何でこんなに検査を受けるの?と思っても……不幸中の幸いをもたらしたPET検査
全身のがんを調べられるPET検査
では、わたしに幸をもたらしたPET検査は、どういう仕組みで行われるのでしょう。
獨協医科大学病院PETセンター長の村上康二さんはこう説明してくれました。
「CTもMRIも、どちらもがん細胞を形としてとらえますが、PETは体の中から出てくる放射線を細胞の機能として画像でとらえるものです」
がん細胞はエネルギー消費が激しく、患者さんにFDGというブドウ糖に微量の放射性物質を結びつけた薬剤を注射すると、正常な細胞に比べてエネルギー源となるブドウ糖を3~20倍多く細胞内に取り込みます。この性質を利用し、全身をPETカメラで撮影すると、全身の中でがん細胞の存在が疑われる所には薬剤が多く集まって放射線が強く出てくるので、明るく光って見えます。つまり、そこはがん細胞が活発にブドウ糖を取り込んでいると考えられるわけです。1回の検査でほぼ全身を調べられ、検査しようと思っていない部分にもがんが見つかることもあります。ただ、光る箇所はボーっとしていてがんの位置を特定することが難しいため、CTと組み合わせて検査することも多いそうです。わたしの場合もPET-CT検査でした。
検査は次のように進みます。検査5時間前から絶食です。次に質問用紙に必要事項を書いてから医師と面談、血液採取して、FDGという検査液を注射されます。別室で1時間ただじっと安静にしますが、これはがん細胞がブドウ糖を取り込むのを待つためです。排尿後、トンネル状になったPETカメラの中に寝て撮影です。検査台がスライドして全身に分布したFDGから放出される放射線を体外から30分ほどかけて撮影します。FDGから放出される放射線は時間とともに減るので、撮影後は十分に減るまで約30分ほど待機して終了です。すべて含めると2時間ほどかかります。
PET検査は万能ではない
この検査で、わたしの場合は上咽頭のがんはセーフでしたが、大腸にがんが重複していることが判明したのです。このように、PET検査では短時間、かつ1回でほぼ全身を調べられ、再発転移もわかるため、2000年代前半に「夢の検診法」と脚光を浴びました。しかし、06年にPETは、がんの多くを見落とすという新聞報道があり、ブームはしぼんでしまいました。
「PET検査は万能ではありません。不得手のがんがあります。消化管粘膜に発生する早期のがんや、正常でもFDGが集まりやすい泌尿器科系や脳、心臓、肝臓などに発生したがん、胆道がん、白血病などは発見や判定が難しいのです」と村上さんは説明します。保険が適用されるのは、PET検査が得手とする次のがんです。肺がん、乳がん、大腸がん、頭頸部がん、脳腫瘍、膵がん、悪性リンパ腫、転移性肝がん、原発不明がん、悪性黒色腫、食道がん、子宮がん、卵巣がんの13種類です。
1センチに満たない小さながんを見落とすことも多いそうですが、これについて村上さんは次のように言います。
「がんは早期発見が原則ですが���大切なことは100パーセント治せる段階で見つけることです。仮に10ミリの段階で100パーセント治るがんであれば、1ミリのがんを見つけるために莫大なコストをかける必要はないわけです。PET検診は小さいがんを見つけると言うよりも、むしろいろいろな種類の、広い範囲のがんを見つけるものとお考え下さい」
気になるPETの費用ですが、保険適用の場合7万5000円(患者負担2万2500円)、PET-CTは8万6500円(患者負担2万5950円)です。保険適用がきかないがん検診の場合、10数万~20万円程度かかります。
CTとMRIの原理、違いと特性
では、PET検査の後におこなったCTとMRI検査はどういうものなのでしょうか。
「CTは体を透過したX線のデータをコンピュータで合成して画像をつくります。MRIは強い磁場におかれた体内の水素原子核が、特定の周波数の電波を吸収・放出する現象を利用してコンピュータで画像化します」(村上さん)
CTは、体のある断面部分をねらって360度からX線を照射し、そのデータをコンピュータで解析し、体の輪切り画像をつくる検査法です。X線のデータを集める作業は「スキャン」と呼ばれ、最近は検査時間が大幅に短縮(数10秒から数分程度)、その後の処理も早いため広範囲のスクリーニング検査に適しています。マルチスキャンの最新機器では、1ミリ単位でスキャンするので1人の患者から千枚以上もの画像が得られます。こうした膨大な画像から異常を読みとるわけですから、大変です。すべての画像を集中して見ることは不可能ですから、当然、がんがあると思われる所を集中して見ます。わたしの場合は、頸部から胸部にかけてのCTでしたので大腸がんはわからなかったのでしょうが、数分で終わるなら全身を写してくれればよかったのにとも思ってしまいます。
CTの画像はのっぺりしているため、造影剤を注射して撮影することが多いようですが、その点、MRIはコントラストに優れています。
MRIは、強い磁石を装備した筒状の装置の中に体を入れ、強い磁場に置かれた体内の細胞の原子核が吸収・放出する電波をコンピュータで画像化します。いわば、体の水素の原子核の密度を絵にするわけです。
撮影する場所は、機械の操作で自由に決められるので、断面が縦・横・斜めと自在に設定できます。ただ、MRIは機械の都合上、撮像範囲が限られ、広く撮像することはできません。
MRIは磁場をかけるたびに機械の振動音が発生するため、かなりやかましく、ヘッドフォンで防ぎます。
村上さんは、それぞれ使い分けについて教えてくれました。
「CTは高速に撮れて肺や消化器など動く臓器に強いのに対して、MRIは脳や肝臓・子宮など細胞がぎゅっとつまった臓器に適しています。CTで見つからないものが、MRIで見つかるケースもたくさんあります。いくつもの検査をすることで、確実性が上げられるのです」
1つの検査ですべてわかるものはないそうなので、がんが見つかったらいくつかの検査を重複してやる必要があるそうです。
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