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抗がん薬の基礎知識:抗がん薬はどのようにがんを叩くのか!? 丸ごとわかる「抗がん薬基礎講座」

監修●矢形 寛 聖路加国際病院乳腺外科副医長
取材・文●常蔭純一
発行:2013年1月
更新:2019年12月

Q11 抗がん薬の投与量はどのように決められるの?

基本的に、抗がん薬の量は、患者さんの体表面積を厳密に計算して、決定する

抗がん薬に限らず、薬剤には副作用があります。抗がん薬の場合は副作用が強いために、投与量はその人の体のサイズに合わせて厳密に計算されます。具体的にいうと体重、体表面積、さらに排泄が難しい薬剤の場合は腎機能と照らし合わせて投与量が決定されることもあります。

1例をあげると乳がん治療では、アドリアマイシンという抗がん薬を使いますが、この薬は体表面積によって60mg/㎡と投与量が決まっています。身長160cmで体重50kgの人の場合には体表面積は1.501m2と計算できます。そこに60mgを掛けた90.06mgがその人の1回の投与量となります(薬によっては他の投与量の決め方もある)。

アドリアマイシン=一般名塩酸ドキソルビシン

Q12 1種類だけの単剤治療と、多剤を使う抗がん薬治療の違いは?

抗がん薬は、がん細胞の遺伝子に直接働きかける薬もあれば、間接的にがん細胞の増殖を妨げる薬もあります。とすれば、作用の異なる薬を同時並行で用いることで治療効果をさらに引き上げることも可能でしょう。そうした考え方に基づき考案したのが、多剤併用療法で、今では多くのがんで、この治療が行われています。

乳がんでは、アドリアシンとエンドキサンという2種類の薬剤の併用は一般的に行われています。もっとも、単純に効果の異なる薬剤を組み合わせても治療効果が上がるとは限りません。乳がんでは、アドリアシンやタキソールやタキソテールなどタキサン系の抗がん薬は大きな効果がありますが、同時に使うよりも単剤として順次使うほうがより効果的な場合が多いのです。

アドリアシン=一般名ドキソルビシン エンドキサン=一般名シクロホスファミド タキソール=一般名パクリタキセル
タキソテール=一般名ドセタキセル

Q13 抗がん薬は使っていると効かなくなるのはなぜ?

直径1cmにも満たないがんには、何100万、何1,000万個ものがん細胞がひしめいています。そうしたがん細胞の性質は個々に微妙に違っており、抗がん薬に対する感受性も違っています。長期間同じ抗がん薬を使い続けていると、がん細胞の中で、抗がん薬に対する感受性の低いものが生き残って増殖を繰り返すようになります。その結果、抗がん薬が効かなくなってしまうのです。これを薬剤耐性といいます。抗がん薬が効かなくなると、新たな抗がん薬で治療を始めなければなりません。

Q14 抗がん薬の副作用はなぜ起こるの? 症状は?

 残念ながら、抗がん薬はがん細胞だけに作用するわけではありません。骨髄や毛髪など体の中で細胞増殖が盛んに繰り返されている部分では、正常細胞に対しても抗がん薬は作用します。その結果、それらの組織が障害され副作用が起こるのです。具体的な症状としては、骨髄での副作用として白血球の減少や免疫低下、発熱、さらに脱毛やしびれなどの神経症状、吐き気、倦怠感、味覚障害、心機能の低下などがあげられます。

最近では、こうした副作用を緩和するための支持療法も進歩しており、副作用のリスクも以前ほどではありません。とはいえ、なかには治療終了後にも後遺症のように、副作用が残る人もいるので、やはり十分な注意が必要です。

Q15 入院しなくても抗がん薬治療ができるの?

治療スタイルの変化によって、患者さんは病院に拘束されることなく自分の生活を楽しめるようになっている

最近ではがん種にかかわらず、通院による外来での抗がん薬治療が主流になっています。乳がんの場合もその例外ではなく、大半の患者さんが外来で抗がん薬治療を受けています。こうした傾向の背景として、抗がん薬の効果の高まりとともに、抗がん薬治療を支える支持療法の進歩があげられるでしょう。こうした治療スタイルの変化によって、患者さんは病院に拘束されることなく自分の生活を楽しめるようになっています。これは患者さんにとっては素晴らしい変化といえるでしょう。

Q16 初期治療と再発・転移では使う抗がん薬が違うの?

聞きたいこと、話したいこと、説明を受けた内容などのメモも、前もって準備しておくと、スムーズな医療コミュニケーションが取りやすくなる

最近では、がんの初期段階でも、手術と組み合わせる形で抗がん薬治療を行う場合が少なくありません。そうした治療は「がんの根治」を目標としています。

それにもかかわらずがんが再発・転移する患者さんがいるのも事実です。その場合には、初期治療で用いた抗がん薬が効かなかったと判定されます。治療の目標は「いかに長く健やかに生活していくか」にシフトし、初期治療とは異なる薬剤が用いられます。また再発・転移後の抗がん薬治療でも、抗がん薬の効力に限界が来ると、やはり抗がん薬を切り替える必要に迫られます。そのことを考えると再発・転移後の治療では、抗がん薬の選択が治療の最重要ポイントといえるでしょう。

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