前立腺がん骨転移の治療薬 ゾーフィゴ(一般名ラジウム-223)/ランマーク(一般名デノスマブ)/ゾメタ(一般名ゾレドロン酸)/メタストロン(一般名ストロンチウム-89)
ゾーフィゴ――生存期間を延ばした新薬

(Parker C et al:N Engl J Med. 369:213-233, 2013)
今年の3月、去勢抵抗性前立腺がんの骨転移に対する新しい治療薬が承認されました。*ゾーフィゴという薬で、メタストロンと同じように骨に沈着し、放射線を出して治療する放射性医薬品です。
ゾーフィゴはラジウムを使用しています。カルシウム、ストロンチウム、ラジウムは同じように代謝されるため、ゾーフィゴも主に骨転移が起きている部分に取り込まれるのです。
ゾーフィゴはα(アルファ)線を出しており、α線の特徴は飛ぶ距離が極めて短いことです。わずか0.1mm未満なので、骨に沈着しても骨髄に影響を及ぼすことがありません。そのため、貧血、白血球減少、血小板減少といった副作用が少ないのです。
これまで使われていた3剤とゾーフィゴが大きく異なるのは、生存期間を延長したことにあります。ランマークもゾメタもメタストロンも、疼痛や骨折などの骨関連事象を抑える効果は証明されていますが、これらの薬を使っても使わなくても、生存期間は変わりませんでした。ところが、ゾーフィゴについては、国際共同第Ⅲ(III)相試験であるALSYMPCA試験で、生存期間を延ばす効果が確認されているのです(図3)。
この試験は、骨転移のある去勢抵抗性前立腺がんの患者を対象に、標準治療にゾーフィゴを加えた「ゾーフィゴ群」と、標準治療を行った「プラセボ群」とで比較しています。その結果、全生存期間(OS)中央値は、ゾーフィゴ群が14.9カ月、プラセボ群は11.3カ月でした。ゾーフィゴを加えることで、生存期間が有意に延長することが明らかになったのです。
また、骨関連事象に対しても有効であることが証明されています。骨関連事象が最初に起きるまでの期間も延長し、脊髄圧迫症状のリスクなども減少しています。
同じような作用メカニズムのゾーフィゴとメタストロンですが、生存期間��延長する効果が認められたのはゾーフィゴだけでした。これは、ゾーフィゴが骨髄に影響を及ぼさないため、十分な量を投与できたことも理由の1つと考えられています。
また、この臨床試験によって、骨転移が生存に関係していることが明らかになりました。これまで骨転移は、肺転移や肝転移や脳転移と異なり、痛みはあるが、生命にはあまり関係ないだろうと考えられていました。しかし、この臨床試験によって、そうではないことが明らかになったと言えます。ゾーフィゴは骨にしか作用しない薬です。それで生存期間が延長したということは、骨転移が生存にかかわる問題であることを証明していると考えられるのです。
■放射線治療医による治療
ゾーフィゴは放射線を出す薬なので、治療は放射線治療室で行わなければなりません。治療を行うのも放射線治療医です。メタストロンも同様ですが、これが通常の薬剤と大きく異なる点です。そのため、ゾーフィゴの治療を受けられるのは、泌尿器科と放射線治療科の両方がそろっている医療機関ということになります。
■投与法と副作用
特に入院の必要はなく、通院で治療を受けることができます。4週間に1回の投与で、つらい副作用もあまりなく、患者さんには比較的楽に治療が可能であると思っています。最大6回まで投与することが認められています(図4)。


治療中は、腫瘍マーカーのPSA(前立腺特異抗原)検査だけでなく、CTなどの画像検査で、新たな転移が起きていないかをチェックします。新しい転移が現れなければ、治療が続けられます。
副作用に関しては、臨床試験では、造血障害を含めてグレード3に達する重い副作用は起きていません。ただ、投与された薬は、最終的に便に排出されるので、下痢を起こす人がいます。多くの場合、重い症状ではないので、治療に支障を来たすことは少ないと思われます。
ゾーフィゴを使用するのに適しているのは、前立腺がんが骨だけに転移している患者さんや、骨だけに目立ってがんがある患者さんです。ゾーフィゴは骨にだけ効く薬ですから、リンパ節転移、肺転移、肝転移など、他に転移がある患者の治療には、適していないと考えられています。
副作用の少ない薬剤ですが、投与後の長期にわたるフォローアップはまだあまり行われていません。放射線を利用した治療薬ですので、2次発がんなどについては、慎重に観察していく必要があります。現在の段階では、2次発がんの増加が確認されたという報告はありません。
*ゾーフィゴ=一般名ラジウム-223 *ザイティガ=一般名アビラテロン *イクスタンジ=一般名エンザルタミド
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