臨床試験以上に治療効果が上がっているオプジーボ 再発・転移の頭頸部がんにキイトルーダが承認間近!

監修●岡野 晋 国立がん研究センター東病院頭頸部内科医長
取材・文●菊池亜希子
発行:2019年10月
更新:2019年10月


再発・転移前の段階から使えないのか?

再発・転移性頭頸部がん治療の歴史を振り返ると、大きな進化を遂げたのはここ数年のことだ。わずか7年ほど前までは「プラチナ製剤+5-FU」(PF療法)しかなく、当時の生存期間中央値は7カ月強。2012年、分子標的薬アービタックスの登場により「PF療法+アービタックス」が標準治療となって、生存期間中央値は約10カ月に延長した。さらに2017年の免疫チェックポイント阻害薬オプジーボ承認を経て、生存期間中央値は1年を超え、現在も少しずつ伸び続けている。

「今現在の実感としては、生存期間の中央値は2年に近づいていると思います。今後、キイトルーダが承認されたら、生存期間はさらに伸びていくでしょう」と岡野さんは期待を寄せている。

ところで、再発・転移性頭頸部がんに効果を示す免疫チェックポイント阻害薬を、もっと早い段階から使うことはできないのだろうか?

「進行がんの手術前に免疫療法を行うという臨床試験も行われてはいます。ただ、免疫療法は副作用が少ないとはいえ、1割強には重篤な副作用が出ます。手術前に免疫療法を行なって、もし重篤な副作用に襲われたら、そのせいで手術自体ができなくなってしまう可能性が出てくるのです」

転移していない進行がんの場合、手術もしくは化学放射線療法を行えば完治の可能性が高い。みすみすその機会を後回しにして、後々の遠隔転移対策として免疫療法を優先すべきだろうか、という話だ。そう考えると、やはり免疫チェックポイント阻害薬は、現状、再発・転移の手術ができない場合の切り札であってしかるべきなのかもしれない。

免疫に放射線を組み合わせることへの期待

進行頭頸部がんと判明したら、まずは手術もしくは化学放射線療法を行うのが標準治療。それでも再発した場合、もしくは遠隔転移していて手術もしくは化学放射線療法の対象にならない場合は、免疫チェックポイント阻害薬の出番だ。そこからでも、少ないながら完全奏効に持ち込めることもある。現時点では2次治療でのオプジーボのみだが、近い将来、1次治療薬としてキイトルーダも登場予定だ。

「さらに言うと、今、免疫チェックポイント阻害薬と放射線併用療法の第Ⅲ相試験が、世界で4~5本、進行中です。これらの試験は、放射線が単にがん局所を攻撃するだけでなく、局所に対する免疫療法との相乗効果、そして、遠隔転移の制御を期待している動きです」と岡野さんは指摘した。

がん細胞は本来、自らが増殖するために、周囲から「がん細胞(異物)」と認識されないための工夫を施している。そのため、近くにリンパ球がやって来ても、がんと認識しないので攻撃しない。ところが、免疫療法を加えることにより、リンパ球が「がん」と認識し攻撃を開始する。さらに、放射線が照射されると、がん細胞が粉々に砕け散るだけでなく、がんを攻撃するリンパ球を手助けする様々な物質も放出される。砕け散ったがん細胞の破片と様々な物質の相乗効果により、リンパ球がより強い攻撃を開始するのだ(免疫原性細胞死)。かつ、その破片と同じ抗原を持つがん細胞を探して攻撃し始めるので、大もとのがん細胞はもちろん、遠隔転移したがん細胞を見つけに行って攻撃する。つまり、遠隔転移巣の縮小や消失も期待できるというメカニズム。これを「アブスコパル効果」という(図3)。

放射線照射によってこのような効果があることは、既に動物実験レベルでは証明されている。しかし、理論上証明されていても、実際の臨床現場で明確な症例として見られないのが現状。

ところが、再発・転移性頭頸部がんを対象にした免疫チェックポイント阻害薬と放射線併用療法の臨床試験が始まったばかりのころ、遠隔転移が縮小したり消えていく症例が垣間見られるようになったそうだ。もしかしたら免疫療法に放射線治療を組み合わせることで、免疫原性細胞死による効果だけでなくアブスコパル効果の頻度も高まるのではないだろうか、との期待感が高まり現在に至るそうだ。

「今、海外で行われている再発・転移性頭頸部がんを対象にした免疫チェックポイント阻害薬と放射線併用療法の第Ⅲ相試験は、免疫原性細胞死による効果とアブスコパル効果が臨床レベルにまで高められることを狙っていると言ってもよいでしょう」と岡野さん。それらの結果次第では、今後、免疫と放射線の併用療法が確立される可能性もあるかもしれない。

生きるだけでなく、これからの人生を考える余裕を

アービタックス以外に画期的な治療法がなかった再発・転移性頭頸部がんに、2年半前、オプジーボの登場で風穴が開いた。そこから少しずつ生存期間は伸び続け、臨床現場での手応えも数値以上によいという。

近々登場するキイトルーダによって、治療の幅はさらに広がる。加えて、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法、免疫チェックポイント阻害薬と放射線治療といった併用療法の確立も進んでいくに違いない。

「再発・転移の頭頸部がんについて、免疫チェックポイント阻害薬がキードラッグになることは間違いありません。今後は、どの患者さんにどのタイミングで使っていくかがポイントになるでしょう。バイオマーカーを適切に用いて、免疫療法に効果を示しやすい患者さんに投与していくことが重要。一方で、バイオマーカーは絶対ではなく、PD-L1の発現率が低い人の中にも実は免疫療法がよく効く人が少なからずいるのです。治療費の問題はありますが、可能ならば、バイオマーカーの結果だけに頼らず、どこかの場面で免疫チェックポイント阻害薬を使うべきだと私は考えています」と岡野さんは言及し、最後にこう締めくくった。

「免疫療法は、1割強の患者さんで起こる重篤な副作用に細心の注意を払わなければならない反面、何と言っても、その頻度が従来の抗がん薬に比べて圧倒的に低いのが強みです。もちろん多少の副作用はあります。でも、甲状腺機能が落ちたらホルモン薬を飲めばいい。皮膚のかゆみが出たらかゆみ止めを塗ればいいのです。そうやって、多くの患者さんがそれぞれの日常生活を送りながら治療を続けています。免疫チェックポイント阻害薬は、単に生きるための薬ではなく、生きて、かつ、これからの人生で何をしたいかを考える余裕が生まれる薬だと、日々感じています」

1 2

同じカテゴリーの最新記事