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肺がんに4つ目の免疫チェックポイント阻害薬「イミフィンジ」登場! これからの肺がん治療は免疫療法が主役になる
イミフィンジの登場、免疫療法はフロントラインへ
昨年(2018年)末に大きく適応拡大された肺がん治療の免疫療法。肺がん治療に使える免疫チェックポイント阻害薬は、2次治療以降に適応のオプジーボ、1次治療から単剤、併用療法で使われるキイトルーダ、1次治療から併用療法で使われるテセントリク、そして2018年8月には、4剤目になる*イミフィンジが加わった。前述の3剤はすべてⅣ期の再発・進行肺がんに使われるが、新薬イミフィンジは、Ⅲ期の切除不能例で、標準治療である化学療法と放射線治療を終了した後に適応される。肺がんでは、初のⅢ期適用の免疫チェックポイント阻害薬だ。
化学療法、放射線治療を終えた後、42日以内に投与されるイミフィンジは、Ⅲ期の地固め療法的な位置づけと言ったらよいだろうか。4つの免疫チェックポイント阻害薬の中で唯一、服用期間が1年と定められていることが特記すべき特徴であり、Ⅳ期に使うキイトルーダなど他の免疫チェックポイント阻害薬との一番の違いだ。プラセボとの治験結果は、圧倒的にイミフィンジ服用のほうが無増悪期間(TTP)が長く、治験でも1年間で投与を終了した。
ちなみに、イミフィンジはPD-L1の発現の有無に関わらず使用可能。ヨーロッパではPD-L1発現が陰性の人には効果が乏しいとの理由で適応されないが、日本では使えるそうだ。実際の手応えを高橋さんに聞いてみた。
「私は、PD-L1が陰性でもイミフィンジを使ってよいと思います。プラセボとの比較試験であまり差が出なかったのは事実ですが、それは治験のデザインの問題であって、陰性でも効果は期待できると感じています」
今後、肺がんにおける免疫療法は、どのような存在になると予想されるだろうか。
「免疫療法をよりフロントラインヘ、という動きがさらに高まっていくと思います」と高橋さんは指摘する。
これまでは、主に2次治療以降に登場した免疫療法が、これからは1次治療から始まるようになる。ただし、1次治療で免疫療法を行った場合、その後に再発したとしても、今の段階では2次治療では免疫療法は使えないという。それでも最初から免疫療法をするのは、「1次治療が最も予後を大きく規定するので、初回にしっかり最大の効果を発揮する薬を使っていこう」という考え方によるそうだ。
フロントラインへ、という動きについて、別の視点からも高橋��んは言及した。
「いま数多く行っているⅡ期やⅢ期症例に対する治験は、手術後の術後化学療法の代わりに免疫療法、もしくは、術前化学療法の代わりに免疫療法を入れる、というものです。さらには、Ⅰ期と言えども予後(よご)の悪いタイプのものがあって、それらにも術前に免疫療法を入れる治験が走っています。今後は、さらに、免疫療法をフロントラインヘ持ってくる動きが高まるでしょうし、もう少ししたら、確実に早期がんでも進行がんでも、免疫療法が肺がん治療の主役になってくるはずです」
現時点でも、昨夏にイミフィンジが切除不能のⅢ期に適応されたことで、切除不能のⅢ期以降は、すでに免疫療法が主流になった。この先、治験が積み重ねられ、術後療法としてだけでなく、術前療法としても免疫療法が適応される日がきたら、肺がん治療はさらに大きく変わることは間違いない。
「免疫療法はがんが小さいときのほうが、効果があると言われています。今後、治験を経て、免疫療法が術前化学療法に取って代わったら、それに伴って、術後化学療法が消えるでしょう。つまり、免疫療法を行って、手術をして、おしまい。そんな日がそう遠くない将来やってくると思います」
EGFR遺伝子変異が陽性なら、1次治療がタグリッソ推奨に
ここで、話を分子標的薬へ戻そう。遺伝子検査でドライバー遺伝子変異が陽性と出て分子標的薬をした場合、いずれ必ず耐性となって再発することがどうにも懸念される。そのとき、2次治療として免疫療法はできるのだろうか。
答えは「イエス」と高橋さん。ただ、EGFR遺伝子変異といったドライバー遺伝子変異が陽性の場合、前述のように、遺伝子の傷がその1つだけという場合が多く、免疫療法が効きにくい傾向がある。つまり、分子標的薬が効く人は、免疫療法が効きにくい。
「免疫療法は、遺伝子に傷が多い人ほど、つまりがん抗原を多く露出(提示)している人ほど効きやすいのです。例えば、喫煙が原因で起きたがんは、たくさんの遺伝子に傷をつけていますから、免疫療法が効きやすいと言えます」
とはいえ、分子標的薬に耐性が出て再発した人を対象にした免疫チェックポイント阻害薬の治験も、現在、複数行われているそうだ。できないわけではないし、実際に効果がある場合もある。ただ、先述の理由から、効きにくい傾向があるので、現状では耐性後の再発時は化学療法に進むことが多い。
一方、分子標的薬治療においても、2018年には大きな動きがあった。EGFR遺伝子変異が陽性の場合、EGFR阻害薬としてのファーストラインが、イレッサ、タルセバ、ジオトリフのいずれか、というものから、タグリッソに変更されたのだ。
