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最後まで「負けないぞ」という気持ちで、死んでいきたい シリーズ対談・田原節子のもっと聞きたい ゲスト・絵門ゆう子さん
言葉ではなく、たしかに支えられているという実感


自作の創作童話を
演奏家たちとのコラボレーションで
朗読中の絵門ゆう子さん
田原 「あなたは強いですね」ってよく言われるでしょ。
絵門 強いとは思いませんけど、能天気なだけかな。つまり能天気にできる強さがある、ということかもしれませんね。
田原 「強いですね」と言われるのは頭にくるけど、強くありたいとは思う。
「お元気ですね」って言われると、「そうでもないよ」って言い返したくなるのね。
絵門 元気なことが意外だ、という前提で言われるからかな。
田原 そうかもしれない。ほかにも「退院おめでとう。よかったですね」という言い方ね。つまり、病気が治ったと思われるのがいやですね。これは矛盾しているんですが、元気であると振る舞いながら、多少無理もしているから元気だと言われると、微妙な気持ちになる。
絵門 複雑な心理ですよね。最近、「早期発見・早期治療」と言われて、「私は落ちこぼれか!」って頭にくるんです。「早期発見じゃなくても、打つ手はいっぱいあるんだ」というほうが、みんなにとって希望になると思うのに。
田原 言葉とかではなく、支えられているんだなあという感覚。それなのに水戸黄門の印籠をかざして「私は病人なんだっ」って言って、「私はがん患者なのよ。忘れてないでしょうねっ」なんてね。
絵門 あちこちと飛び回って、掃除もしないから部屋がほこりだらけになって、「掃除機かける暇なんかないのよ」って私が言うと、夫は「俺のほうが、ほこりで先に死ぬ」ってそう言うんですよ。
田原 それは、それは。配偶者に先に死なれると、私はちょっと困る(笑)。
絵門 私もがんになったのが自分で本当によかった、と思っているんです。
田原 本当は、体の弱い夫が先に逝くはずだった。でも私が病気になったら、全然病院に足を踏み入れない、病気であることを言わなくなったんです。私が彼の“病人になれる幸せ”を奪ってしまった。
本当なら、私が看病をして車いすを押すはずだったのが、反対になってしまって申し訳ないなあ、と思いますね。
どんなときでも、大丈夫と信じて生きていく

がんでない時間をいかに多く持つか。
それが勝負の分かれめ、とおふたり
絵門 最初にがんが見つかってから、全身に転移するまでの1年2カ月は、今でも私にとっての本質だと思っています。今はタキソールという補助輪がついていなければ走れない自転車に乗ってるけど、“いつかは補助輪をはずしてみせるぞ、自分の身体でがん細胞をつくらない患者になってやるぞ”という願望が強いんです。
いろいろやった民間療法の中にはいいものもあって、それをエビデンスがないからと排除するのではなく、抗がん剤の副作用のサポートに入れてみようとか、お医者さまにはそういう柔軟な考えをして欲しいと思いますね。
田原 やっぱり生に対する強い希望をもっているんですね。
私は、がんという病気は、死というものがいつも隣り合わせにあると思ってしまうのね。
絵門 私はそうは思わない。どんな常識も私には当てはまらないと考えているんです。だからがん患者だからといって、寿命が短くなるだろうとかもまったく思わないんです。
田原 民間療法でがんが消えちゃった、とかいうのは、何万人に一人かもしれないけど、ないわけではない。最後まで希望を持ちたいという、ゆう子さんの考えもよく分かります。今、がん患者の仲間に言いたいことはありますか?
絵門 がんに関しては、何が起こるか分からないのだから、どんな究極の症状になっても大丈夫、たとえ1秒後に死ぬと思っていても、それでも周囲は、まだ大丈夫、と言っていればいいじゃない、というのが私の考えです。
「この人はあと1秒後に息を引き取るな」というときにも「ダメなんてことないよ」っていう中村先生がいて、最後の最後まで「大丈夫」しか言わない夫がいて、「ご臨終です」の声が聞こえる、という設定で送られたいのです。向こうに行くときにも、元気で向いたい。
田原 私も似ているかもしれない。たとえ死の間際になって、私が何も表現できなくなっていても、先生には「こういう方法があるんだけど、どっちを選びたい?」って相談してほしいって、お願いしてあるの。誰もダメだという判断をしないで、私に向ってどうしようかと尋ねると、私は「ごめんね。これでもうさよならね」というように死にたいの。
そして中村先生は、きっと私たちの希望に応えてくださる先生です。
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