初期治療から免疫チェックポイント阻害薬選択の時代へ 腎細胞がん治療はここまで来た!

監修●冨田善彦 新潟大学医学部泌尿器科学教授/新潟大学医歯学総合病院長
取材・文●菊池亜希子
発行:2020年6月
更新:2020年6月

<新しい治療法の幕開け>

免疫チェックポイント阻害薬の時代に

ここまでは、あくまでも腎細胞がんの薬物療法を分子標的薬と考えた場合の話。がんそのものを攻撃するわけではない分子標的薬にはいずれ耐性が生じて、がんは再び進行し始める。耐性のたびに薬の種類を変え、それぞれの薬の奏効期間をどこまで引っ張れるかが鍵だった。

そんな中、彗星のごとく登場したのが免疫チェックポイント阻害薬のオプジーボ(一般名ニボルマブ)だ。血管新生阻害薬に耐性ができた進行腎細胞がん患者を対象に、オプジーボとアフィニトールの治療比較をしたCheckMate025試験の結果を受けて、2016年に承認された。

その後の長期追跡の結果が、今年2月に米国サンフランシスコで開催された「ASCO GU 2020」で発表された。その報告によると、観察期間中央値72カ月時点で、全生存期間(OS)中央値は、オプジーボ群25.8カ月、アフィニトール群19.7カ月。無増悪生存期間(PFS)中央値は、それぞれ4.2カ月と4.5カ月。特記すべきは、オプジーボ群の60カ月生存率が26%という数字を叩き出したことだ。

「分子標的薬に耐性が生じ、再び進行した腎細胞がんに対しての2次治療でありながら、その4分の1強の患者さんが、オプジーボ投与後、5年を超えて生存しているのです」

オプジーボ+ヤーボイ併用療法が示すさらなる効果

オプジーボ単独投与は2次治療からだが、初期治療から免疫チェックポイント阻害薬を使う方法もある。それがCheckMate214試験結果を受けて2018年8月に承認されたオプジーボとヤーボイ(一般名イピリマブ)の併用療法だ。ASCO GU 2020では、その後の追跡報告として、最短観察期間42カ月のデータが発表された。

未治療の進行腎細胞がん患者を対象に、オプジーボ+ヤーボイ併用療法群とスーテント単独群を比較した結果、OS中央値は、オプジーボ+ヤーボイ併用群47.0カ月、スーテント群26.6カ月。PFS中央値は、それぞれ12.0カ月、8.3カ月。さらに、オプジーボ+ヤーボイ併用群では、42カ月時点でPFS率が35%。つまり、3人に1人は3年半経っても進行していないことが明らかになった。

「そもそも、オプジーボ+ヤーボイ併用療法を行えるのは、中等度リスク以上の患者さんです。その中で、4年経っても35%の人���進行しない。しかも、特徴的なのは無増悪生存曲線が水平になることです。このことは、誤解を恐れずに言うならば、治癒に近いと考えていいのではないでしょうか」と冨田さんは言及する。

ちなみに、初期治療からオプジーボ+ヤーボイ併用療法を行うには、予後予測因子を用いたリスク分類で、中等度以上(リスク因子1個以上)とされた場合のみだ。低リスク(リスク因子0個)の場合、オプジーボ+ヤーボイ併用療法の効果はスーテントとほぼ同様となる(図2)。

さらに特記すべきは、最短観察期間42カ月において、オプジーボ+ヤーボイ併用群の奏効率(ORR)が42%、かつ完全奏効率(CR)が10%あるということだ。観察期間で比較すると、17.5カ月時点での奏効率は41.6%、CRは9.4%だった。通常、観察期間が長期になればなるほどCRの割合は下がっていくものだが、オプジーボ+ヤーボイ併用療法は全く下がっていない。これもCR症例は治癒に近いことを意味すると言って良いだろう。

実際、CheckMate214のCR症例についての解析によると、オプジーボ+ヤーボイ併用群でCRを得られた59人のうち、86%に相当する51人は今現在も奏効が続いているという。また、注目すべきは、その中に無治療で効果が続いている人が少なからずいることだと冨田さんは指摘する。

「なぜ無治療かというと、免疫関連の有害事象が起こって投与を中断することがあるからです。その後、進行してしまった人もいますが、そのまま進行しない人も相当数いるのです」

