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切除不能膵がんの治療薬 FOLFIRINOX療法/アブラキサン+ジェムザール併用療法

監修●林 和彦 東京女子医科大学化学療法・緩和ケア科教授/がんセンター長
取材・文●星野美穂
発行:2016年1月
更新:2016年5月


どんな治療?――アブラキサン+ジェムザール併用療法

タキソールを改良したアブラキサンにジェムザールを併用する治療法です(図3)。タキソールは水に溶けにくい薬剤で、液状にするために無水エタノールなどが使用されていました。その無水エタノールなどに対する過敏症を予防するため、ステロイドなどを事前投与する必要がありました。

アブラキサンは、生理食塩水に溶けやすく改良され、過敏症予防を目的としたステロイド投与も不要となりました。

図3 アブラキサン+ジェムザール併用療法の投与法

タキソール=一般名パクリタキセル

治療効果

海外第Ⅲ(III)相試験において、前治療歴のない転移性膵がん患者861例を対象として、アブラキサン+ジェムザール併用療法と、ジェムザール単独療法の有用性を比較しています。

全生存期間の中央値は、アブラキサン併用群で8.5カ月、ジェムザール単独群では6.7カ月と、アブラキサン併用群で有意な延長が認められました。

無増悪生存期間の中央値は、アブラキサン併用群で5.5カ月、ジェムザール単独群で3.7カ月と有意差がありました。また、アブラキサン併用群の奏効率(完全奏効CR+部分奏効PR)は23%で、ジェムザール単独群の7%を有意に上回りました。

知っておきたい副作用

アブラキサン併用療法で特徴的な副作用が、手足のしびれ(末梢神経障害)と脱毛です。

■手足のしびれ

手足のしびれは治療開始直後から始まることもあり、びりびりしたり刺すような痛みによって、治療を継続するとその症状が強くなることがあります。症状を抑えるため、投与量を減量したり休薬するなど、治療スケジュールを変更することがあります。

■脱毛

投与開始から数週間後に、髪の毛や体毛がほぼ抜けます。治療が終了すると髪の毛はまた生え始め、1年程度でほぼ回復します。

治療開始前に、髪を短くしておくと抜け毛が気になりにくいです。脱毛している期間は、かつらや帽子、バンダナなどを活用するとよいでしょう。

治療選択の考え方

遠隔転移を有する膵がんに最初に行う化学療法として、FOLFIRINOX療法、アブラキサン+ジェムザール併用療法のどちらの治��法を選択するか、そのキーポイントは副作用です。

例えば、脱毛は、アブラキサン+ジェムザール併用療法ではほぼ100%全身の毛髪が抜け落ちます。FOLFIRINOX療法も脱毛することがありますが、人によって程度差があり、脱毛しない人もいます。どうしても脱毛を避けたい場合は、FOLFIRINOX療法を選択したほうが良いということになります。

また、手足のしびれもFOLFIRINOX療法でも発現することがありますが、アブラキサン+ジェムザール併用療法で発現する末梢神経症状は、物が持てないほど激しく出る場合もあります。手先を使う細かい仕事をしている方などには、とくにつらい副作用です。

一方、FOLFIRINOX療法は、全身の副作用が強く出る傾向があります。入院を必要とするほどの副作用(グレード3以上)の副作用として、好中球減少や発熱性好中球減少症、血小板減少、下痢などが発現することがあり、治療を中断する患者さんも少なくありません。

また、FOLFIRINOXの臨床試験では、イリノテカンを180㎎使用しています。これは日本人には多すぎるといわれており、副作用を避けるために現実には減量して使われていることがほとんどです。

腫瘍縮小効果も、両治療法を直接比較した臨床試験がないため、どちらがより縮小効果が高いかは不明です。

こうしたことから、世界的にも比較的安全に使用することができるアブラキサン+ジェムザール併用療法を最初の治療として使用することが増えています。

治療を長く続けるには

膵がんは、病気の進行に伴い、腸閉塞や黄疸、腹水など様々な症状が出てきます。がんが神経に浸潤することで痛みが出てくる患者さんも少なくありません。

こうした苦しい症状は、医療用麻薬を使用したり、神経ブロックという方法で、大幅に緩和すること(疼痛緩和)ができます。現在はこの疼痛緩和技術も進歩しており、痛みのない日常生活を送っている患者さんもたくさんいます。

苦痛を我慢する必要はありません。医師や看護師、薬剤師につらさを伝えてください。

また、治療も頑張りすぎないことが大切です。これは膵がんに限ったことではありませんが、抗がん薬の影響で体力が低下している中で、無理に抗がん薬治療を続けても、良い結果にはつながりません。

体力が落ちているときには思い切って治療を休み、体力を回復させてから再度、治療に向かうということも必要です。ときには、治療をしないという選択肢もあり得ます。

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