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免疫チェックポイント阻害薬登場で加速する肺がん領域のプレシジョンメディスン
1次治療で有効だった キイトルーダ
オプジーボに続き、新しい免疫チェックポイント阻害薬として、*キイトルーダが昨年(2016年)12月、進行再発・非小細胞肺がんへの適応追加が認められた(2017年1月現在、薬価は未収載)。
キイトルーダは、オプジーボと同じPD-1に対する抗体薬で、同じような働きでがん細胞を攻撃する。ただ、申請にあたって行われた臨床試験は、オプジーボの場合と少し異なり、とくに1次治療での有効性を調べる第Ⅲ相試験では、PD-L1高発現の患者を対象に、症例を絞り込んだ上で臨床試験が実施された。
「病期がⅣ期の非小細胞肺がん患者さんで、がん組織を調べて、PD-L1タンパクを発現しているがん細胞が50%以上の人だけを対象に試験は行われました。そして、1次治療において、プラチナ製剤を含む化学療法と、キイトルーダの単剤療法を比較したのです」
この試験によって、キイトルーダは有効性を証明することになった(表3)。無増悪生存期間(PFS)の中央値は、プラチナ製剤を含む化学療法群が6.0カ月なのに対し、キイトルーダ群は10.3カ月と大きく上回ったのである。
「オプジーボに関しても、これまでPD-L1の発現率が5%以上の未治療の患者さんを対象に、1次治療での有効性を調べる第Ⅲ相臨床試験が行われていますが、標準治療を上回ることはできませんでした。キイトルーダの臨床試験では、がん組織のPD-L1を調べ、50%以上発現している高発現症例という絞り込みを行っています。それが好成績につながったのではないかと考えられています」
これらの試験結果を受け、キイトルーダはPD-L1陽性の進行再発・非小細胞肺がん患者を対象に、1次治療から使用できる薬剤としてその有効性が認められている。
一方、オプジーボに関しても、PD-L1の発現率が、2次治療の成績に影響を及ぼすことがわかっている。非扁平上皮がんの場合、発現率が1%以上だと対象群(タキソテール群)より全生存期間は延長したが、発現率が1%未満では対照群とほぼ同様の結果だったのだ(扁平上皮がんでは、PD-L1発現率による両群間の差はなし)。
こうした結果を受けて、厚生労働省が昨年12月に作成したオプジーボ使用にあたっての「最適使用推進ガイドライン」(案)では、非扁平上皮がん患者の使用においては「PD-L1発現率も確認した上で、本剤の投与可否の判断をすることが望ましい」とされている。
*キイトルーダ=一般名ペムブロリズマブ

新薬の登場によって 治療は大きく変化する
免疫チェックポイント阻害薬が登場してきたことで、肺がんの治療は大きく変わろうとしている。
「最近、プレシジョンメディスンという言葉がよく使われるようになってきました。がん細胞が持っている遺伝子の情報やタンパク質の情報を調べ、最も適切な医療を提供していこうというものです。他のがん種と比べても、肺がんの治療では、この分野がかなり進んでいます。例えば、EGFR遺伝子やALK融合遺伝子を調べたり、PD-L1といったタンパク質を調べることによって、個々に合った適切な治療を行うことが可能になってきています」
まずはがん組織を調べ、EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子が陽性なら、1次治療では、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬やALKチロシンキナーゼ阻害薬を使用した治療が行われる。そして、両遺伝子が陰性だった場合、現時点では次のような治療方針が考えられるという。
「今後、キイトルーダが薬価収載され、臨床現場でも広く使用できるようになれば、がん組織のPD-L1を調べ、発現率が50%以上なら1次治療でキイトルーダを使用し、50%未満なら化学療法を行う、ということになると考えられています。1次治療で化学療法を行った場合、2次治療でオプジーボ又はキイトルーダを使用するという選択肢も考えられます」
治療体系にも大きな変化が見込まれそうだ。そして今後、第3の免疫チェックポイント阻害薬が出てくる可能性もあるという。抗PD-L1抗体医薬品であるatezolizumab(アテゾリズマブ)で、現在臨床試験が進んでおり、患者の期待も高まる。
「免疫チェックポイント阻害薬は期待される治療法ですが、有効な場合と全く無効な場合があり、そこが大きな課題となっています(図4)。治療成績を向上させるためにも、医療費を抑制するためにも、どのような人によく効くのかを、さらに明らかにしていく必要があるでしょう」
一方、有効だった場合には、その効果が長く持続する可能性に期待がもたれている。免疫チェックポイント阻害薬は悪性黒色腫(メラノーマ)の治療にも使用されているが、長期生存につながった症例が多く報告されているという。ただ、逆に言うと有効な場合、いつまで治療を続ければいいのかがまだ定まっていないとも言える。耐性が大きな問題だった従来の抗がん薬や分子標的薬と異なり、期待も膨らむ一方で、今後明らかにしていくべき課題も多いと言えるだろう。

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