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必ずメキシコの砂漠を走ってやるという目標が精神的支えになりました 作家/映像ディレクター・戸井十月 × 鎌田 實
嫌な思いをしたことがない聖路加病院のおもてなし

「戸井さんはいまだにやんちゃな不良少年だからうらやましい」と話す不良少年になれていない鎌田さん(右)とずっと″不良少年″の戸井さん
鎌田 またどこかのレースへの出場を考えているんですか。
戸井 いやぁ、この前のような苛酷なレースは、さすがにちょっとね。がんを乗り越えても、そこで死んだらホントに笑われますからね(笑)。しかし、旅をやらなかったら、自分の人生じゃなくなるし、たとえがんがあっても、世界に出て行くことは止めないでしょうね。
鎌田 今もオートバイは乗ってるの。
戸井 乗ってますよ。聖路加の人にはあきれられるけどね(笑)。でも、私みたいに病気のことなど考えたこともなく、友人のお見舞いに行くことしかなかったような健康優良児が、1年半前に突然、お見舞いされる立場になったわけですが、病院・医療スタッフの意味、ありがたさというものを、身にしみて感じました。私はがんとわかったとき、聖路加病院理事長の日野原重明さんや鎌田さんの顔が思い浮かびました。ただ、鎌田さんの病院はちょっと遠いし、NHKのプロデューサーだった日野原さんの息子さんが私の仕事仲間という関係で、聖路加にお世話になったわけです。
聖路加はホントにいい病院で、この1年半、嫌な思いをしたことは1度もありませんよ。医師、看護師、薬剤師の方々はもちろん、受付から掃除の人たちまで、日野原理事長のヒューマニズムが徹底されています。まさにホスピタルとしてのおもてなしの心が、末端まで徹底されている。
鎌田 病院それぞれ独特の空気はありますね。
戸井 「診てやるからありがたく思え」という感じの病院もありますよ。患者を何時間も待たせて、「お待たせして済みませんね」の一言もない。そりゃ先生も看護師も次から次へ診察するわけですから大変なことはわかりますよ。しかし、「診てもらえるだけで、ありがたいと思え」という感じの、旧態依然とした病院には行きたくないですよ。
鎌田 その点、聖路加はオープンマインドですからね。戸井さんは恵まれています。
戸井 がんになって嫌だな思う気持ちがもちろんありますが、聖路加にお世話になったことも含めて、がんになって良かったと思う面もありますね。これまでは健康が当たり前だと傲慢に考えていた。しかし、がんになり、聖路加のスタッフの皆さんとお付き合いするようになって、落ち込んだことは1度もありませんよ。まだ、この先時間はかかるかもしれないけれど、ホントにいい経験をしていると思っているんです。元気なころに、オートバイによる5大陸走破を成し遂げ、次は何をやろうかと考えていたときに、がんになった。人生、上手くできてると思いますね(笑)。
病院側と患者側は人間同士の信頼感を
鎌田 作家・戸井十月として、この闘病の記録を世に問うことは?
戸井 闘病記録は結構克明に付けています。がんから本当に生還できそうだということになったら、書くかもしれない。ただ、がんを売り物にした単なる闘病記は書くつもりはありません。私などよりもっともっと壮絶な闘いをされた人が、いっぱいいらっしゃるわけですから。
私はもともと、医療の素人ががんになって、あわててがんの本を読んだり、ネットで調べたりすることには反対なんです。だから、一度決めたら聖路加にすべてお任せしたわけです。がんになったとき決めたのは、がんを売り物にしないということと、情報に振り回されないということでした。そのかわり、専門家に徹底して聞く。そして、病院・医師側と患者側が、人間と人間としてサポートし合うことがホントの医療だということを、聖路加で教えてもらったわけです。
鎌田 最初に病院でひどい対応をされると、その後の治療もぎくしゃくしますよね。主治医と患者さんが徹底して話し、お互いに人間同士として信頼し合うことが不可欠です。
戸井 そのことは医療だけではなく、別の仕事でも同じじゃないかと思いますね。
鎌田 私は『言葉で治療する』(朝日新聞出版)という本を出していますが、まさにそういう視点です。医師や看護師のほんの小さな一言が、患者さんにとっていかに大切かということです。戸井さんは日野原先生にも診てもらったんですか。
戸井 初めて入院したとき、白衣に聴診器姿で病室に来られました。「戸井さん、大丈夫ですよ。仕事をどんどんしてもらわなくては。病気は大丈夫です」と言われ、聴診器で診てもらいました。そして若い医師たちに私の肺の音を聴かせて、「これが肺がんだけど元気な人の音です。きれいな音でしょ」と教えておられましたよ。私、その言葉に救われましたよ。医療者にとって大事なことは技術の提供だけではなく、人としての接し方だと感じ入りました。
鎌田 いい話ですね。戸井さんにはがんを克服して、これからも中高年の不良少年の鏡として活動を続けてほしいと思います。ありがとうございました。
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