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「この病気と闘うぞ。絶対勝つぞ」 “根拠なき成功への確信” がありました 前宮城県知事・浅野史郎 × 鎌田 實
絶対に勝つぞだから支援してくれ

命の恩人の奥さんとは「仕事のことで毎日喧嘩をしてます。でも私のことを心配してくれているからこその苦言なので私の連戦連敗です」(笑)と話す浅野さんに「奥さんの言うことは聞くべきだ」と論す鎌田さん
鎌田 その苦しいときでも、絶対に治ると思えた?
浅野 最初に急性転化を告知された瞬間は、正直、目の前が真っ暗になりました。しかし、その1時間後、妻と喫茶店に行き、妻に「俺はこの病気と闘うぞ。絶対勝つぞ。だから支援してくれ」と言ったら、すうーっと怖ろしさがなくなり、完全に闘病モードになった。
鎌田 誰かに自分の闘病の決意を言うとラクになる。言葉に出すことは大事ですね。
浅野 私の場合、自然に言葉が出てきた。こう言ったらラクになるだろう、と思って言ったのではありません。言ってみたら、オッと思うほど不安がなくなり、ホッとしたんです。
鎌田 告知からわずか1時間後にラクになった。
浅野 その「闘うぞ! 勝つぞ!」という言葉は、私の楽天主義が言わせたのではありません。決意表明でもありません。いちばん近いのは「予言」だと思います。別の言葉で言えば、「根拠なき成功への確信」です。
いずれにしても、私の場合、病気と闘って勝つこと以外、余計なことは何も考えませんでした。病気から生還して、やり残した仕事をするぞとか、絶対こういうことをやるぞとか、そういうことが私には全然ないんです。普通、そういう夢や希望を持つと、病気と闘うエネルギーになると言いますが、私にはもともとそういうものがない。
運命は向こうからやって来る
鎌田 知事時代、よく「夢」と言ってなかったですか。
浅野 いや、夢を持ち、それを実現するために努力する、という人生観は私にはありませんよ。行き当たりばったり(笑)。私はそれは運命だと思っています。運命は向こうからやって来る。宮城県知事になったのも、た��たま前の知事がゼネコン汚職で辞めて、故郷が汚されていると思ったから、誰かがやらなければと思って決断したことです。私の人生は、“山のあなたの空遠くに”ある幸いを追い求めてきた人生ではありません。
鎌田 結構、割り切っている部分があるんだ。
浅野 人生観、死生観ってほどのものじゃないけれど、そのいい加減さが私にとって良かったんです。余計なことを考えず、闘病に集中できた。自分が今やるべきことは、この病気に勝つこと。それだけしか考えない。それが私に精神的な安定性をもたらしている。だから闘病が苦にならない。闘うことが楽しくなってくるわけです。
スポーツもそうだと思います。なでしこジャパンがアメリカと戦うときも、怖いとは思わない。楽しいと感じると思うんですよ。ATLは白血病の中でも最も強敵なんだと思い、闘うことに集中する。俺が今やることはこの病気に勝つことだけだと、闘病にベストを尽くしていると、日々が充実してくるんです。
鎌田 自分の今後の闘病の物語がしっかり描けていればいい、ということですね。
浅野 私の高校の同級生に、仙台厚生病院の理事長で、心臓内科の権威の目黒泰一郎医師がいます。私が告知された直後、彼と電話で話したんですが、そのとき彼が、「これは闘い甲斐があるぞ。しかも勝てる闘いだ」と言いました。先ほどの「根拠なき成功への確信」は、私の心の中の問題ですが、彼の言葉はドクターの客観的な言葉です。ものすごく力になりました。
仕事のハードルめぐり夫婦喧嘩の毎日
鎌田 浅野さんも今は大変元気になられて、いろいろ仕事にも復帰されていますよね。
浅野 大学(慶応大)は2011年5月から復帰していますし、講演活動もぼちぼちやっています。
しかし、以前と比べたら、仕事の量は10分の1です。妻は私の命の恩人みたいな存在で、ホントに感謝していますが、実は、仕事に関しては、毎日夫婦喧嘩をしてます(笑)。
というのは、私は現在は治った状態ですが、風邪などが引き金になって、合併症が出る可能性がないわけではない。医師からも「無理をしてはいけない」って言われているし、自分でもそう思っている。しかし、「無理」の基準が、妻は私よりはるかに低いんです。
私は妻よりハードルを高めに設定していますから、妻の低いハードルとの間にグレーゾーンが生じるわけです。例えば、月に3回までの講演は認めてくれますが、4回目はダメだとかね。「3回目が良くて、なぜ4回目がダメなんだ!」などと、毎日喧嘩です(笑)。
鎌田 奥さんの懸命なサポートでここまで治ったんだから、ここは奥さんの言うことを聞いたほうがいいのでは(笑)。
浅野 いま64歳ですから、完全リタイアにはまだ早すぎる。病気が治ったんだから、もう少し世の中のために働きたい。それを止められたら、「俺の人生って何なんだ!」という気にもなりますよ(笑)。時々「出るとこへ出ようじゃないか!」と言って主治医に受診の際に、「先生、どっちが正しいのか、決めてください」と持ちかけています。妻は、私が憎らしくて意見をしているのではなく、私のことを心配しているからこその苦言ということを私も理解していますから、妻との喧嘩は連戦連敗です(笑)。
鎌田 まあ、しばらくはあまりストレスをためないで、奥さんの言うことを聞くべきだ、と私は思いますね。さすが強気の浅野史郎。難病をねじ伏せそうですね。
「根拠なき予言」っていっていいです。「治る」と思った人の勝ちです。今日はいいヒントをいただきました。
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