免疫チェックポイント阻害薬で完治の可能性も 腎がん薬物療法の主役は、分子標的薬から免疫チェックポイント阻害薬へ

監修●木村 剛 日本医科大学泌尿器科学教室准教授
取材・文●菊池亜希子
発行:2019年6月
更新:2019年6月


免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用も!

腎がんの薬物療法においては、現在、免疫チェックポイント阻害薬同士(オプジーボ+ヤーボイ)の併用療法のみならず、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用療法の試験も進んでいる。

その1つがバベンチオ(一般名アベルマブ)とインライタ(一般名アキシチニブ)の併用療法。未治療・進行腎細胞がん患者を対象に臨床試験が実施されており、現時点で、高リスク、中等度リスク、低リスク、すべてにおいて、さらにはPD-L1の発現状態に関わらず、無増悪生存期間(PFS)の中央値、奏効率ともに、併用療法群がスーテント群を上回る結果を出している。FDA(アメリカ食品医薬品局)は本年5月に承認。日本でも現在申請中で、今年中には承認される見通しだという。

さらに、キイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)とインライタの併用療法の臨床試験も実施され、こちらも併用療法群がスーテント群よりも全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)ともに延長し、奏効率(ORR)も良いとの結果を示した。PFS中央値は併用療法群15.1カ月、スーテント群11.1カ月。18カ月無増悪生存率は併用療法群41.1%、スーテント群32.9%。奏効率は併用療法群が59.3%、スーテント群が35.7%。こちらもFDAは本年5月に承認。日本でも今年中には承認される予定である。

治療法が増えることは喜ばしいが、手放しで喜べるわけではないそうだ。なぜならば、これら併用療法はすべて1次治療。最初から免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の両方を使ってしまうことで、再発したときの2次治療で使える薬が限られてしまうからだ。

1次治療でスーテント単独を選択していれば、再発してもオプジーボもインライタも使えるが、最初から免疫チェックポイント阻害薬のバベンチオやキイトルーダと分子標的薬のインライタを併用して使った上で再発した場合、別の免疫チェックポイント阻害薬はおろか、インライタも使えない。となると、スーテントやヴォトリエントが主たる選択肢であろう。実際、18カ月で60%は進行しているので次治療について前もって考えておかねばならないが、次治療としてどのくらいスーテントやヴォトリエントが有効かははっきりしていない。また、奏効例においても、どのくらいそれが持続するかも示されていない。この点についても注視する必要がある。

一方、「免疫チェックポイント阻害薬の後には、どの分子標的薬も使えるし、かつ効果が現われやすいのです」と木村さん。肺がんなど他臓器においても、免疫チェックポイント阻害薬の後の化学療法は効果が出やすいことが示されている。免疫チェックポイント阻害薬の後の分子標的薬の有効性についても多くの報告がある。

ここまでの話を精査すると、腎がんの薬物療法を受けることになったならば、1次治療としては、オプジーボ+ヤーボイの免疫チェックポイント阻害薬同士の併用療法から入るのが、現時点では賢明のようだ。

「中等度リスク以上ならば、1次治療でオプジーボ+ヤーボイの併用療法をするのが良いと思います。ここで1割ほどの人が完全奏効による完治を得られる可能性があります。残念ながら再発しても、そのときはインライタなどの血管新生阻害薬が使えます。免疫チェックポイント阻害薬の後ですから、血管新生阻害薬の効果も出やすくなっています」

今後、腎がんの薬物療法はどう変わる?

結局、分子標的薬は、がんそのものを攻撃しているのではなく、がんに栄養分を運ぶ新たな血管を攻撃して、がんを兵糧攻めにしているに過ぎない。それでも死滅することなく粛々と生き残ったがん細胞は、時を経て耐性を獲得すると再び暴れ出す。つまり、分子標的薬に完治はない。だからこそ、進行がんでも転移がんでも、まずは局所治療での腫瘍摘出が重要だったのだ。

ところが、免疫チェックポイント阻害薬はメカニズムが全く違う。自身の免疫システムのスイッチを入れることで、がんそのものを攻撃し叩くのだ。免疫チェックポイント阻害薬が絡む臨床試験で効果の長期持続が保たれていることが、完治の可能性を示唆している。

「がん免疫療法時代が到来したということは、局所治療(手術)なしで、転移はもとより、原発巣まで完全に消えて完治するようになるかもしれない、ということです」

ちなみに、副作用に関して言うと、分子標的薬は抗がん薬同様、正常細胞にも作用してしまうので、100%副作用が出る。しかし、免疫チェックポイント阻害薬はそもそも「抗体」だ。基本的に抗体は正常細胞には何も影響を及ぼさないので、多くの場合、副作用は起きないそうだ。ブレーキを解除された免疫システムが、何かの拍子に正常細胞を攻撃し始めたときだけ副作用(免疫関連有害事象)が発現するのであって、そうでなければほぼ発現しない。

「1次治療でスーテントやヴォトリエントなどの分子標的薬をして、2次治療でオプジーボをした人は、今までつらかった副作用がなくなって楽になったと喜ぶ人が多いのです」と木村さん。ただし、免疫関連の有害事象はどこの臓器にも起こりうること、そして分子標的薬とは対処法が全く異なることから、どこの臓器に起こっても対処可能な大学病院などの大きな施設で受ける必要があることを、繰り返しになるが特記したい。

締め括りに、腎がんのがん免疫療法は今後どのように展開するかを聞いた。

「前述の2種類の免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬併用療法が、今年末には認可される予定です。1次治療の選択肢がさらに拡がり、従来の分子標的薬単独と比較すると奏効率が高く期待も高まりますが、その半面、効果がどのくらい持続するかという長期成績がまだ出ていないのが現状で、今後の経過観察が必要です。一方、オプジーボとヤーボイの併用療法は観察期間が長く、効果の持続性が示されつつあります。さらに、中等度リスク以上で完全奏効率が1割あるということはその使用を後押しするものと考えます」

さらに、今後の課題について付け加えた。

「いずれの免疫チェックポイント阻害薬を使用するにしても、免疫関連の有害事象がネックとなります。いつどの患者さんにどのくらいの重篤度で発生するかが、まだわかっていないのが現状。どの患者さんにどの治療が効くかが治療前にわかれば、患者さんに最適な治療を提供できるようになります。つまり、効果と副作用に関するバイオマーカーの開発が急務だと思っています」

最後に、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の最新情報に触れておこう。血管新生阻害及びMETなど腎がん増殖・進展に関連する分子を阻害する分子標的薬カボサンチニブが、今年4月、日本で腎細胞がんに申請された。カボサンチニブは、血管新生阻害薬のスーテント、ヴォトリエントやネクサバールといったこれまでの分子標的薬とは一線を画す。

カボサンチニブ単独だけでなく、現在、オプジーボとカボサンチニブの併用療法の第Ⅲ相試験も進行している。カボサンチニブ単独でも、中等度リスク以上でスーテントと比較するとよりいい結果を出していることを鑑みても、オプジーボ+カボサンチニブの組み合わせは、かなり期待できるそうだ。こうした新しい動きも含め、腎がん薬物療法の今後に期待したい。

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