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セックスへの思いがあったから放射線の組織内照射に辿り着いた 日本将棋連盟会長・米長邦雄 × 鎌田 實
小線源の情報を得たが医師から否定された

鎌田 米長さんの場合、PSA値が5から7に上がった時点で勝負に出た。
米長 打つ手は1つです。がんの疑いがある。検査する以外に打つ手はありません。
鎌田 状況判断するときには、自分の状況を客観視する必要がある。
米長 12カ所検査して、4カ所からがんが見つかった。もう、がんであることははっきりしました。ここでの選択肢も1つです。骨に転移しているかどうかを調べることです。調べたら、転移はなかった。この段階までは1つの選択肢しかなかったですね。
鎌田 しかし、米長さんは慎重だから、セカンドオピニオンを受け、友人の整形外科医にもういちど骨に転移がないかどうかしらべてもらった(笑)。
米長 念には念を入れたわけです。問題は、骨に転移はしていないが、「あなたはがんです」と言われた後の選択肢です。お医者さんからは、「あなたは小線源治療を調べてきたようだけれど、残念ながら、あなたのがん細胞の位置が問題だ。左右に2カ所ずつある。全体を覆っている可能性もある。小線源では弱すぎて、がんを全滅できない危険性がある。全摘手術のほうがいい」と言われました。
鎌田 小線源治療はどう調べたんですか。
米長 小線源を知ったのは偶然です。小線源で成功した人の話を、たまたま耳にしたのです。
鎌田 ふだんからいろんなことに好奇心を持って、いろいろ調べているんですか。
米長 好奇心を持つものと、持たないものと、割合はっきりしていますね。たとえば、現時点(12月初め)では、鳩山由紀夫さんはどうなるのか、次は誰だろう、来年の参議院選はどうなるだろう、といったことに注目しています。しかし、4年後の総選挙のことまでは関心を持っていません。
鎌田 いま要ることと、要らないことを、明確に分けているんですね。
米長 分けています。急所のところだけはつかんでおかないと。
鎌田 現在、日本将棋連盟の会長ですから、棋士の生活を守り、将棋という文化を守っていくことについては、常に頭にあるわけですね。
米長 もちろんです。連盟の財政が第1です。第2は公益法人改革への対応、そして、民主党政権に代わって将棋という文化がどう見られるか、などですね。そのために、弁護士や公認会計士と相談したり、���碁や大相撲のほうは公益法人改革にどう対応しているのか調べたり、政治家に会ったりして、情報を集め整理しています。
医師が嫌がることはその病気で死なれること
鎌田 なるほど。いつもそういう情報の収集・整理をしているから、前立腺がんについても情報の取捨選択ができたわけですね。
米長 前立腺がんになった時点で、尿酸値が7になったとか、痛風で足が痛くなったとかいうことは、もう調べてもしようがないことです。100パーセント前立腺がんに集中しました。
鎌田 米長さんが情報として取得した小線源治療は、低線量率組織内照射という治療法だった。小線源治療にはもう1つ、高線量率組織内照射がある。それは後から知ったわけですね。
米長 そうです。最初、お医者さんから、「がん細胞が左右両方にあるから、小線源は勧められない」と言われ、手術を勧められたときは、手術を受けるつもりでした。ただ、先生との会話の中で、私は「もう少し楽しみたいことがあります」ということは、一応言ったわけです。すると先生は、「あなたが75歳だったら、少し観察してみましょう、と言ったでしょう。しかし、あなたはその歳までまだ10年ある。その間、もっと活躍していただかなくてはならない。だから全摘手術しましょう」と言う。私は「役立たなくなった物は残す。役立つ物は切る。先生、言ってることがおかしいじゃありませんか」と言ったんです(笑)。そのときに、そのお医者さんが言った言葉は忘れられません。「医者は目の前の患者さんに、自分が診断したその病気で死なれるのが、いちばんイヤなんです」――。そうなんですか。
鎌田 そうです。専門医として、それはつらいんです。例えば心筋梗塞なら、簡単に仕方ないと思えるのです。
米長 小線源だと取り切れないから、がんが再発してひどくなる可能性がある。前立腺がんで死なれるとつらいから、全摘を勧めるというわけです。
鎌田 そのときは手術と思ったんですね。
米長 思った。
病院にも医師にも運気というものがある
鎌田 そこからもう1つの小線源には、どうやってたどり着いたのですか。
米長 そこがまた不思議なところで、セックスへの思いがなければ、切ったと思いますが、私の逡巡を見た泌尿器科の先生が、「どうするかは、患者さんが決めることです」と言って、放射線科の先生を紹介してくれたのです。
鎌田 素晴らしい。
米長 私は、泌尿器科の先生と、放射線科の先生の両方に会い、いろいろ話を聞きながら、両先生の運気を観察しました。
鎌田 医師の運気は大事ですか。
米長 大事です。私はどちらでもいいと思っていたのですが、最後は運気で決めようと決めていました。病院にも、お医者さんにも運気というものがあるのです。
鎌田 『癌ノート』には、両方の先生に運気を感じたと書いてありますね。
米長 幸か不幸か、どちらの先生も素晴らしい運気をお持ちでした。どちらとも決めかねて、知り合いの医師3人と飲みながら話し合った結果、切らない高線量率組織内照射を選択したわけです。運気といえば、患者さんにも運気はありますよ。あるお医者さんの話ですが、運気の悪い患者さんが来ると、関わり合いたくないと思って、他の病院に行くように仕向けるそうです(笑)。
鎌田 正直のところ、何とかしてあげたいと思う患者さんと、ちょっとイヤだなと思う患者さんがいることは確かですね。
米長 お医者さんにも、患者さんにも、お互いに相性があるんですね。それにしても、前立腺がんは患者が治療法を選べるという、珍しい病気ですね。肺がんなどは、手術をお任せします、で終わりですよね。前立腺がんは手術から、ホルモン療法、小線源治療、何がいいのか、さっぱりわからない。私は高線量率組織内照射という名称を、治療を受けた後で知りました(笑)。それまでは単なる放射線治療だと思っていました。
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