飄々とした生き方こそがんとの付き合い方の見本 俳優・藤村俊二 × 鎌田 實

撮影●板橋雄一
構成●江口 敏
発行:2010年7月
更新:2019年7月

人間ドックの開院祝いに行き「胃がんです」と言われた

写真:藤村さん

「イヤなことから逃げるの、うまいんです」と『オヒョイ』流生き方を話す藤村さん

鎌田 かなり大きな手術でしたね。気胸は今は手術しないで治します。脱気だけで治ることも多い。胸腔鏡で治すこともあります。簡単になりました。その後に胃がんですか。

藤村 そうです。実は私は45歳頃からウインドサーフィンをやっていました。あるとき、千葉県の鴨川で行われたウインドサーフィンの大会の審査員を頼まれ、可愛い女の子もいっぱいいるからと言われて、出かけていったんですが、そこで亀田病院の次男(現理事長)と友だちになったわけです。しばらくすると、その次男の方が幕張にクリニックを出したという案内が来ました。

鎌田 たしか人間ドックを専門にやるクリニックでしたね。

藤村 そうです。パチンコ屋の開店ではないから、花を贈っても面白味がない(笑)。そこで、「粗末な身体ですが差し上げますから、先生、診てください」と言って、人間ドックをやっていただいたところ、「がんです」と言われたんです(笑)。「がんですか」「胃がんです」「どうすればいいですか」「切ればいいです」「じゃあ切ってください」というやりとりだけでしたね。

鎌田 もう1カ所調べてもらうとか、さらに精密検査を受けるとか、そういうことは一切しなかった。

藤村 しなかったですね。

鎌田 それが藤村流の生き方なんですね。

藤村 そうかもしれないですね。それで鴨川の亀田病院で手術を受け、胃の3分の2を切除しました。56歳のときですね。

胃がんの手術をしたが深刻にはならなかった

鎌田 胃がんと言われて、不安は感じなかった?

藤村 感じなかったですね。私たちの年代はとくにそうかもしれませんが、とにかく他人に病気であることを覚られたくない、という気持ちでした。身体の調子が悪いというのは、かっこよくないと考えていましたからね。当時、よく海外取材をしていましたから、「ちょっと海外ロケに行ってくる」と言って、鴨川に入院したんです。そして、手術から3週間後には、非番の看護婦さんを連れて、ウナギを食べに行ってました(笑)。

鎌田 当時としては、術後3週間でウナギを食べるというのは、過激ですね(笑)。

藤村 先生には、「僕は知らないよ」と言われました(笑)。こちらは、途中で倒れたって、看護婦さんが7人も一緒なら、何とかなるだろうと(笑��。

鎌田 手術で胃を取ってから、ワインの量は変わりましたか。

藤村 全然、変わりませんねぇ。むしろ余計に飲めるようになったかもしれない(笑)。

鎌田 食事は?

藤村 クスリと思ってどんどん食べていましたからね。同期の医師にも、「どんどん歩いて、どんどん食べろ」と言われていましたから。

鎌田 結局、胃がんの手術をしても、後遺症はなかった。

藤村 全然ありませんでしたね。後遺症はないし、やり残したことは何か、などと考えたこともありません。知らせなくて済むものなら、家族にも知らせないで手術しようと、気楽に思っていましたから。

鎌田 がんの深刻さに落ち込むことはなかった。

藤村 まったくありませんでした。

鎌田 がんにも落ち込まなかった藤村さんが、5年前の70歳のときに自律神経失調症を患われている。

藤村 何なんでしょうね。病気には強いけれど、ストレスに弱いんでしょうかね(笑)。

大動脈瘤の手術のあとにタバコをやめ葉巻党に

鎌田 平成11年、64歳のときに、大動脈瘤の手術をされていますね。

藤村 人工血管にしました。

鎌田 大手術ですね。

藤村 これも人間ドックで調べてもらっていたら、大動脈瘤が見つかったのです。血圧が上がると、いつ破裂するかわからないからと、手術を勧められました。しかし、私たちの仕事はたいてい半年後まで決まっていますから、半年待ってもらって手術しました。

鎌田 その手術をきっかけにタバコをやめられたとか。

藤村 「タバコはやめなさい」と言われたので、葉巻に替えました(笑)。先生からは、「いい加減にしろ」って言われちゃいました(笑)。

鎌田 それから葉巻を。

藤村 ずっと吸ってます(笑)。葉巻はワインと合いますよ。もう依存症ですね(笑)。

鎌田 大動脈瘤の手術後、心臓の冠動脈の狭窄があって、カテーテル治療をされていますよね。

藤村 心臓の弁が良くないんです。性格と同じで、締まらないんですよ(笑)。

鎌田 閉鎖不全のことですよね。

藤村 はい。締まらないで、漏れるんです。それで弁を取り替えようということになったわけです。その前に、大動脈梗塞を起こし、血管がぼろぼろになっています。

鎌田 足の付け根にステントを入れ、カテーテル治療を行っているということですね。

藤村 いまでも結構大変なんです。

鎌田 長く歩いたりすると、足がしびれたりする。

藤村 しびれると言うか、痛くって……。なるべく歩くようにと言われていますから、歩いてはいるんですが。こういう仕事ですから、他人様の前ではきちんと歩きますが、1人になるともたもたします。

鎌田 僧帽弁も人工弁にしたんですか。

藤村 去年、取り替えようということになって、カテーテルを入れ、ステントも入れました。

鎌田 冠動脈は大丈夫なんですか。

藤村 いや、大丈夫じゃないんです。去年、冠動脈のバイパス手術もやろうとしたのです。

鎌田 冠動脈と弁と両方やったんですか。

藤村 いえ、結局、全身麻酔されて手術室に運ばれたんですが、そこで手術の成否は5分5分だということになったらしい。飛び散って脳に行っちゃう可能性もあり、「100パーセント成功するとは限らない」と、家族が言われたらしいのです。私はもう眠っているから、その状況はわかりませんよ。それで協議の結果、弁の手術は止めようということになったわけです。

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