁子 × 鎌田 實