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閉経前ホルモン受容体陽性乳がんの治療薬 抗エストロゲン薬(ノルバデックス)/LH-RHアゴニスト(リュープリン、ゾラデックス)

監修●荒木和浩 がん研有明病院乳腺センター乳腺内科医長
取材・文●星野美穂
発行:2015年12月
更新:2016年5月

人生設計を視野に入れた選択

エストロゲンが刺激となり増殖するホルモン受容体陽性乳がんでは、閉経前の卵巣からエストロゲンが分泌されている期間は、再発のリスクが高い時期といえます。再発リスクを抑えるために、より強い治療を選択したいところですが、妊娠が可能な時期でもあり、悩ましいところです。

仮に35歳で乳がんが見つかった場合、6カ月間の抗がん薬治療後、5年間ホルモン療法を行うと、治療が終了するのは40歳。まだ妊娠の可能性は残されています。その時点の妊娠を希望する人は、治療開始前に卵子の冷凍保存などの選択肢も考えておく必要があります。一方、45歳で治療を始めた場合、治療終了時には50歳。治療終了時には閉経している可能性あります。

乳がんの治療により人生設計を大きく考え直す必要も生じるため、とくに閉経前の乳がん治療は画一的に考えるのではなく、がんの進行度や再発リスクの大きさ、人生設計などを合わせて、主治医とよく相談しながら方針を考えていくことが大切です。

投与方法

抗エストロゲン薬は経口薬、LH-RHアゴニストは皮下注射で投与します(図4)。

図4 投与方法(代表的な閉経前ホルモン療法)

知っておきたい!副作用と対策

ホルモン療法は比較的副作用が少ないと言われていますが、ホルモン薬で閉経期の身体と同じような状態を作り出すため、更年期障害のような症状が現れることがあります。例えば、急に身体が熱くなり汗がどっと出るホットフラッシュと呼ばれる現象や、膣分泌物の増量や減少、イライラ感、うつ状態などです。

更年期様症状と呼ばれるこのような症状は、数カ月で身体がホルモンの状態に慣れると軽減すると言われています。つらい場合は、漢方薬や抗うつ薬、抗けいれん薬を使うこともあります。

また、抗エストロゲン薬の副作用でとくに注意が必要なのが、子宮体がんの発症です。非常に稀な副作用ですが、定期的な検診を受けるなど、注意が必要です。

LH-RHアゴニストでは、骨粗鬆症になる可能性があります。定期的に骨密度を計測しておくほか、骨密度が低下してきたら骨粗鬆症の治療薬ビスホスホネート製剤を服用します。

現在進行中の新治��戦略――ノルバデックスの10年間投与

これまで、ノルバデックスを5年間以上投与することの有用性を示す根拠はないとされ、ガイドラインでの推奨度も2013年度版ではC(行ってもよいが推奨する根拠がない)でした。しかし、ATLASなどの臨床試験の結果、術後10年以降の再発率、死亡率を減少させることが明らかとなったため、2015年のガイドラインではB(行うよう勧められる)と変更されました。

今後、再発リスクが高い患者は、10年間の治療を考えることもあるでしょう。

ただし、30歳代で発症した場合、治療終了後も40歳代であり閉経前の可能性が高く、ノルバデックスを使い続ける意義があります。一方、40歳代で発症した場合は、途中で閉経する可能性も少なくありません。その場合は、ノルバデックスにアロマターゼ阻害薬の5年間の投与追加が勧められています。

閉経前のアロマターゼ阻害薬治療

アロマターゼ阻害薬は、これまで閉経後のホルモン受容体陽性乳がんに使用されてきました。しかし、昨年(2014年)発表されたTEXT試験とSOFT試験という2つの臨床試験では、アロマターゼ阻害薬の1つ、アロマシンと卵巣機能抑制を併用した場合、ノルバデックスよりも乳がん再発の予防効果が高いという結果が示されました。

2種類の治療法が長期生存率に与える影響を正確に評価するためには、より長期的な追跡調査が必要だとされています。

しかし、これまで閉経後の女性にのみ推奨されていたアロマターゼ阻害薬が、卵巣機能抑制との併用により閉経前の乳がん患者さんへの有用性が示されたことで、閉経前の治療に新たな選択肢が加わると、期待されています。

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