難治性の再発・進行卵巣がんに 抗PD-1抗体薬を用いた新しい免疫療法

監修●濵西潤三 京都大学大学院医学研究科婦人科学産科学助教
取材・文●植田博美
発行:2015年4月
更新:2015年12月


有効性を医師治験で確認

表4 医師主導第Ⅱ(II)相治験の対象
(すべての条件に当てはまる患者さん)

表5 医師主導第Ⅱ(II)相治験での解析対象と
なった患者さん(18例)の背景

京都大学医学部附属病院産科婦人科では、2011年9月から、プラチナ製剤に耐性を持つ難治性の再発・進行卵巣がん患者に対して、抗PD-1抗体ニボルマブを用いた免疫療法の医師主導第Ⅱ(II)相治験を開始した。

対象は、卵巣がんに最も効果があるとされるプラチナ製剤に耐性があり、タキサン製剤を含む2種類以上の治療を受けたことのある、6カ月未満で再発した上皮性卵巣がん(卵管がん、腹膜がん含む)の患者さん20人(表4)。自己免疫疾患を持つ患者さんは除外した。

方法は、ヒト型に組み換えた抗PD-1抗体ニボルマブを、8週間1コースとして点滴投与(2週間毎に計4回)。先行している他がん種の臨床試験で、安全性・有効性に対する用量依存が見られなかったため、低用量群(体重1㎏あたり1㎎)と高用量群(同3㎎)に10人ずつ割り付けて投与した。8週間毎に画像評価を行い、病勢安定(SD)以上であれば最大6コース(1年間)投与した後、追跡・解析した。

主要評価項目は奏効率(RR:がんが縮小したり消滅したりする割合)。そのほか安全性、無増悪生存期間(PFS:がんが進行しない期間)、全生存期間(OS)、病勢コントロール率(DCR:がんが縮小または変わらない割合)も評価項目とした(2014年米国臨床腫瘍学会 [ASCO2014] 発表に基づく)。

解析対象となったのは18例(中間カットオフ値)で、年齢中央値は62歳。病期はステージⅠ(I)が2例、ステージⅢ(III)が13例、ステージⅣ(IV)が3例。がんタイプは漿液性腺がん14例、類内膜腺がん2例、明細胞腺がん2例という内訳で、4種類以上の治療を受けている人が11例だった(表5)。

腫瘍が完全消失した事例も

解析結果は、1㎎/㎏群10例において部分奏効(PR)1例、病勢安定2例。奏効率は10%、病勢コントロール率は30% だった。3㎎/㎏群8例では、完全奏効(CR)2例、病勢安定1例。奏効率は25%、病勢コントロール率は63%であった。全体(18例)では奏効率17%、病勢コントロール率44%となった。

安全性に関しては、因果関係が否定できない重篤な副作用を2例認めたが、いずれも改善している。従来の抗がん薬のような嘔気、嘔吐のようなQOL(生活の質)を低下させるような副作用は比較的少ない印象のようだ。

これらの結果から、濵西さんは「ニボルマブはプラチナ耐性の再発・進行卵巣がんに対して忍容性があると考えられ、新たな治療選択肢の1つとして期待できる」という。

企業提携を含めた研究開発も加速 今後の治療戦略が期待される

表6 PD-1(PD-L1)阻害薬の開発競争

(JNCI.2011)(Chin J Can 2014)

京都大学での第Ⅱ(II)相医師治験の新規登録は2014年3月に終了している。現在はニボルマブの効果予測や有効性・副作用のバイオマーカー探索も行われているという。

「今年は、メラノーマに対するニボルマブの販売開始から1年間の全例調査によって、多様な背景を持つ患者さんに対する治療効果と安全性が確認される予定です。その結果を受けて、さらに新しい治療標的となるがん種の探索や、併用療法を含めた新しい治療効果の増強を模索することが可能となります。

また新しい免疫チェックポイント阻害薬の開発などが進むと考えられ、それらの成果が順次報告され始めるのではないかと期待しています(表6、表7)。

私たちも卵巣がんへの適応拡大に向けた次の試験の準備に尽力していきます」と濵西さんは今後の展開について述べている。

表7 PD-1/PD-1リガンド(PD-L1、PD-L2)経路阻害薬の開発状況

BMS:Bristol-Myers Squibb GSK:GlaxoSmithKline
1 2

同じカテゴリーの最新記事