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がん闘病中の「知の巨人」VS「がん検診の伝道師」 がん徹底対論・立花 隆(評論家) × 中川恵一(東京大学病院放射線科准教授)
症状が出たときにはがんは進行している

書籍や雑誌が山積みの立花事務所でがんを語り尽くす2人
立花 ぼくの場合は、実際に開いて、取って調べてみたら、1.8センチのがんであったことがわかったわけです。
中川 開腹されたんですか。それとも内視鏡ですか。
立花 開腹はしてません。内視鏡です。そのときに、「これ、ダブリングタイム(腫瘍の大きさが2倍になるのに要する時間)はどれくらいですか」と訊いたら、「3カ月」と言われました。若い医師がそう答えたのですが、主治医が「えっ、そんなに速いのか」と驚いていました(笑)。がんの大きさが1.8センチで、ダブリングタイムが3カ月というのは、結構進行しているということですよね。
あのとき、たまたま雑誌の企画で老人ドックを受け、がんが見つかったからいいようなものですが、あのまま自覚症状もなく放っておいたら、どのあたりで発見されたんでしょうか。
中川 あとどれくらいで症状が出ていたかと推測すれば、1~2年でしょうね。
立花 ということは、一般の人が症状が出てから病院に行ったときには、がんはかなり進行しているということですね。
中川 手遅れとは言いませんが、進行がんであることは間違いありません。また、痛みを伴うときには、骨に転移があるケースが多いですね。
立花 普通のがんは粘膜層で起きますよね。最初のバリアーである粘膜下層を抜けて、筋肉層に達するかどうかが大きな境目ですが、ぼくの場合、そのバリアーで止まったから、いまもそう深刻ではないのだと思います。そのバリアーを抜けるまでには、先ほどの3カ月の倍々ゲームでいくと、どれぐらいかかったんでしょうか。
中川 ケース・バイ・ケースですが、半年から1年だと思います。
立花 あー、そうですか。
がんの痛みの原因は破骨細胞の働きが原因
中川 それでも症状は出ないかもしれません。がんの痛みは、基本的に骨の痛みです。なぜ骨が痛いかというと、基本的にがんは骨にたどり着くからです。
立花 それは骨に転移するということではなく、物理的な圧力が骨にかかって、骨に痛みが出るということですか。
中川 いや、がんが骨の中に入り込むのです。それには2通りあります。1つは、たとえば膀胱がんがそのまま大きくなって、骨盤の中に入り込むケースです。これを浸潤と言います。もう1つは転移です。ただ、浸潤にしろ転移にしろ、がんにとって骨は固いから厄���です。そこで、がんは、骨を壊そうとします。骨には、骨を壊す破骨細胞と、骨を造る骨芽細胞があり、両方が同時に働いているために、常に正常な骨が保たれているのです。がん細胞が骨に入ると、破骨細胞に「働け、働け」と命令します。そうすると、骨は壊れて柔らかくなり、スペースができます。そのふかふかのベッドにがん細胞がやすやすと入り込む。その破骨細胞の働きが痛みの原因なのです。
立花 がんの痛みというのは、そういうことなんですか。
中川 がんそのものがギリギリと悪さをして、痛みを与えるということではなく、ほとんどのがんの痛みは、破骨細胞の働きによってもたらされています。
立花 がんが転移してないかぎりは、症状らしい症状はほとんど起きないということですか。
中川 そうです。例外はありますが、9割方はそうです。立花さんの場合は、早期発見できてラッキーだったと思います。
立花 いやぁ(笑)、老人ドックを受ける前後に、多少、不安なこともあったんですよ。腰の骨が妙に動かなくなったんです。椅子に座って足を組むことができなくなった。自分で靴下がはけない。いろんなことが起きた。明らかに腰の付け根の骨がおかしい。それで、東大病院の整形外科の先生に診てもらい、いろんな検査をしました。特殊なCTも撮りましたが、結局、よくわからなかったんです。これは様子を見るしかないということで、腰の骨については、今も様子見の段階です。それは、がんが腰に転移したという可能性もありますか。
中川 まずないです!
老人ドックで予見されたレンガ色の血尿の予兆
立花 ない? それはどうしてですか。
中川 実は私、立花さんの腰の骨のCT画像も見せてもらいました。骨が壊れているかどうかは、CTを見ればわかります。立花さんの場合、それはありません。立花さんの症状は……。
立花 老人性の?
中川 おそらく脊柱管狭窄症という感じがします。いわゆる腰の骨の老化ですね。がんとは関係ありません。重ねて申し上げますが、骨に転移していないことを含めて、立花さんは運が良かったと思います。
立花 ぼくは血尿が出て、ハッと思って、医者に電話したのが最初です。最近の立派な便器だと気がつかなかったと思いますが、おしっこが溜まる古いタイプの便器だったから、すぐにわかった。普通、血尿は赤い色をしているはずですが、そのときの血尿の色は古いレンガ色でした。そのことを医者に言ったら、「古くなっていたんや」と言われました(笑)。
中川 そうだと思います。
立花 だから出血は、ぼくが気づくよりだいぶ前にあったのでは、という気がします。
中川 血液というのは、赤血球の中にヘモグロビンという鉄分があり、赤血球が壊れるとヘモグロビンが酸化します。
立花 それでレンガ色になるんだ。
中川 はい。もっと時間が経つと、黒くなる。鉄のサビの色ですね。レンガ色の血尿が出たということは、血尿が膀胱のどこかにくっついていて、しばらく経ってから出てきたということでしょう。その血尿が出たのは、老人ドックの前ですか。
立花 後です。老人ドックをやったときに、超音波で診てもらいました。異常をよく見つけるといわれる技師に診てもらったのですが、彼が画像をよく見て、首をかしげながら、「変だなぁ」と言うわけです。しかし、よくわからなかったので、「ドックのコースが全部終わってから、もう1回、来てください」と言われた。それで、ドックが全部終わってから、その技師のところへ行くと、彼はもう1度、超音波の装置で何度も下腹部をさすって、どうも気になるといいました。
最終的な老人ドックの報告書には、「専門の医師にもう1度、精密検査をしてもらう必要がある」と記入されていました。レンガ色の血尿が出たのは、その2週間後です。ドックで予告されていたことが起きたという感じですね。
中川 その意味では、老人ドックは有効でしたね。
立花 その技師がうまく見つけてくれていたという感じです。老人ドックは役に立った。
中川 検診を受けたことによって、死なないで済むこともあるわけですから。
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