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細かいことを気にせず自分に合った生き方で日々を過ごしていけばいい 女優・大空眞弓 × 鎌田 實
真剣にいのちを考えた『愛と死をみつめて』

自分のお葬式は″玉子葬″でやってもらいたいと明るく話す大空さん
鎌田 私は高校生のとき、大空さんが主演されたテレビの『愛と死をみつめて』を見て、ものすごく感動した憶えがありますが、あの頃はまだ、死に触れるようなドラマは少なかったですね。ヒロインのミコは悪性リンパ腫で21歳で亡くなるんですよね。
大空 私はミコ、大島みち子さんのお宅にうかがいました。 お父さまは工場を経営されていましたが、みち子さんが亡くなられたショックで、すでに経営をやめていらっしゃいました。みち子さんのお部屋がそのままの状態で残されているのが、とても悲しく印象的でした。しかし、みち子さんの写真は1枚も残っていませんでした。みち子さんが生前、アルバムを全部整理されたということです。覚悟されていたんですね。原作を読んだり、お話をうかがったりして、素晴らしい女性だと思いました。
お宅をうかがい、お墓参りもさせていただいて帰るとき、お父さまが玄関前の道端で見送ってくださいました。私は15メートル行くか行かない場所で、右向きに振り返り、お父さまに手を振りました。東京に帰ると、お父さまから電話が来て、「あなたはみち子がいつも振り返ったのと同じ場所で手を振りました」と言われました。
鎌田 そういえば、大空さんとみち子さんは似ていますね。
大空 いや、原作に使われた写真を見ると、みち子さんはすごく綺麗ですよ。私がみち子さんを演ることになったとき、私は病人ぽくないし、ダメじゃないかと思ったんです。そのとき、プロデューサーの石井ふく子さんが、「この役は病気らしい人がやってもダメ。健康な人が演ると悲しいのよ」と言われたことを、よく憶えています。それから、私の部屋に三面鏡があるんですが、ふっと見たとき、その中にみち子さんがいたんです。実際にお目にかかったことはないんですけれど、すぐ、アッ、みち子さんだ、とわかりました。
鎌田 大空さんご自身が、スピリチュアルなものを持っているんですね。
大空 それと、そのとき多分、私、みち子さんに呼ばれたような気がする。
鎌田 あの『愛と死をみつめて』には、日本中が泣きましたよね。
大空 みち子さんの魂というものが嘘ではないと、日本中の人が認めてくださったのだと思います。
鎌田 あれは大空さんが何歳のときの作品ですか。
大空 25歳です。あのときばかりは、「いのち」ってものを真剣に考えましたね。
茹で玉子を持ち寄る「玉子葬」にしてほしい
鎌田 大空さんのご家族もがんに罹られていますよね。
大空 父も1度、がんをやりました。母は肝臓がん。姉は29歳のとき胃がんで亡くなっています。
鎌田 29歳! 若年性の胃がんで亡くなるというのは、若干遺伝子に異常がある可能性がありますね。そういう家族のがんを見ているから、人間ドックもよく行かれたんですね。
大空 それと、病院が好きだということ(笑)。
鎌田 直近では、2009年にまた食道がんになっていますね。2003年のときに、放射線治療も行っていますから、再発しない可能性のほうが高いのに出た。
大空 私の場合は転移ではなく、原発がんだと言われましたね。
鎌田 それも手術ではなく、内視鏡的な粘膜切除で乗り切った。
大空 そういう切除を6回もやってくださった先生には感謝しています。私は先生に恵まれましたね。それは、父も母も姉も、「まだこちらへ来なくていいよ」って言ってるのかなと思って(笑)。でも、私の祖母は明治元年生まれでしたが、がんにもならず、103歳まで生きましたよ。
鎌田 大空さんは体質的にはがんになりやすいけれども、性格的には異常に明るいですよね。それで救われているのかなぁ。そんな気がするけど。
大空 あぁ……。私、いろんながんを経験してるでしょ。せっかくこれだけがんになっても、明日、交通事故で死ぬかも知れない。だから、「がんだ、がんだと、あまり考えないほうがいいじゃない?」って言ってるんです。「これ食べちゃダメ、あれ食べちゃダメ」と言うより、好きな美味しいものを少しずつ食べたほうがいいと思うの。
鎌田 天然キャラかも知れないけど、大空さんは何ごとにもこだわらず、恬淡と生きてますよね。
大空 何なんでしょうね。カッコイイということがわからない。このまま等身大の生き方をすればいいと。突きつめないんですね。靴を左右逆に履いて多少痛くても、そのまま履いていたいんです(笑)。
鎌田 だから、がんになってもラクなんだ。『大空眞弓、「多重がん」撃退中』(宝島社)の中に、“玉子葬”の話が出てきますね。これには笑いました。大空さんの葬式のときは、茹で玉子か蒸し玉子を持って行くんですね(笑)。
大空 そう。私は病弱の子どもの頃から、玉子のお世話になりました。それで、心を込めて茹でたり、蒸したりした玉子を祭壇の前に置き、そこで献玉をやり、拝んだ後、前の人が置いていった玉子をお持ち帰りいただく玉子葬にしたいんです(笑)。
鎌田 そのときに、お浄め用にこだわりの塩を渡す。
大空 いま考えているのは、沖縄の黄色いウコンの塩がいいかなと。
鎌田 葬儀の参列者は、家に帰ってから、お浄めのウコンの塩で茹で玉子を食べる(笑)。
大空 「あぁ、私の前に拝んだ人は、なかなかいい玉子を買ってるじゃないの」。ちゃんと見てますよ(笑)。
乳がんを克服するには夫婦間のフォローが大事
鎌田 面白いねぇ。ひと晩にブランデー1本空けていた酒豪が、ピッタリとやめたとか。
大空 先生は「やめなさい」ではなく、「適当にね」と言われたんです。でも、私、適当に飲むのはイヤなんです。だからやめました。いまはノンアルコールビール1缶も飲めません。
鎌田 そこにも大空流の生きざまがある。最後に、読者のがん患者さんやそのご家族に、がんと闘うヒントを。
大空 今日のことは今日で終わらせる、ということですね。細かいことを気にせずに、自分に合った生き方で日々を過ごしていれば、自然に良くなるんじゃないでしょうか。それと、夫婦間のフォローが大事だと思います。例えば、奥さんが乳がんで全摘手術が必要になった場合、旦那さんに気兼ねして手術をせず、いのちを縮めるようなことになってほしくない。旦那さんが奥さんに対し、「僕は君の人間性を信頼し、人間として愛しているから、全摘なんてどうってことはないよ」と声を掛け、励ますぐらいのフォローをしてほしい。そうすれば、どれほど奥さんが楽か。私、それだけは男の人たちにお願いする。
鎌田 ふだんの気分転換は?
大空 2匹の犬と遊ぶことかなぁ。
鎌田 ペットと遊ぶと、オキシトシンという幸せホルモンが多く分泌されますから、生きる力になりますよ。きょうは、大空さんが多重がんを撃退された秘密がわかったような気がします。読者の皆さんもパワーをいただけたでしょう。ありがとうございました。
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