悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)の治療薬 アドリアシン(一般名ドキソルビシン)+イホマイド(一般名イホスファミド)/ヴォトリエント(一般名パゾパニブ)/ヨンデリス(一般名トラベクテジン)
どんな薬?――ヴォトリエント
2012年9月に悪性軟部腫瘍の治療薬として承認された、分子標的薬です。
現在は主に、アドリアシンやイホマイドを使用後に、転移が現れた場合に、それ以上に病巣を拡大させない、新たな転移を起こさせないことを目的として使用されます。
*ヴォトリエントは、血管やリンパ管の新生やがん細胞の増殖にかかわる酵素の働きを抑えることにより、がんの増殖を制御する薬剤です。この働きで病気の進行を抑えます。
日本も参加した第Ⅲ(III)相国際共同臨床試験において、ヴォトリエント群は、プラセボ群と比較して無増悪生存期間(PFS)に有意な延長が認められました。一方、完全奏効(CR)は認められず、全生存期間の延長には影響を与えないことも明らかになりました。
これまで、アドリアシンやイホマイドの効果がない転移巣のある患者さんへの治療は、これまで治療選択肢が限られていました。しかし、このヴォトリエントの登場により、新たな選択肢が加わったと考えられます。
今後、より多くの肉腫に使われていくことで、ヴォトリエントがより効果を発揮する肉腫のタイプ(組織型)が明らかになることが期待されています。
●投与方法

ヴォトリエントは経口薬です。1日1回、800㎎(4錠)を食事の1時間以上前、または食後2時間以降に服用します(図4)。食後に服用すると薬剤の吸収が高くなり、副作用が現れる可能性があるため、上記の服用方法を守ることが大切です。
●知っておきたい副作用
下痢、嘔気、高血圧、肝機能障害などの当初から指摘されていた副作用の他に、気胸が起きる頻度が高いことが判ってきました。
●気胸
気胸とは、肺を包む胸膜に穴が開く病態です。急に胸が痛くなったり、呼吸が苦しくなるといった症状が現れます。ヴォトリエントは、軟部肉腫が肺転移を起こしている状態で使用することが多いので、転移巣が破れて気胸が起こることがあります。
ヴォトリエントを服用して、胸痛や呼吸困難などが現れた場合は、すぐに��治医に連絡しましょう。
*ヴォトリエント=一般名パゾパニブ
どんな薬?――ヨンデリス
2015年12月に、悪性軟部腫瘍の治療薬として発売された抗がん薬です。ヴォトリエント同様、アドリアシンやイホマイドを投与後に転移や再発が認められた悪性軟部腫瘍の患者さんが対象です。
悪性軟部腫瘍は、タイプ(組織型)ごとに化学療法に対する感受性が異なることが知られています。*ヨンデリスは、悪性軟部腫瘍の中でも、キメラ遺伝子を持つ腫瘍を治療対象としています。キメラ遺伝子とは、2つの異なる遺伝子の一部が融合した遺伝子のことです。一部の悪性軟部腫瘍では、このキメラ遺伝子を示すことが判ってきました。
キメラ遺伝子を持つ悪性軟部腫瘍を対象に、国内で行われた第Ⅱ(II)相比較試験では、緩和ケア群との比較において、ヨンデリスは無増悪生存期間を有意に延長するなどの効果が確認されています。
ヨンデリスも保険診療が始まったばかりの新しい薬です。今後、使用経験が蓄積され、データが集まるにつれて、ヨンデリスの有効な悪性軟部腫瘍の特徴が判ってくることが期待されています。
●投与方法
1回1.2㎎/㎡(体表面)を24時間点滴静注し、少なくとも20日間休薬します。これを1コースとして投与を繰り返します(図5)。


●知っておきたい副作用
嘔気や倦怠感、肝機能障害や骨髄抑制など、他の抗がん薬にも見られる副作用の他に、横紋筋融解症があります。
●横紋筋融解症
1.4%(100人に約1人)の確率で、横紋筋融解症が現れるとされています。横紋筋融解症とは、骨格筋の細胞が融解、壊死することにより、筋肉の痛みや脱力などを生じる疾患です。
「手足・肩・腰・その他の筋肉が痛む」、「手足がしびれる」、「手足に力が入らない」、「こわばる」、「全身がだるい」、「尿の色が赤褐色になる」などの症状が現れたら、速やかに主治医に連絡しましょう。
*ヨンデリス=一般名トラベクテジン
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