治療はやめたけれど、病勢をコントロールできているということ。これこそ治癒に限りなく近いと言えそうだ。

もちろん、免疫チェックポイント阻害薬については注意すべき点がないわけではない。免疫関連有害事象とよばれる自己免疫疾患に似た副作用が出ることがあり、特にオプジーボ+ヤーボイでは40%以上の症例で出現し、治療の中断や、ステロイドによる治療が必要になることも少なくない。

免疫チェックポイント阻害薬の後、分子標的薬が再び力を発揮

2次治療でのオプジーボ投与、初期治療におけるオプジーボ+ヤーボイ併用療法ともに、ASCO GU 2020で中長期の追跡データが発表され、全生存期間の延長、さらには治癒に近い状況さえも一定の割合で期待できることがわかった。

さらにASCO GU 2020では、冨田さんが、もう一歩踏み込んだ解析結果を発表した。その内容は、先の2種類の免疫チェックポイント阻害薬治療のいずれかを行い、奏効が見られなかったり、いったん奏効したものの再び進行してしまった場合、次の治療法として分子標的薬を選択した際の調査報告だ。この調査は、CheckMate025試験とCheckMate214試験に参加した日本人患者を追跡調査し、解析された(CheckMate025試験参加者26人、CheckMate214試験参加者19人)(図3)。

2次治療でオプジーボによる治療を行ったCheckMate025試験参加者の結果は、その後の分子標的薬投与による奏効率が27%。病勢制御率(DCR)は88%と高かった。

さらに初期治療でオプジーボ+ヤーボイ併用療法を受けたCheckMate214試験参加者においては、分子標的薬投与による奏効率は全リスク患者で32%、中等度以上のリスク患者で31%。病勢制御率は全リスク患者で84%、中等度以上のリスク患者で88%と、こちらも高い。これらの結果について、冨田さんは次のように言及した。

「CheckMate025試験に参加した患者さんは、初期治療ですでに分子標的薬による治療を行っても進行するか、治療を中断しています。そして、2次治療以降としてオプジーボを投与しているのです。その後さらに進行し始めたため、再度、分子標的薬を投与するわけなので、正直言って効果は限定的ではないかと思っていたのです」

ところが、CheckMate025試験でも、ほとんどの症例で何かしらの効果を示したのだ。これは、1次治療の分子標的薬に耐性が現われ、2次治療以降のオプジーボに奏効が見られなくなってもなお、その後に分子標的薬を投与する価値が十分あるということ。つまり、免疫チェックポイント阻害薬によって、体内の免疫機構に何らかの作用が及び、分子標的薬が再び効果を示しやすい状態に戻った、と考えることができるだろう。

「CheckMate025試験参加者の中には、1次治療で分子標的薬治療、2次治療でオプジーボ、3次治療で再び分子標的薬という経緯をたどり、通算すると生存期間が70カ月に及ぶ人も出てきています」

さらに、と冨田さんは続けた。

「CheckMate214試験の参加者には、オプジーボ+ヤーボイ併用療法中に、前述のように有害事象など何らかの要因で治療を中断したにも関わらず、無治療の状態が長期間続き、その後、進行した人もいます。そしてその中には、分子標的薬投与に移行して奏効が続いているケースもかなりあるのです」

免疫チェックポイント阻害薬は早期に行うべきか?

「トータルで考えて、これからは初期治療に免疫チェックポイント阻害薬を使用する方向に舵を切るでしょう。免疫チェックポイント阻害薬を切り札と捉えると、次の治療法はないと思われがちですが、そうではなく、分子標的薬による治療で、病勢の進行が抑えられる可能性が高いと考えられます」

最後に、冨田さんはこう語って締めくくった。

「免疫チェックポイント阻害薬の登場によって、薬物療法開始後の全生存期間が6年を超えるケースも見られるようになりました。これからの腎細胞がんの薬物療法は、6年先を見据えて、10年先を意識していかなければならない。これは腎細胞がんだけでなくて、どのがん種も同じですが、短期的な効果ではなく、達成可能な期間を意識した治療戦略を考えるべきなのです。言い換えれば、10年先を見越した有効性と安全性を担保しなくてはならない。それを念頭に、1人ひとりの患者さんのライフスタイルも尊重し、最適な治療法を選択していかねばならないと思っています」

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