免疫チェックポイント阻害薬と体幹部定位放射線治療(SBRT)併用への期待 アブスコパル効果により免疫放射線療法の効果が高まる⁉

監修●大西 洋 山梨大学大学院総合研究部放射線医学講座教授
取材・文●伊波達也
発行:2019年2月
更新:2019年2月


Ⅳ期の非小細胞肺がん患者の試験、安全性確保

大西さんたち山梨大学医学部附属病院では独自に、多発病巣のあるⅣ期肺がんの患者に対して、オプジーボを投与して、肺病巣にSBRT(定位放射線照射)を施行する臨床試験を6例に対し行った。治療の安全性を確かめる試験で、その安全性は担保できたと考えている。

「肺あるいは胸膜を含めて2カ所以上の病巣を有する非小細胞肺がんの患者さんに対して、オプジーボを2週間に1回の投与を1コースとして2コース行い、3コース目で肺に対するSBRT治療(12Gy[グレイ]×2回あるいは8Gy×3回)を行い、その後もオプジーボを合計で12コース(約6カ月間)になるまで投与するという試験を行いました。わずか6例ですので、その有効性についてまで語るのは時期尚早だとは思いますが、手応えは十分にあります。今後の試験につなげていけると思います」

今年(2019年)3月に東京で開かれる第32回日本放射線腫瘍学会/高精度放射線外部照射学学会で、その結果について明らかにするという。今後は、前述したとおり、SBRT併用の免疫応答増強効果についていかに証明していくかに尽きる(図3)。

「これからの課題は、呼吸器内科や腫瘍内科の先生に協力してもらいながら、臨床試験をうまくデザインしていくことです。今回私たちが実施したような、肺への直接の照射は、放射線肺臓炎という合併症の恐れがあるため、内科の先生にはなかなか理解してもらえない場合があるのです」

大規模国際試験では、照射をした場合には、確かに放射線肺臓炎は多く出る傾向にあるが、致死性については照射をしない場合との差は出ないというデータもある。そして、むしろ肺臓炎を発症した場合のほうが相乗効果で治療効果を増強し、予後(よご)が良いという報告もあるという。

「私たちの場合はわずか6例ですが、放射線肺臓炎については大きな問題はなさそうだということがわかりました。私たち放射線治療医としては、Ⅳ期の患者さんの何割かをこの方法で救えると考えていますし、Ⅲ期の患者さんについても有効性はあるはずだと思います。ただ���免疫チェックポイント阻害薬を使う場合に、どのタイミングで放射線照射すれば良いか、どの程度の線量が良いかといったことを、明らかにしていく必要があります」

参考情報 放射線肺臓炎|一般社団法人日本呼吸器学会

免疫放射線療法の今後は他科との協力がポイント

いずれにせよ、今後の課題は、呼吸器内科や腫瘍内科の医師とうまく協力して、最良の試験デザインによって臨床試験を進めることだと大西さんは繰り返す。

「放射線治療医と呼吸器内科医、腫瘍内科医が参加できる中間的な研究グループができると双方の意見交換がしやすく、風通しもよくなるのではないでしょうか。実際、免疫放射線療法に対する学会での合同シンポジウムなどは増えていますし、製薬会社も放射線治療と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法には興味を示しているところが増えています」

アブスコパル効果について明確に証明されれば、将来的には、SBRT治療よりもさらに威力や安全性の高い粒子線(陽子線/重粒子線)治療を採用することにより、強力なアブスコパル効果が期待できるかもしれない。

「現在の肺がんⅢ期の標準治療である化学放射線療法の抗がん薬は、シスプラチン、パラプラチン、タキソール、タキソテールの組合せですから、患者さんにとっては副作用などがつらくて大変だと思います。治療におけるQOL(生活の質)を良くして、治療効果も得られるという点では、放射線と免疫チェックポイント阻害薬を併用できる免疫放射線療法が必ず貢献できると信じています。そして、そうすれば、Ⅲ期やⅣ期の患者さんにとっては大きな福音になるはずです」

大西さんは、そう力強く結んだ。

ぜひ、肺がんⅢ期に対する免疫放射線療法の研究の発展と実臨床への普及を望みたい。

シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ パラプラチン=一般名カルボプラチン タキソール=一般名パクリタキセル タキソテール=一般名ドセタキセル

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