ただし放射線治療の影響で耳下腺機能が低下、口の中がカラカラに抗がん剤+放射線治療で手術を回避、声も温存

監修●幡多政治 横浜市立大学大学院医学研究科放射線医学准教授
文●川本敏郎
イラスト●佐藤竹右衛門
発行:2010年9月
更新:2013年7月

点滴棒を引きずりながら放射線治療

抗がん剤の点滴が始まると同時に放射線治療もスタート、毎回午前10時に行くことになりました。

初日、予定の時間に放射線科に行くと、何かの都合で午後に再度呼ぶとのこと。午前中は、輸液ポンプは1つでしたが、午後になると2つ、しかも両方に充電用のコードをくっつけた状態で点滴棒を引きずり、1階の放射線科まで行きました。

治療室に行くと、細長い台に寝かされて白いネット状のマスクをかぶせられます。これで頭も顔も動きません。

顔面をかなり強く押さえつけるため、放射線照射が終わった後は、顔に網状の跡がついたほどです。

放射線治療は、ただ寝てじっとしているだけで、技師の操作で治療機器が前後だけでなく、左右に180度近く動いてそれぞれ30~40秒ずつ照射します。照射時はジーと音がするだけで、痛くもかゆくもありません。

放射線照射は1回当たり2グレイで、4週間(計20回)続けて治療し、2週間休んで再度2週間(計10回)照射、合計60グレイ照射するというのが当初の計画です。

この化学療法+放射線の同時併用治療は、集学的治療といい、咽頭がんの最新治療だそうです。

先の佃さんは、このように説明してくれました。

「これは機能温存をすると同時に、根治を目指す最新の治療法で、この内容の化学療法は全国で15施設くらいで行われています。放射線治療は総線量が増えれば効き目が増大するので、自分の施設の場合、T医科大学のように放射線照射の間隔を開けませんが、考え方は一緒です」

上・中・下咽頭がんなどを総称して頭頸部がんといいますが、ここにできたがんは、以前は手術が主流でした。

しかし手術をすると、首が変形したり、発声機能や嚥下機能が失われたり、また呼吸に関しても、のどに開けた永久の気管孔で行わなければならなかったりと、術後のQOL(生活の質)が極端に悪いため、早い時期から手術を避ける治療法が模索されていました。

放射線治療は扁平上皮がんにはある程度は効くのですが、単独では根治は難しいそうです。そこで、シスプラチン、5-FU、タキソテールという3剤同時併用投与のTPF療法が欧米で提唱されました。これをさらに日本人向けに改良したのが化学放射線療法で、根治を目指すことが可能なほど成績がよくなりました。もちろん、放射線を30~40グレイ当てた段階で途中評価して継続するか否か判断し、手術に切り替えることはあるそうです。

白血球数の低下と上昇に一喜一憂

化学療法と放射線治療を���用すると、さまざまな副作用があらわれます。なかでも白血球(好中球)数の低下は代表的なものです。専門的には骨髄抑制といいますが、その低下は著しいものがあります。

1コース目の抗がん剤投与が終わった翌日の4月27日、血液検査をしたところ、白血球数は2900まで低下、その日から白血球数を上げるアンサー皮下注(一般名Z-100原液)を打たれました。これは放射線治療のための注射で、週に2回打つそうです。

それでも白血球数の低下は抑えられず、4月30日には1610まで下がってしまいました。2000を割ると外泊許可が下りません。ゴールデンウィーク中は放射線治療がないので、外泊したいと思っていたわたしには、ショックでした。化学療法も放射線治療もないのに、病棟に留め置かれるとは……。

もちろん白血球数が低い状態のまま風邪など引いたら大変なことになるので、白血球のなかでも、とくに免疫に関与する好中球数を上げるグラン注射液(一般名フィルグラスチム)という皮下注射を3日連続打たれました。すると、5月2日には5700に上昇し、晴れて外泊許可が下りました。

好中球=白血球の一種で、細菌などの異物を処理し、生体を外敵から防いでいる

口の中がカラカラ、水が手放せなくなる

放射線の頸部への照射に対する副作用としては、口内乾燥が挙げられます。これは耳下腺が放射線照射で障害され、唾液の分泌が低下するために起きます。

唾液は1日に700~800ミリリットルも出て、絶えず口の中を湿らせ、口腔内の細菌の繁殖を防ぐなどの働きをしていますが、唾液は耳下腺、顎下腺、舌下腺から分泌されます。なかでも耳下腺が最大のもので、ここからはサラサラした水のような唾液が出ます。そこがたった7日の照射で破壊され、一旦やられると完全には元には戻りません。7回ほどの放射線照射では、がん細胞に変化はほとんど見られず、20回ぐらいの照射でようやく小さくなり始めるそうですが、耳下腺がやられるのはあっという間なのです。これがやられて唾液が出なくなると、口の中はカラカラになります。唾液による口内をぬらす働きがなくなるため、口内炎ができやすくなります。その予防に、オレンジ色のファンチンゾンとイソジンガーグルで毎食後、うがいをしなければなりません。

口の中がカラカラのため、以降、ペットボトルが手放せなくなりますが、それ以上に深刻な副作用が待っていました……。

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