小細胞肺がんに17年ぶりの新薬登場! 初の免疫チェックポイント阻害薬・テセントリク承認

監修●西尾誠人 がん研究会有明病院呼吸器センター長
取材・文●菊池亜希子
発行:2020年2月
更新:2020年2月


抗がん薬がよく効くとは?

進行が非常に早いことに加え、抗がん薬による化学療法の効果が高いことも小細胞肺がんの特徴だ。20年以上前から化学療法による奏効率は限局型で80%、進展型でも75%、完全奏効率も限局型で50%、進展型で25%という数字を叩き出していた。かつ、放射線に対する感受性も高いため、限局型ならば、化学療法と併行して放射線治療も行ってきた(化学放射線療法)。

その一方、当時の非小細胞肺がんの化学療法奏効率は30%を下回る状況だったことから、「小細胞肺がんは抗がん薬がよく効く」と言われ続けてきたわけだ。ただ、その話には続きがある。

「確かに小細胞肺がんは化学療法がよく効きます。ところが、いったんは奏効しても予後が悪く、結局、1年以内に命を落とすケースがほとんどなのです」と西尾さんは指摘する。

小細胞肺がんは進行が非常に早い半面、抗がん薬や放射線に対する感受性が高く、いったんは奏効し、完全奏効に持ち込むこともかなりの割合で可能。しかし、それが長続きしないというのだ。これほどの完全奏効率を出しながら、5年生存率はいまだ6%という数字がその実情を物語っている。

とはいえ、20年前当時、何をしてもほとんど奏効しなかった非小細胞肺がんに比べ、化学療法で7~8割の奏効を見せる小細胞肺がんは、やはり「化学療法の効果が高い」がんであり、抗がん薬の進化とともに化学療法だけで治癒できるようになるのではないかと期待が寄せられていたそうだ。だからこそ、肺がんの分類は昔から「小細胞肺がん」とそれ以外の「非小細胞肺がん」という括(くく)りだったのだろう。

実際、前述のように、2002年にそれまでの「シスプラチン+エトポシド」併用療法と、新しく登場したイリノテカンを使った「シスプラチン+イリノテカン」併用療法を比較したところ、生存期間中央値、2年生存率ともにシスプラチン・イリノテカン併用療法が上回った。この結果も後押しして、今後も新しい抗がん薬に繋いでいくことで、近い将来、小細胞肺がんは化学療法だけで治癒できるようになるのではないかと、少なくとも2002年時点では考えられていたのだ。

「その後も、小細胞肺がん、非小細胞肺がんともに、様々な試験が重ねられてきました。ここ数年、非小細胞肺がんに関しては、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬と相次いで結果が出て進化を遂げたの���す。一方、小細胞肺がんは当時の予想に反し、ことごとく結果が出ず、新しい薬も治療法も登場しませんでした。結果的に取り残されてしまっていたわけです」(図3)

小細胞肺がんに初の免疫療法!

そんな中、昨年9月、17年間という長い沈黙を破って、進展型小細胞肺がんに対し、抗PD-L1抗体テセントリクが承認された。これは、小細胞肺がんに対する国内初の免疫療法という意味でも意義深い。

ただし、テセントリク単剤ではなく、化学療法【カルボプラチン(商品名パラプラチン)+エトポシド】とテセントリク併用という形での承認だ。これは国際共同第Ⅰ/Ⅲ相臨床試験(IMpower133試験)の結果に基づいている。

化学療法(カルボプラチン+エトポシド)・テセントリク併用群と化学療法単独群を比較した結果、全生存期間(OS)中央値が併用群12.3カ月、単独群10.3カ月、無増悪生存期間(PFS)中央値が併用群5.2カ月、単独群4.3カ月と、全生存期間の延長とともに、無増悪生存期間も延長し、テセントリク併用群の優位性が証明されたのだ。そして、昨年12月に改訂された2019年版肺がん診療ガイドラインにも「進展型小細胞肺癌には、カルボプラチン+エトポシド+アテゾリズマブ療法を行うよう推奨する」と明記されるに至った。

さらに同種の薬剤である抗PD-L1抗体イミフィンジ(一般名デュルバルマブ)でも小細胞肺がん対する効果が報告され、米国では承認に向けて動き出していることを特記したい。

昨年、化学療法(シスプラチンまたはカルボプラチンとエトポシド)・イミフィンジ併用群と化学療法単独群を比較した試験(CASPIAN試験)結果が発表され、全生存期間中央値が併用群13カ月に対し、単独群10.3カ月となり、併用群の優位性が示されるとともに、イミフィンジ併用群が死亡リスクを27%減少させるとの結果を出したのだ。現在、FDA(米国食品医薬品局)の優先審査指定を受けて承認に向けて動いているとのこと。いずれ日本にもその波はやってくるだろう。

今後の展望と期待感

「テセントリクとイミフィンジの試験結果を受けて、化学療法と抗PD-L1抗体の併用が小細胞肺がんにも有効であろうとの期待感が高まったことは確かだと思います」と西尾さん。

何はともあれ、テセントリクの承認とガイドラインでの推奨を受けて、日本でも昨年から進展型小細胞肺がんの初期治療として、テセントリクが使われるようになったわけだ。気になるのは臨床的な手応えである。

「まだ手応えとしてはわからないのが正直なところです。というのも、もともと小細胞肺がんは化学療法の奏効率が非常によいわけで、奏効率としてはテセントリクを併用してもしなくても75%前後と変わらないのです。そもそもテセントリクは、奏効率ではなく、生存期間延長を期待している薬です。まだ使い始めて半年足らず。長期間の使用経験がないので、臨床的な実感を語るには早いということです」

今後、奏効期間を、さらには生存期間を延ばしていけるかどうか、テセントリクに期待したい。

そう考えると道のりは険しいようにも感じるが、思えば、非小細胞肺がんも数年前までは2年生存が出ることなどほとんどなかった。そんな中、分子標的薬が次々と登場して生存期間が少しずつ延長され、さらに2015年のオプジーボ(一般名ニボルマブ)を皮切りに免疫チェックポイント阻害薬が使えるようになり、単剤、併用と選択肢も増え、治癒の可能性さえ見えてくるようになったのだ。

最後に西尾さんはこう締めくくった。

「免疫チェックポイント阻害薬が小細胞肺がんにも導入されたことで、小細胞肺がん治療が、非小細胞肺がん治療と同じように進化していくことを期待しています。とはいえ、本当に進化を続けて治療が変わっていくかは、現段階ではまだわかりません。ただ、20年間変わらなかった小細胞肺がん治療に風穴が空いたことは確かです。治療選択肢に免疫療法が加わったことは大きな変化ですので、今後の進化に大いに期待したいと思います」

2019年は、小細胞肺がん治療に風穴が空いた年。2020年以降は、この穴から新しい風を取り入れ、確かな形で小細胞肺がん治療を進化させていくことが求められるだろう。小細胞肺がん治療が次なるステージに一歩踏み出したことは確実と言えそうだ。

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