従来の1次治療はイレッサ、タルセバ、ジオトリフが並列にあり、それらに耐性が起きて再発したとき、耐性の原因となった遺伝子変異にT790Mが認められた場合にタグリッソが適応されていた。しかし、初回治療におけるイレッサとタグリッソの比較試験が行われたところ、2倍ほどの差をつけて圧倒的にタグリッソが無増悪期間(TTP)を延長したのだ。つまり、耐性になってからではなく、初回からタグリッソを使うことをガイドラインでも推奨するようになった。
さらにもう1つ、イレッサと化学療法の併用試験とイレッサ単独とを比較する治験も行われ、イレッサと化学療法併用のほうが、イレッサ単独の2倍ほど、つまりタグリッソと同程度にまで無増悪期間(TTP)を延長する結果となった。
これらの治験結果を受けて、EGFR遺伝子変異の初回治療として、これからはイレッサ単独ではなく、イレッサと化学療法の併用、もしくはタグリッソ単独を選ぶようになっていくだろう。さらにこの2つのうちどちらを選ぶべきかは、比較試験が行われていないので明確ではないが、イレッサと化学療法併用のほうが、耐性が来たときに、次にタグリッソを使えるという意味で選択肢を残せる利点があることを追記したい。
こうして見てくると、分子標的薬はそのメカニズム上、1~2年で必ず耐性が来て再発するという弱点が、どうにも致命的に思えてくる。分子標的薬のメカニズムについて、高橋さんはこう述べる。
「分子標的薬は、遺伝子変異の形にピッタリはまって増殖シグナルの発信を抑え込むわけですが、がん細胞は少しずつ構造を変えて分子標的薬がはまらなくなったり、もしくは、ピッタリはまってシグナルは遮断できているものの、がんが他のバイパス(迂回)シグナルを呼び込んで、活性化できるようになってしまうのです。それほどにがん細胞は賢いということです」
ちなみに、分子標的薬の後に免疫療法はあり得るが、免疫療法の後に分子標的薬は使えない。
「きつい副作用が出て、皆、間質性肺炎になってしまうのです。免疫のブレーキを外して免疫力を上げたところに、イレッサやタグリッソのような間質性肺炎を引き起こしやすい薬を入れることは大変危険です」と高橋さん。つまり、分子標的薬は1次治療で使うのが鉄則だ。
他科連携できる、総合的な診療体制が整っている病院を選ぼう
現在進行形で進化し続ける肺がん治療法を見てくると、やはり今後の肺がん治療の主役は、免疫療法と考えて間違いなさそうだ。
「分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬の違いを考えたとき、一番の違いは、分子標的薬はがん増殖シグナルを一時的に抑え込むだけですが、免疫療法を受けて奏効した人は、再発せずに何年も無増悪のまま過ごせている人が相当数います。これはⅣ期の肺がんが治癒したことを意味しているのです。オプジーボもまだ5年は追跡されていませんが、現時点で16~18%再発していない、つまり治癒したと考えられます」(図4)

切除不能のⅢ期とⅣ期については、たとえPD-L1の発現が低くても1次治療からキイトルーダを使うことができるようになり、さらにはPD-L1が発現していなくても、化学療法との併用によってキイトルーダやテセントリクを1次治療で使えるようになった。今はまだ承認されていないが、手術可能な症例について、術後の再発予防としての免疫療法の治験、さらには術前療法として免疫療法の治験が今いくつも進行中である。
「今は切除不能のⅢ期とⅣ期にしか使えない免疫療法ですが、今後はⅢ期の切除可能な症例や、さらにはⅠ期、Ⅱ期の術前療法としても入ってくるでしょう。近い将来、間違いなく、免疫療法なくして肺がん治療はできない時代が来ると思います」
そんな日が来れば、冒頭で述べた肺がんの死亡率も大きく低下していくだろう。そのカギは免疫療法が担っている。最後に高橋さんはこう締めくくった。
「治癒を期待できる免疫療法とはいえ、副作用はあります。昨年までは副作用の全容が見えず手探り状態に近かったところがありますが、ようやく明確に見えてきました。最も多い副作用は甲状腺機能低下。他にも、肝障害、Ⅰ型糖尿病、下垂体機能不全など多岐にわたります。今後の肺がん治療には、診療科を越えて、総合内科医的な視点が必要になってきます。重要なのは、他科との連携。肺がんといえども、呼吸器内科だけでなく、内分泌科、消化器科、皮膚科などと連携して1人の患者さんを診ていくという在り方が必須です。逆に言うと、患者さんには、がん治療を受ける際は他科連携のできる病院、総合的な診療体制が整っている病院を選んでほしいと思います」
【分子標的薬/EGFR阻害薬】 *イレッサ=一般名ゲフィチニブ *タルセバ=一般名エルロチニブ *ジオトリフ=一般名アファチニブ *タグリッソ=一般名オシメルチニブ
【分子標的薬/ALK阻害薬】 *ザーコリ=一般名クリゾチニブ *アレセンサ=一般名アレクチニブ *ジカディア=一般名セリチニブ *ローブレナ=一般名ロルナチニブ
【分子標的薬/ROS1阻害薬】 *ザーコリ=一般名クリゾチニブ
【分子標的薬/BRAF阻害薬】 *タフィンラー=一般名ダブラフェニブメシル酸塩 *メキニスト=一般名トラメチニブジメチルスルホキシド付加物
【免疫チェックポイント阻害薬】 *オプジーボ=一般名ニボルマブ *キイトルーダ=一般名ペムブロリズマブ *テセントリク=一般名アテゾリズマブ *イミフィンジ=一般名デュルバルマブ
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