子宮をなくしたが、「女であること」を自分の中でもっと開花させたい 特別対談・洞口依子(女優) × 高橋 都(東京大学大学院講師)

構成●半沢裕子
撮影●向井 渉
発行:2008年2月
更新:2019年7月

2人のコミュニケーションが大事でも、それが一番むずかしい

写真:洞口依子さんと高橋都さん

性については2人の率直なコミュニケーションが大切。でも、それが一番難しいのもまた事実……

高橋 それをご主人に話すこともある?

洞口 あります。思い切って。

高橋 そうすると?

洞口 かわされます。

高橋 「眠い」って?

洞口 「何いってるんだよ~ん」って(笑)。もし本当にそんな気持ちなら、私は覚悟ができているから、それでもいいんですが。

高橋 そうおっしゃる方も少なくないんですよ。自分じゃないだれかとの人生が、この人にはあるんじゃないかって。

洞口 私も思います。私のほうにもあるんじゃないか、とも。もちろん、今の状況で彼とうまくいくことが最良ですが、どこかで「おたがいが我慢しすぎているのかな」と思うときがあります。

高橋 あのね、この小冊子に「何はなくてもコミュニケーション!」と書いたんですが、実際はコミュニケーションができたら、苦労しませんよね。それでも本当に大事なことだから書かないといけないと思って、「前向きで正直な気持ちを伝え合うコミュニケーションが、性生活に限らず、カップルの関係全般にわたって、とても大切なことです」と書きました。
もちろん、むずかしいですよ。気持ちをぶつけられたとき、理性的に言語化して返すより、知らないよ~んと言ったほうが、楽なときもあると思います。
でもね、この人と暮らしていこうというのは、じつは毎日の選択だと思うんです。2人が両方、毎日選択している。だったら、2人で暮らしていけている間は、あまり深く考えなくていいのかなと、楽観的に思ったりもするんです。

女性の腟はそこにある。だから、性交できるだろうという誤解

高橋 婦人科がんの場合、くり返し内診をしたり、放射線のアプリケーターを入れたり、治療にともなって、直接腟に痛い思いをすることがありますよね。だから、性交そのものにこわい気持ちが先立って当然だと思います。
一方、男性パートナーは挿入することをゴールのように感じていて、挿入しないとまずいと思うようですが、受け入れる側にどれだけ大きな決意が必要か、わかっていないところがあります。

洞口 そうなんです! 男性って挿入して射精することが、最終的な『フィニート(結末)』と思っているでしょう? でも、正直わずらわしい(笑)。そんなことに私つきあってられない、と思っちゃう。せっかく生還して、大切にしている場所なんだから、何か違う新しい何かをやろうよ、と思っちゃう。

高橋 男性がすごくわかりにくいのは、もう1つ大きな誤解があるからだと思います。EDの場合、勃起しないわけだから、すごくわかりやすいじゃないですか。でも、女性の場合、「だって、腟はそこにあるじゃない」といわれてしまうんですよ。

洞口 そうなんです、そうなんです。

病後に腟がどう変わるか医療従事者も思いが及ばない

高橋 腟がそこにあれば、ペニスはそこにはいるでしょと。その腟が病後にどう変わるかというところに、医療従事者も一般の男性も思いが及ばないんですよ。だから、「どうしてできないの?」と聞く。
そういうものの考え方は医療従事者にも根強くあります。たとえば、脊髄損傷になった女性のセックスや妊娠・出産について書かれた本の中で「女性は性行為に関して受け身でもあり、性器の構造上男性より恵まれています。完全麻痺でも、性器の感覚を欠く以外性機能に関してあまり障害が目立ちません。性行為の満足は、よほど心の狭い人でない限り、男性パートナーを満足させることで得られ、心理的・精神的な喜びで代償されるようですが、いかがでしょうか」という記述があるんです。

洞口 本当に男性本位なんですね……。

高橋 EDになって勃起しないペニスは性行為に使えないけれども、腟はそこにあるから使えると、こういう大事なトピックをとりあげた貴重な本にさえ、そういう記述を見つけたことは、正直言って残念でしたね。
だいたい、病気とは全然関係なく、セックスには「今日はいい」「今日はだめ」というときがありますしねえ。それはじつは、治療の前もあとも同じだと思いますよ。いちばんのポイントは、相手の快楽でなく、自分を大事にすることだと思うんです。

洞口 それもこの間、放射線科の先生に言われました。男のことなんか考えないほうがいいですよ、男なんて勝手なんだからって、男の先生が(笑)。自分のことだけ、自分がいかに気持ちよくなりたいかということだけ、考えなさいって。
それを私の中で整理して考えると、がんになった人はもっとわがままでいいのかな、と思います。がんになってから、よくいわれるんです。
「女優でわがまま三昧やってきたのに、病気になってからはなぜ聞き分けのいい子ちゃんになってるの」とか、「あなたはもっとあなたらしく、人に振り回されるのではなく、人を振り回すくらい奔放に、自分のことだけ考えて生きなさい」とか。それを性的に突き詰めると、今先生がおっしゃったところに行き着くんだと思います。
どうしても、萎縮しちゃうんです。彼は私のことをどう思っているんだろう、こんな本を書いてどう思っているのかなって。

「女であること」を自分の中でもっと開花させたい

写真:洞口依子さんと高橋都さん

難しい問題で結論は出ないが、なかなか味わいのある対談だった

高橋 洞口さんの本はすごく貴重だと思います。体験談を出す方はたくさんいて、生き方を書いたものはいっぱいあるんです。でも、体の声をどう聴いたかとか、パートナーとのセックスのことなどをきちんと書いたものは、とても少ない。
それに、この本は現在進行形ですよね。がんはだれにとっても進行形です。美しくまとめられた体験談はたくさんありますが、そうではなく、あくまで現在進行形というのがとても印象的でした。

洞口 ありがとうございます。私の場合、女の象徴のような子宮がなくなったわけだけれども、もっともっと私の核にある女の部分をぐーっと引っ張ってくれるような、私に女を感じさせてくれるような性を体験したいという思いがあります。それによって、女として人間として、幅を広げていくことができるような気がするんです。

高橋 やっぱり、性的な結びつきの意味が、病後は変わるのかもしれませんね。

洞口 もちろん、パートナーとの関係を深めるコミュニケーションの手段としてのセックス、愛情をたしかめあうためのセックスも大切だと思いますが、「女であること」を自分の中でもっと開花させたい。そして、それによって、相手にも「わあ、こんなにいい女だったんだ」と思ってほしい――。
なーんちゃって(笑)。セックスって、そういう部分をすごく引き出してくれそうな感じがするんですよ。
子どもを出産したことがないから、よけいそう思うのかも。もし出産経験があったら、子宮がんになったとき、また違う何かが私の中に生まれたのかもしれない。 でも、子どももできていなかったし、女として何もしていないという感じが強いんです。だから、人として女として女優としてもっと開花したい!

高橋 1人のファンとしてずっと見ています。

洞口 ありがとうございます! 見ていてください。

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