きちんと疑問点をはっきりさせてから相談を受けることが大切夜の酒場でセカンドオピニオン ~わたしの場合~
医師の有無を言わせぬ迫力にただただ圧倒
翌週の水曜日、わたしはT医科大学病院の耳鼻咽喉科でY教授の診察を受けました。最初にがんと診断されたS医科大学の検査情報一式を提出したところ、Y教授はわたしのほうを見ることなく、すぐに看護師に向かって今週の金曜日にPET(ポジトロン断層法)検査ができる所を至急探すように指示しました。看護師がもたもたしていると、叱りとばします。わたしが病状について聞くような隙などとてもありません。そのうち、わたしのほうを向いて椅子を進め、鼻から内視鏡を入れて「いーっと言って」と指示して写真を撮りました。そして、「鼻の奥にがんがあれば治りません」とはっきりと言いました。わたしはおずおずと治療はしていただけるのでしょうかと尋ねると、教授は「どんな状態であろうと治療はします」と今度はきっぱりと言い、「金曜日の午前中に新横浜でPET検査をし、その足でH市の医療センターに入院して下さい」と命じました。
わたしは、Y教授の有無を言わせぬ迫力に、PET検査がどういうものか、治らないというのはどういう意味か聞かず、思わず「はい」と答えたのでした。
Y教授は「抗がん剤TS-1カプセル(一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)を処方しますので朝夕3錠飲むように。ただし飲み忘れたからといっていっぺんに6錠飲まないように。飲んだら死んでしまいますから」と真面目な顔で言いました。
入院する日に初めて具体的な治療方針を知る
そして金曜日、新横浜のYクリニックでPET検査を受けた後、T医科大学の医療センターに入院、すぐにY教授の診察を受けました。
Y教授はまた内視鏡で鼻から喉を診てから、女房が同席のもと治療方針について説明してくれました。やっかいな場所にできたがんで、手術をすると声帯や食道の一部も取り除かなければならず、障害者3級になってしまうこと。年齢を考えると、まずは化学療法〔抗がん剤はタキソテール(一般名ドセキタル)/シスプラチン(一般名)/5-FU(一般名フルオロウラシル)〕と放射線照射とで最低8週間入院。それでも治る確率は30パーセントで、途中から手術に切り替える可能性もあるとのこと。説明内容を書いた用紙には、治療に伴う副作用が細かく書かれています。わたしは入院するこの日になってはじめて具体的な治療方針を教えられたのです。
Y教授はダメを押すように、こう言いました。
「手術じゃないからと安心してはいけません。ある作家の方は、放射線治療の最後のほうになると喉に焼け火箸���当てられるようだと表現したほどです」
その後、MRI(核磁気共鳴画像法)とCT(コンピュータ断層撮影装置)を撮るように指示されました。Y教授は食道の内視鏡検査もしようとしましたが、時間的に内視鏡の医師がいないため、月曜日に回さざるを得ませんでした。Y教授は、相当せっかちな性格のようです。
セカンドオピニオンは安易に親しい医師に頼まない!
こうしてわたしは入院、翌週から治療になだれ込むことになるのですが、いま振り返ってみると、わたしのセカンドオピニオンは事実上、夜の酒場でK医師への相談ということになります。下咽頭がんのセカンドオピニオンを対応する科には、放射線科の医師も入っているので決してお門違いというわけではありませんが、セカンドオピニオンの本来の目的からは全くずれたものになりました。つまり、治療方針に対する納得どころか、逆に錯乱と疑心のうちに終わったからです。
反省点はいくつもありますが、その1番は軽い気持ちで親しい医師に相談したことでしょう。前回書いたように、セカンドオピニオンはがんを告知されてから冷静になって自分で治療などについて調べる期間が必要とアドバイスされましたが、わたしの場合、自分で調べることもせず、安易に相談といった方向にいってしまいました。いくら親しい医師だからといって、突きつけられる現実は厳しいものです。セカンドオピニオンはやはりある程度、距離が置ける人間関係で受けたほうがいいようです。ましてや、酒場でのセカンドオピニオンは絶対すべきでないというのがわたしの実感です。
紹介された耳鼻咽喉科のY教授は質問の隙も与えないほど断定的で、どちらかというと話しかけにくい性格だったことも治療に対する理解を深めにくいものにさせたように思います。
前述の佐々木常雄さんは、こう言っています。
「今は医師にすべてを任せなさいという時代ではありません。だけど医師の中にもしゃべりやすい人もいれば、しゃべりにくい人もいますから。疑問があったら、そしてどうしても相性が合わず、がんばっても疑問を聞けないようなら、セカンドオピニオンを申し出ることです」
こうしたアドバイスを知っていれば、わたしのセカンドオピニオンはもっと違ったものになっていたでしょう。
ただ、Y教授の有無を言わせぬ断定的な指示で受けたPET検査は、わたしに不幸中の幸いをもたらすことになります。
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