キイトルーダ登場前の時代との比較データから確認 進行性尿路上皮がんの予後が大幅に延長!

監修●田口 慧 東京大学医学部泌尿器科学教室講師
取材・文●柄川昭彦
発行:2023年5月
更新:2023年5月


キイトルーダを使った人の生存期間は2年に延長

次に、新時代でキイトルーダを使った人と旧時代の比較が行われました。

新時代の331人の中で、キイトルーダを使っていたのは192人。約6割の患者さんが使っていました。キイトルーダが使えるようになったのは2017年ですが、新時代には2016年に1次治療を開始した人も含まれています。1次治療をしばらく行い、その後キイトルーダを使った人もいるわけです。

2016年に治療を開始した人でキイトルーダを使ったのは26%でしたが、2017年治療開始の人では47%、2018年開始では65%、2019年開始では70%と次第に増えていき、2020年に治療を開始した人では、77%がキイトルーダを使用していました。

新時代のキイトルーダを使った192人と、旧時代200人の中から、傾向スコアマッチング法によって、新時代129人と旧時代129人が抽出され、これらの比較が行われました。結果は図2に示した通りです。

CSSの中央値は、旧時代が11カ月なのに対し、新時代は25カ月となっていました。OSの中央値で見ても、旧時代の11カ月に対し、新時代は24カ月と約2倍に延長していました。

「かつては進行性尿路上皮がんと診断された患者さんの予後は1年ほどでしたが、新時代でキイトルーダを使用した患者さんでは、それが2年に延びていたわけです」(田口さん)

もう1つ、新時代でキイトルーダを使用しなかった人と旧時代の比較も行われました。傾向スコアマッチング法により、それぞれの時代から110人ずつが抽出され、これらの比較が行われました。その結果が図3になります。

CSS中央値もOS中央値も、旧時代が12カ月、新時代が14カ月で、ほとんど差が出ませんでした。

「新時代でもキイトルーダを使用していなければ、旧時代と同じような成績だったということです。新時代でも最初の数カ月で死亡している人がたくさんいますが、1次治療を行っている段階で治療を継続できなくなり、2次治療に行けなかった人が多く含まれていると思われます。その一方で、長期生存している人もいます。これは1次治療が非常によく効いて、キイトルーダを使用する��要がなかった人なのだと考えられます」(田口さん)

この解析から、キイトルーダを使用していない集団は、たとえ新時代でも、生存期間は旧時代と変わらないことがわかります。一方で、キイトルーダを使用した集団の生存期間が約2年だったことを考え合わせると、キイトルーダによって予後が延びたのだと結論づけることができます。

新薬の登場で最低でも3つの治療が受けられる時代に

進行性尿路上皮がんに対する新しい薬剤が、2021年に2種類登場しました。バベンチオ(一般名アベルマブ)とパドセブ(同エンホルツマブベドチン)です。それにより、現在の進行性尿路上皮がんの治療戦略は図4のようになっています。

「バベンチオはキイトルーダとは別の種類の免疫チェックポイント阻害薬で、1次治療が効いた患者さん(CR:完全奏功、PR:部分奏功、SD:安定)の維持療法として使います。それによって、再発するまでの期間を延ばすことができるとされています」(田口さん)

残念ながら1次治療が効かなかった患者さん(PD:進行)には、キイトルーダが使われます。そして、バベンチオを使った患者さんも、キイトルーダを使った患者さんも、それらが効かなくなった場合には、3次治療としてパドセブを使用することができます。

「パドセブは、がん細胞の表面にあるタンパク質(ネクチン-4)を標的とする抗体と、抗がん薬(モノメチルアウリスタチンE)を組み合わせた抗体薬物複合体(ADC)です。狙ったがん細胞まで、抗体を使って薬物を運ぶのです」(田口さん)

かつては治療選択肢が1つ(プラチナ製剤を含む併用化学療法)しかなかった進行性尿路上皮がんですが、2017年にキイトルーダ、2021年にバベンチオとパドセブが使えるようになったことで、最低でも3つの治療が受けられる時代になっています。

「現在治療を受けている進行性尿路上皮がんの患者さんは、キイトルーダはもちろん、多くがバベンチオやパドセブの治療も受けることができます。そのため、これから数年が経過した時点でのデータでは、生存期間がさらに延長していることが期待されます」(田口さん)

今後しばらくは、上記の新たに登場した薬剤について、最適な使い方に関する研究が進められていくことになりそうです。

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