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最後まで「負けないぞ」という気持ちで、死んでいきたい シリーズ対談・田原節子のもっと聞きたい ゲスト・絵門ゆう子さん
自分で納得して死にたい
絵門 恨んだり、疑ったり、自分の死を誰かのせいにしたくないの。納得して死にたいと思うのです。
抗がん剤の治療は、専門家に主導権を委ねなければならないですよね。でも玄米とか断食とかであれば、自分の範疇でできそうだと。草の粉を練ったものを胸に貼ってみて、膿が出てきたというと、何か分かる気がする。
田原 自然に膿が出るというのは“からだの不思議”とくくって、許容できちゃう。で、それは実際にはどうだったんですか。
絵門 その緑の草の粉を塗ると、乳房のまわりに蛸の吸出しみたいな穴がいくつも開いてしまって、これが痛くて、痛くて。そのなかから、白い膿がたくさん出てきて、これはがんだから出るんだって。それが4カ月間出続ければ、膿が止まって乳がんは完治してますよって言われて、信じてやっていました。
田原 それで?
絵門 しこりの中に穴があいてグジャグジャになってしまったんです。聖路加に入院したときには、まず皮膚科の先生に診てもらって軟膏を塗ってもらいました。
そのうちホルモン剤を投与すると、グジャグジャだったのが、どんどんしぼんできて、今は真っ平らですね。でも手術した人みたいにキレイではなくて、ブツブツと言うかケロイド状というか。まるで、自分で手術でもしたみたいな。
痛みとは、身体が反応するメッセージ
田原 最近は、西洋医学でも患者がいやがる暴力的な治療が、だいぶ反省されてきたなって感じませんか?
絵門 そうですね。今なら母だって生きていたかもしれない。
田原 最初は外科的な手術が多いけれど、今は内科的な治療、放射線の治療とかいろいろな選択肢が増えましたよね。
そういう意味では、以前よりずっと恵まれていると思います。患者数も増えているから、データも増えて研究も進んできているし。
絵門 本当にそうですね。今の私のパートナーは、タキソール(一般名パクリタキセル)。タキソール様様です。
田原 以前は私も1年間、タキソール様様だったんです。でもその蜜月は、どこかで終わるの。少しでも蜜月が長く続くように祈るばかりですね。今、私自身は次の恋人を探してトボトボと歩いているから、ゆう子さんも効く薬に出合えている喜びを大事にしてほしいと思います。
絵門 本当にそうですね。ただ痛み止めに関しては別です。私は、痛みとはメッセージだ、と思っているので、薬で痛みをとってしまったら、どこまで治ったか分からないじゃないと思うの。とくに首の骨が折れてい��と知ってからは、痛みを止めてしまったら、いけない動きをしてさらに悪化したらどうしよう、という恐怖でした。
田原 私も同感です。ただ痛いのを我慢するのではないけれど、それでもよっぽど痛くない限りは薬を入れたくないと思っています。
一緒にできることを一緒に楽しむ時間が大切
絵門 中村先生は「がんであることを忘れていられる時間を、どれだけつくれるかが勝負だよ」っておっしゃったの。すごく納得して、だから次に先生に会う日までどれだけ忘れていられるか考えているうちに、朗読したり、いろいろな活動をやるようになったんです。そうしたら、ますます元気になって。“もう、がんを追いかけ回すのはやめよう”と。
そうすればがんも注目されなくなって、ひっそりとしぼんでくれるかもしれない。
田原 病人である時間と病人でない時間があって、今、私たちは病気の話をしているけど、病人でない時間を過ごしてるでしょ。それが大事ですよね。
絵門 がんのフォーラムに参加しているときも、病人じゃない時間ですね。
いつまたあの苦しみが来るかもしれないと思うと、“今日を楽しく過ごさないともったいない”と思うようになりました。
田原 でもまわりが気にするでしょう。
絵門 心配はありがた迷惑なだけ。それよりも「私と一緒に喜んでください。楽しんでください」って言うんです。だから自分も人に対して、そうありたい。あなたを心配はしない。そのかわり「一緒にやることを探そう」って。
誰もがそうなれば、がん患者の生存率は、すごく上がると思うんですけど。
死を受け入れる役割を押し付けられたくない!

田原 そう言う意味では、今のホスピスの考え方には疑問も感じますね。
絵門 「ホスピス・イコール・ターミナルケア」になりがちなんですよね。緩和治療だけで、免疫力が高まって元気になる人もいますからね。「ホスピス」という言葉のイメージがすごく悪いので、明日がある「アスピス」にしたらと言ったら、すごくうけて、アスピス実行委員会をつくろうかと……。
田原 そうなのよね。安らかに死を迎えるための素敵な音楽と、きれいな壁紙と、そこには絵が掛けられていて、なんて、なんかお葬式の準備段階みたいですよね。
絵門 元気な人が、勝手に死に向かう人のイメージをつくって、その役割を演じさせて、「さあ、死を受け入れる人になりなさい」って。「だったら、あなたが主人公になってみなさいよ」って言いたくなる。
田原 その通りね。
絵門 飼っていた犬が死んでいく様子を見たとき、“ぎりぎりまで生きていこうとしながらも死んでいくさまは、死を受け入れることよりももっと美しい”と感じたんです。最後まで“生きるぞ、負けないぞ“という気持ちで、死んでいきたいと思うんです。そう思っていると、意外と奇跡が起こるんじゃないかなって。死を受け入れてしまった瞬間から、その人の意図する時間ではなくなりますよね。まわりも演出して、死に向かわせているんじゃないかと思う。
田原 中村先生は、“患者と向き合うドクターを増やすこと、乳がんの専門医を増やすこと”が自分たちの使命だとおっしゃっていますよね。
絵門 そうですね。あの西洋医療を拒否して、全身に転移させていた壮絶な苦しみから脱した元気な私がいる、という事実を大事にして欲しいと思うんです。
最初に中村先生に診ていただいたときから、余命だとか、リミットがあるだとか、そういう希望を失うような言葉は一つも聞かされなかった。だから今の私がいる、と思う。
朝が来るのが嬉しくてたまらない。朝が来て、手が動く、足が動く、それが喜びなんです。全身不随になってもおかしくない首なのに、って思うと。
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