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皮膚T細胞リンパ腫の新治療薬 タルグレチン(一般名ベキサロテン)

監修●舩越 健 慶應義塾大学病院皮膚科専任講師/病棟医長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2016年9月
更新:2016年9月


全身療法の1次治療として期待される

病勢が増し、ステロイド外用薬、光線療法、放射線療法、手術による皮膚への局所治療のみでは制御できなくなった場合などに、薬物による全身療法を行います。全身療法の1次治療(1st-line)としては、これまではチガソンを光線療法と併用するRe-PUVA療法が行われてきました。

患者によっては、ゾリンザ、エトポシド、メソトレキセートなどが使われます。今回紹介するタルグレチンは、チガソンと同じ、レチノイドxという受容体に結合し、がん細胞の増殖を抑制するレチノイド系の薬剤です。

タルグレチンの臨床効果は、日本ではB-1101という第Ⅰ(I)/Ⅱ(II)相臨床試験によって示されました。この臨床試験では、CTCLと診断された、病期Ⅱ(II)b以上の患者、および病期Ⅰ(I)b~Ⅱ(II)aでステロイド外用以外の標準的初回治療で望ましい効果が得られなくなった患者を対象にタルグレチン300mg/㎡を投与し、計13例の24週間までのデータを集積しました。

皮膚病変をmSWATという基準で評価したところ、奏効率(CR[完全奏効]+PR[部分奏効])61.5%という結果が得られました。半数を超える患者さんに治療薬による反応がみられるということは、効果は高いといえます。SD(安定)の23.1%を併せると、進行させないことが治療目的となる疾患としては、恩恵を受ける患者さんは非常に多いと考えられます。

このB-1101試験と海外臨床試験の結果などから、安全性と有効性が確認され、タルグレチンは、2016年1月に製造販売承認されました。今後は、チガソンに代わって、タルグレチンが全身療法の1次治療に使われると考えられています。

チガソン=一般名エトレチナート ゾリンザ=一般名ボリノスタット エトポシド=商品名ベプシド/ラステッド メソトレキセート=一般名メトトレキサート mSWAT=modified Severity-Weighted Assessment Tool(病変部位/紅斑/腫瘤等の体表面積に占める割合(%)に基づきスコア化したもの)

カプセル300mg/㎡を1日1回服用。肝機能障害などに注意

タルグレチンの服用方法は、カプセル300mg(75mg×4)/㎡を、1日1回食後に内服します。その��の生活に合わせて、例えば夕食後など、飲み忘れにくいタイミングを選んで、毎日だいたい同じ時間帯に服用するとよいでしょう。

副作用には、甲状腺機能低下症、肝機能障害、脂質代謝異常があり、多くの人に現れるとともに、重症化する場合があるので注意が必要です。例えば強い倦怠感を感じたときには、すでに肝機能がかなり低下してしまっているなど、いずれも重度になるまで本人が自覚しにくいものです。そのため、血液検査で定期的なチェックが重要です。とくに服用開始直後ほど重症化する頻度が高いため、当初は週1回の頻度でチェックが必要となります。

甲状腺機能が低下した場合には、チラージンという薬で補います。

チラージン=一般名レボチロキシン

今後、使用が期待できる治療薬も

CTCLのうち進行が緩徐な疾患の治療薬として、海外ではこのほかにも使用されている薬があります。例えば、NCCN(米国総合がん情報ネットワーク)ガイドラインでは、isotretinoinというレチノイド薬やchlorambucilなどの日本国内未承認の薬を挙げています。

また、トレチノインという日本でも急性前骨髄球性白血病(APL)に使われている薬や、アドリアシン、ジェムザールなど、国内で他のがん種に使用されている薬も治療選択肢となっており、今後、海外での有効性が認められて、国内でも治療に使われる可能性があります。

NCCN=National Comprehensive Cancer Network isotretinoin(イソトレチノイン)=国内未承認、商品名Accutane(アクタン) chlorambucil(クロラムブシル)=国内未承認、商品名Leukeran(ロイケラン) トレチノイン=一般名ベノサイド アドリアシン=一般名ドキソルビシン ジェムザール=一般名ゲムシタビン

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