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ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)HER2陽性乳がん治療のベースとなる薬剤

監修●伊藤良則 がん研有明病院乳腺センター乳腺内科部長
取材・文●星野美穂
発行:2014年6月
更新:2014年9月


代表的なレジメン❷――抗がん薬+ハーセプチン(術前・術後療法)

術前・術後療法では、主に再発予防を目的として使用されます。

術前の場合には、腫瘍を小さくする目的でも使用します。腫瘍が小さくなれば、摘出する部位もより小さくできるからです。

また、手術前に投与することで、あらかじめ薬の反応が確かめられるというメリットもあります。ハーセプチンを投与して腫瘍が小さくなるなど薬の反応性が確かめられれば、この薬が良く効くがんであるとして、術後の再発予防にも効果の発揮が期待できます。

一方、反応がなかった場合は、別の抗がん薬による治療や放射線療法、ホルモン療法など、速やかに他の治療方法を考えることができます。

術前・術後ともに、タキサン系抗がん薬とハーセプチンを併用することで、再発の危険性を50~60%減らす効果があることが確認されています。

再発予防としての使用期間は、1年間です。

《投与法》図3の投与法のうち、パージェタを除いた2剤を、同様の3週間に1度の間隔で投与します。

ハーセプチンを発展させた新しい薬剤――カドサイラ

ハーセプチンをさらに発展させた薬カドサイラが開発され、今年(2014年)4月、日本でも発売されました。カドサイラは、ハーセプチンに抗がん薬を結合させた薬(抗体薬物複合体)です。

ハーセプチンと抗がん薬を別々に投与すると、ハーセプチンはHER2タンパクを標的としてがん細胞だけを攻撃しますが、抗がん薬は正常細胞にもダメージを与えてしまいます。

一方、ハーセプチンに抗がん薬が結合しているカドサイラは、ハーセプチンががんのHER2タンパクを攻撃するときに、抗がん薬を導いて一緒にがんを攻撃します。いわゆる「ミサイル療法」でがんにダメージを与えるため、ハーセプチンと抗がん薬を併用するそれまでの方法よりも、副作用が軽度であるともいわれています。

現在、カドサイラを単独使用した場合と、ハーセプチンと抗がん薬を併用した場合での効果の違いや、治療対象についての研究が行われています。カドサイラの登場により、乳がんの治療効果がまた一層進展することが期待されています。

《投与法》カドサイラを1回3.6mg/kg(体重)を3週間間隔で点滴静注する。

カドサイラ=一般名トラスツズマブ・エムタンシン

知っておきたい!副作用と対策

表1 発熱の違い

◎発熱

ハーセプチンは従来の抗がん薬で発現しやすい脱毛や吐き気、白血球減少などの副作用はほとんどありませんが、独自の副作用が現れることが知られています。

ハーセプチンによって現れる主な副作用としては、発熱があります。ハーセプチンを初めて投与された患者さんの約半数に現れます。回数を重ねるごとに少なくなる傾向がありますが、2回目以降でも現れる可能性はあります。

ハーセプチンの副作用としての発熱は、点滴直後から24~48時間以内に、38~39℃くらいの熱が出ます。これは一過性の発熱で、ほとんどは軽度です。アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬を使用することで軽減することができます。

一方、タキソテールなどの抗がん薬によって起こる白血球減少症でも発熱は起こりますが、この場合は免疫機能の低下などが起こるため、注意が必要です(表1)。

◎心機能低下

また、ハーセプチンの重い副作用として、心機能の低下があります。

もともと心臓に障害があったり、心臓の機能が低下している人は、ハーセプチンの投与により急激に悪化することがあります。投与を受ける前に心臓の検査を行い確認しますが、右記のような症状がある人は、医師に伝えておきましょう。

◎併用薬による副作用にも注意

ハーセプチン投与中は、血液検査や胸部超音波などの心機能確認のための検査を定期的に行います。

ハーセプチン自体は比較的副作用の少ない薬ですが、ほかの抗がん薬と併用することで、併用する抗がん薬の副作用が現れることがあります。

治療を始める前に、医師や薬剤師から副作用の症状や対処法などについての説明を聞いておきましょう。

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