- ホーム >
- 薬 >
- 免疫チェックポイント阻害薬
肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の治療効果は腸内細菌が関係!
腸内細菌叢を良い状態にするためにどうするか
免疫チェックポイント阻害薬の効果を高めるには、腸内細菌叢をよい状態にする必要があるわけですが、そのために欧米では糞便移植の研究が行われてきました。免疫チェックポイント阻害薬がよく効いた人の便を採取し、病原性大腸菌などを除去したきれいな状態にしてから、免疫チェックポイント阻害薬が効かなかった人の腸内に移植するのです。移植の方法としては、内視鏡を使って直接腸内に入れる方法と、カプセルにして飲ませる方法があります。
「この糞便移植を行った後、免疫チェックポイント阻害薬の効かなかった人に、もう1回免疫チェックポイント阻害薬の治療を行ったところ、3分の2の人が効くようになったとの報告があります。こうした結果からも、腸内細菌叢が重要な役割を果たしていることは間違いなさそうです。ただ、病原性大腸菌を完全に除去できなかったことによる糞便移植後の死亡例も報告されているので、慎重に行っていかなければならない治療法だと言えそうです」(庄司さん)
こうした状況において、進行中の臨床試験やこれから始まる臨床試験がいくつかあるので紹介しましょう。
まず、進行・再発非小細胞肺がんの患者さんを対象に、シンバイオティクス飲用による腸内細菌叢の変化と、免疫療法の効果との関連を調べる二重盲検ランダム化比較試験があります。九州がんセンターと九州医療センターの共同で、シンバイオティクス群が30例、プラセボ群が30例の計60例で行われます(図6)。

「生菌を投与するのがプロバイオティクス、菌の餌となるオリゴ糖などを投与するのがプレバイオティクスですが、その両方を行うのがシンバイオティクスです。免疫チェックポイント阻害薬の治療を開始する前からシンバイオティクス食品をとり始めてもらい、それをとりながら治療を進めていきます。『腸内細菌叢がよい状態になって、効果増強につながるのではないか』ということを調べる研究です。シンバイオティクスに使うLBG-Pは、ビフィズス菌、乳酸菌、オリゴ糖を含む食品です」(庄司さん)
これ以外に、すでに進行中の臨床試験が2つあります。1つは、免疫チェックポイント阻害薬の治療を始める前に患者さんの便を採取し、治療中も継続して採取して、治療が終了するまで採取する研究です。腸内細菌叢が経時的にどのように変化していくかを調べます。
「この研究はすでに60例の登録が終了していて、現在解析が進められています。この研究が興味深いのは、腸内細菌叢の変化を経時的に見られる点です。免疫チェックポイント阻害薬をテセントリク(一般名アテゾリズマブ)の1種類に固定して、薬剤の違いによるバイアスが生じないようにしています」(庄司さん)
もう1つの研究は、免疫チェックポイント阻害薬の「効果予測バイオマーカー」を探すための臨床試験です。免疫チェックポイント阻害薬を使用する前に、腸内細菌叢を調べるために便を採取しておきます。その後に行われた治療で、効果があったかなかったかを判定し、どのような腸内細菌が効果に関わっているかを見つけようという研究です。400例を目標に、現在試験が進められています。
「免疫チェックポイント阻害薬は非常に高価な薬剤ですが、単独で治療した場合の奏効割合は2~3割程度、抗がん薬との併用でも6割程度です。効果を予測できるバイオマーカーが見つかれば、使う人を選ぶことで、奏効割合を向上させることが期待できます。この研究によって、効果予測因子となるような菌の種類や菌の組み合わせがみつかればと考えています」(庄司さん)
ここで紹介した臨床試験は肺がん患者さんを対象としていますが、免疫チェックポイント阻害薬は他のがん種でも重要な治療の1つとなっています。治療効果と腸内細菌叢との関係がわかってくれば、がん治療全体に大きな影響を及ぼすことになりそうです。
「腸内細菌について、これまでにわかっているのは3割くらいで、7割は未知の世界だと言われています。がん治療との関係を含め、これから多くのことが明らかになっていくでしょう。また、腸内だけでなく、体のさまざまな部位にも菌が存在することがわかってきました。かつては肺の中は無菌だと考えられていましたが、現在では病原性を持たない常在菌がいることがわかっています。こうした菌と健康の関係や、医療に活用する方法なども、これから明らかになっていくでしょう」(庄司さん)
そうした研究が、がん治療の進歩につながることを期待したい。
同じカテゴリーの最新記事
- 免疫チェックポイント阻害薬との併用療法で大きく前進 新たな進行期分類が登場した子宮体がんの現在
- 免疫チェックポイント阻害薬で治療中、命に関わることもある副作用の心筋炎に注意を!
- キイトルーダ登場前の時代との比較データから確認 進行性尿路上皮がんの予後が大幅に延長!
- 肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の治療効果は腸内細菌が関係!
- 複合がん免疫療法が、がん薬物療法の主力に! 免疫療法の個別化医療を目指す
- 胃がん新ガイドライン「条件付き承認」で増える治療選択 1次治療でオプジーボ承認
- 乳がん治療にも免疫チェックポイント阻害薬が登場! トリプルネガティブ乳がんで承認、さらに――
- 初期治療から免疫チェックポイント阻害薬選択の時代へ 腎細胞がん治療はここまで来た!
- 患者にもわかりやすく明確化された推奨する治療・しない治療 全面改訂された「大腸癌治療ガイドライン」2019年版