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EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんの治療薬 イレッサ(一般名ゲフィチニブ)/タルセバ(一般名エルロチニブ)/ジオトリフ(一般名アファチニブ)/タグリッソ(一般名オシメルチニブ)

監修●西尾誠人 がん研有明病院呼吸器内科部長
取材・文●柄川昭彦
発行:2016年7月
更新:2016年6月


耐性ができたときの治療

■T790Mによる耐性とは

イレッサ、タルセバ、ジオトリフのいずれかで治療していると、最初は効果があっても、いずれ耐性ができて効かなくなるときがやってきます。そのような場合、従来は、プラチナ(白金)系抗がん薬を含む2剤併用療法などの化学療法に切り替えるのが一般的でした。しかし、タグリッソが認可されたことで、これからは、2次治療にもEGFR-TKIを使用するという新たな選択肢が加わることになります。

タグリッソは、EGFR-TKIにおける耐性メカニズムの研究が進んだことで開発された薬です。耐性を獲得したがん細胞を調べると、EGFR遺伝子にT790Mという新たな変異が起こることで、薬が効かなくなっているものがあることがわかりました。このタイプの耐性を獲得したがんに効くのがタグリッソです。

したがって、タグリッソはEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんすべてに使用できるわけではなく、「EGFR-TKIに抵抗性のEGFR T790M変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺がん」に使用するという制限が付けられています。

■耐性のタイプを調べる遺伝子検査

したがって、1次治療でEGFR-TKIを使用していて、それが効かなくなってきた場合、タグリッソを使用するためには、再度がん細胞を採取し、遺伝子検査を行わなければなりません。その検査でT790Mの変異が陽性であれば、タグリッソによる治療が行えることになります。EGFR-TKI抵抗性となったがんの中で、T790Mが陽性なのは、半数程度(40~60%)とされています。

ただし、T790Mの変異を調べるのは、そう簡単なことではありません。再発している部位から、がん細胞を採取しなければならないからです。つまり、それまで使っていたEGFR-TKIが効かなくなった時点で、転移のある肺、脳、肝臓、骨などから、細胞を採取してくる必要があるのです。肝臓ならば体の外から針を刺すことで採取できますが、脳や肺からの採取には危険を伴い、骨からの採取も困難です。

そこで、血液検査でT790Mの変異を調べるリキッド・バイオプシー(液体生検)という方法が開発されましたが、この検査は承認されませんでした。そのため、タグリッソを使用するためには、がん細胞を採取することが必要になります。

耐性が���きたときの治療薬は開発されましたが、実際の治療においては、T790Mの変異を証明することはなかなかできません。それが壁となり、耐性ができてもタグリッソを使用できないケースが多くなるのではないか、と考えられています。

■タグリッソの使用法

タグリッソも、他のEGFR-TKIと同様、1日1回服用の経口薬です。異常が起きているEGFRに選択的に作用するため、従来の3種類の薬に比べ、副作用が軽いという特徴があります。皮疹、下痢、爪の障害などが現れますが、従来のEGFR-TKIに比べると、症状が軽く、頻度も低いのが特徴です。ただし、副作用として間質性肺炎が起こることがあるので、十分に注意する必要があります。

タグリッソの登場により、EGFR遺伝子変異陽性非小細胞肺がんの治療は、大きく1歩前進したことになります。従来は抵抗性となったがんに有効な治療薬がなかったため、1次治療で使用したEGFR-TKIをできるだけ長く使い、化学療法に切り替える治療や、EGFR-TKIのリチャレンジといった治療が行われていました。

タグリッソが使用できるようになると、T790Mの変異陽性であれば、1次治療が効かなくなってからでも、がんの縮小が期待できます。現在、これらの薬剤をどのタイミングで使うのが最も有効かといったことも検討さています。

Key Word & News タグリッソを1次治療で使用する臨床試験が進行中

タグリッソは、EGFR-TKIに対して耐性をもち、T790Mの変異を有する非小細胞肺がんの治療薬として認可されています。つまり、現在は2次治療以降でしか使うことができません。しかし、従来のEGFR-TKIに比べて副作用が軽いなど、優れた点の多い薬です。これを1次治療で使用したらどうなるかを検証する臨床試験が進められています。

EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がんを対象とした第Ⅰ(I)相試験(AURA試験)は、すでに結果が出ています。奏効率は77%と高く、無増悪生存期間(PFS: 薬が効いている期間)が19.3カ月と報告されています。試験開始時点でT790Mの変異が陽性だったのは60人中5人でしたが、この5人を含め、T790Mの変異がなかった人にも効果が認められたことになります。

現在、第Ⅲ(III)相試験(FLAURA試験)が進行中です。この試験の結果によっては、1次治療からタグリッソを使用できるようになる可能性があります。どうなるかは試験の結果を待たなければわかりませんが、診療ガイドラインを大きく書き換えることになる可能性を秘めた、注目される臨床試験であることは間違いありません。

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