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子宮をなくしたが、「女であること」を自分の中でもっと開花させたい 特別対談・洞口依子(女優) × 高橋 都(東京大学大学院講師)
どうしても手術前のセックスと比べてしまう

洞口 私としては、自分でその部分にふれてみて、濡れなかったり痛かったことのショックが、やっぱり強かったですね。
高橋 両方の卵巣をとると、エストロゲンの分泌が激減し、どうしても潤いは落ちます。ただ、それだけでなく、潤わなくなったことにびっくりしたり、そのために性交痛がでてセックスに一層消極的になったり、さらには痛みのために潤わなくなるという悪循環もあります。
状況が許せば、医師に相談してホルモン補充療法を受けるという方法もあるし、潤滑ゼリーを使う方法もあります。実際、潤滑ゼリーの効果は大きいと思います。
でもね、「潤わない? じゃ潤滑ゼリー」とホイホイと使えるものでもないでしょ?(笑)ゼリーが目の前にあっても、自分が塗るのか、パートナーに塗ってもらうのか、塗るとしたらどのタイミングで塗るのか、わかりませんよね。それまで2人が慣れていたセックスと違うことをするときは、2人で話し合わなくちゃなりませんね。
洞口 だから、どうしても「そこまでやってすることかなあ」とも思うんです。
高橋 アメリカには、「がん治療のあと、セックスそのものの欲求は下がるけれど、手をつなぐ、ぎゅっと抱き合うなど、パートナーとの接触を求める気持ちは強くなる」という研究があります。どこまでをセックスと考えるかは人によって違うでしょうが、性交だけがセックスではありませんね。
ただ、どうしてもみんな、治療前と治療後のセックスを比べてしまうんじゃないでしょうか。
洞口 そうなんです!
高橋 正直、心や体の変化はあるわけだから、前とまったく同じ状態になることは難しいと思うんです。
洞口 この間、主治医にもいわれました。「以前とは違うんだから、新しいセックスをすればいいじゃない」って。まったく新しいことをすると思えば、楽しくできるかもしれないよ、と。でも、人は概念が叩き込まれているから、むずかしいと思います。
最初から性を存分に楽しめる女性は少ない。病後も同じ
洞口 あのう、男性が前立腺がんになったりしたときも、できなくなるんですか?
高橋 まったくできなくなる人もいるし、できる人もいます。勃起をつかさどる神経がどのくらい残っているかによりますね。
洞口 微妙に子宮頸がんに似ていますね。
高橋 0か1かではないところがね。
洞口 勃起しなくなると、妻やパートナーに対して、同じような悩みをもつのかしら。
高橋 「妻の性欲を満たせなくて悪いと思っている。だから、バイアグラを使いたい」という方もいます。でも、「奥さんはどう思っているんですか」と聞くと、「知らない。聞いたことがない」と。満たせなくてかわいそうと思っているのはご主人であって、奥さんはもしかしたら卒業できてよかったと思っているかもしれません。
洞口 解放されたと(笑)。
高橋 その意味では、病気になったあと、性のことをうまく話し合えない状況は、男女とも同じという気がします。
洞口 私ももしかしたら、解放されたと思われているのかな。あはは。(悲しそうに)わからない……。子宮がんで広汎子宮全摘を受けた人たちは、どうしているんでしょう。結婚している人も、していない人もふくめて、すごく知りたいです。
高橋 はじめてセックスするとき、最初から自信たっぷりに楽しめた女性は少ないと思うんですよ。女性の場合、最初は痛いし。
洞口 何が何だかわからないですよね。これを一生続けるなんてイヤ、みたいな(笑)。
高橋 そういう経験があっても、そのあと時間をかけて、自分にとっていいセックスや相性のいい相手、相棒を見つけていくわけです。最後まで心地よいセックスが見つけられない人も、たくさんいます。
だとすると、病気の治療を受けて状況がすごく変わったあと、その条件で自分にとってステキなセックスを見つけていくのは、最初のセックスと同じなのではないかしら。
洞口 うーん。映画『メン・イン・ブラック』のシーンのように、記憶をボンッと消せればいいんですけど、昔はああだったと、やっぱり思っちゃいますね。 高橋 比較基準があるんですものね。でも、今をどう楽しむか、というスタンスも、大事なんじゃないかな。
病気は性だけでなく人生を問いなおさせる
洞口 人によるかもしれませんが、女性は自分が喜びたい気持ちより、男性を喜ばせたい気持ちのほうが強いと思います。なのに、私はそれをも満足にできないんです。
もちろん、手を使うとか、やり方はあるのでしょうが、「それで相手は満足するのか」と思ってしまうんです。
高橋 乳がんのインタビューやアンケートを行うとき、自由記述の欄を設けると、皆さんびっしり書いてくださるんですが、「パートナーに申し訳ない」という言葉は、そこでもたくさん書かれますよ。つらい治療を頑張って受けているのは女性なのに。
とくに女性の場合、オルガズムに達した振りができるでしょう。男性の場合、本当に達したかどうか、射精にいたったかどうかでわかってしまうけれども、女性の場合、相手のことを思って感じたふりをしようと思えばできる。
だからこそよけいに、病気をきっかけに、2人にとって、自分にとって、性の意味とは何なのか、考え直す方は多いと思います。
その点でも、私は治療を受ける女性のパートナーに、率直なお気持ちを聞きたくてたまりません。なかなか、そういう話をしてくれる人がいないんですけれども。
アメリカのデータでは、乳がんになった人とならない人の離婚率は変わらない、と出ていますね。実際、私の知り合いで、乳がん手術のあとに別れたカップルの場合でも、ご主人が言い出したというより――。
洞口 奥さんのほうが言い出した?
高橋 ええ。がんになると、自分の人生観や、「これからどう生きていこう」ということを、すごく真面目に考えますよね。
そのとき、「これからの人生を一緒に歩くのはこの人ではない」と気づいてしまう人が、少なからずいる、ということですね。
私の感覚では、がんになって男性が立ち去るより、女性が見限るほうが多い気がします。あとは、「雨降って地固まる」。そういうカップルも多いです。
私以外のだれかとの人生が彼にはあるかも、と考える
高橋 洞口さんはご本の中でも、ご主人にすごく正直に向き合っておられますね。
洞口 メンタルな部分で、何もかも隠さずぶつけられる存在が、彼しかいませんでしたから。でも、彼にも許容範囲があるから、正直、2年間くらいはすごくつらかったです。精神的にまいってしまって、何を試してもうまく行かない。ちょっといい状態かなと思って、自分でやってみたら、「廃坑のよう」「枯れている」とビックリして、また不安障害の大きな発作が出るようになって。
それこそ先生がおっしゃったように、「離婚して仕事もやめて、人生をリセットしたい」と本気で考えました。でも、現実にできませんでした。今この人の元を去っても、私は自分で生活もできないし、そもそも仕事をやめて、何をして生きていけばいいのか、わからないわけです。
結果として、そのまま暮らしている自分にも疑問を感じるときが、今もあります。そして、彼はじつは違うだれかと暮らし、違う性を営み、子どもをつくりたいんじゃないか、と考えたりするんです。
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