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エビデンスのあるオーダーメード治療を可能にするために 未承認薬・適応外薬で標準治療から見放された患者さんを救う!

監修:今村貴樹 千葉ポートメディカルクリニック院長
取材・文:町口 充
発行:2011年10月
更新:2013年4月

経済的負担をいかに軽くするか

[国内で適応外で保険で使えない併用薬]

がん種 適応外の併用薬
卵巣がん ドキシル+アバスチン
膵がん FOLFIRINOX
(5-FU+ロイコボリン+
イリノテカン+エルプラット)
ジェムザール+アブラキサン
HER2陽性乳がん ハーセプチン+タイケルブ
閉経前ホルモン陽性乳がん アロマターゼ阻害剤+リュープリン
EGFR変異陽性肺がん タルセバ+イレッサ+アバスチン

未承認薬や適応外薬の大きな問題は、健康保険が適用されないため、薬代の負担が大きいことです。飲み薬でも1瓶数10万円するものもあり、経済的負担は半端ではありません。

「かかった分はできるだけ医療費控除によって税金の還付を受けるといいです。また、生命保険に加入している人で末期がんと診断されたら保険金が支払われる特約がある人は、それを利用するといいでしょう。実際に私のところにも、末期がんと診断されて500万円おりたので、このお金で治療して欲しいとやってきた患者さんがいます」

臨床試験に参加する方法もあります。この場合は薬代が無料となり、患者さんの負担はありません。しかし、誰でも参加できるというわけではありません。

現在、千葉ポートメディカルクリニックでは膵がんに対するFOLFIRINOXの試験、HER2陽性乳がんに対するハーセプチン+タイケルブ併用療法の試験などを行っています。

また、最近行った試験では、EGFRという遺伝子の変異がある肺がんに対するタルセバ+アバスチン併用療法の試験があります。これらの薬を使った治療法は未承認ですが、海外のデータでは、生存期間が8~10カ月なのに対して、これにアバスチンを追加すると生存期間が1~2年ぐらい延びることが確かめられていて、今村さんのクリニックで行った試験でも、同様の結果が得られています。

「EGFR遺伝子変異がある患者さんであれば、アバスチンを加えるべ��です」と今村さん。

また、前述したように承認薬でも併用して使うと保険適応外になるケースもあります。

「HER2陽性の乳がんの患者さんにハーセプチンとタイケルブは両方一緒には使えませんが、海外では併用すると効果が大きいとのエビデンスがあります。単独であれば保険が適用されるので、治療を受けている医療機関と連携して、そちらではハーセプチン、うちではタイケルブを使うというやり方で患者さんの負担を少なくしています。同じように、ホルモン陽性乳がんの場合、アロマターゼ阻害剤とリュープリンを併用すると、標 準治療であるノルバデックス()+リュープリンより再発率が低くなるという論文が出ています。しかし、アロマターゼ阻害剤とリュープリンは、それぞれ承認薬ですが併用して使えない。これも2つの医療機関で分けて使えば問題ありません」

[EGFR遺伝子変異がある肺がんに対するエルロチニブにベバシズマブを併用した効果]

EGFR遺伝子変異
(355人)
ベバシズマブ併用群 プラセボ群 ハザードリスク
(95%Cl)
p値
症例数 MST 症例数 MST
変異あり (30人) 12 17.1カ月
倍近く生存
期間が延長
18 9.7カ月 0.52
(0.19~1.38)
0.848
変異なし (325人) 173 2.9カ月 152 1.6カ月 0.57
(0.45~0.73)
エルロチニブにベバシズマブを併用することで、生存期間が大きく延びた

ノルバデックス=一般名タモキシフェン

適応外検査や補完治療にも注目

保険適用外の検査や補完療法の中にも有効なものがあります。

イレッサやタルセバは、EGFR遺伝子変異がある肺がん患者さんに有効であることが明らかになっていますが、EGFR遺伝子変異がない患者さんでも10パーセントぐらいの人に効くというデータがあります。それはどんな人かというと肝細胞増殖因子(HGF)という値が低い患者さんです。血液検査で肝細胞増殖因子を測ればわかるのですが、この検査は保険適用外。しかし、せいぜい数千円でできるので、「自分はEGFR遺伝子変異がないからダメだと諦めていた人でも、検査を受けることで、イレッサやタルセバの治療が受けられるかもしれません」と今村さん。

他にも、抗炎症療法と呼ばれる治療法にも今村さんは取り組んでいます。

「抗がん剤など十分な治療を受けるには患者さんの状態をよくすることが大事。もっと広げていきたいと考えているのはEPA(エイコサペンタエン酸)という栄養素を使った抗炎症療法です」

がんの患者さんの中には、栄養状態が悪く、このため抗がん剤治療が続けられない人もいます。がん細胞が血中に放出するインターロイキン6などのサイトカインと呼ばれる物質が、食欲や体重が減るといった症状を引き起こすのです。

適応外治療法も工夫次第

30代の女性。乳がんの術後でHER2陽性だがハーセプチンが効かなかったが、諦めきれずに今村さんのところへ来院。ハーセプチン+タイケルブ併用療法を開始。最初に治療を受けていた病院でハーセプチン、今村さんのところではタイケルブと使い分けで投与。治療開始から1年たったが、いまのところ再発していない。脱毛や骨髄抑制()もなく、元気でいる

骨髄抑制=がん治療で抗がん剤、放射線などにより、一定期間、骨髄の造血能が障害される状態

未承認薬で骨転移が消えた!

69歳の女性。乳がんで7年前に再発。骨転移があった。「抗がん剤は使いたくない」という患者さんの要望でホルモン剤で治療していたが、使っていたフェマーラ()に耐性ができて、「あなたにはもう緩和ケアしかない」と主治医からいわれ、今村さんのところへ。

フェマーラ+フルベストラントの2つのホルモン剤で治療。フルベストラントは未承認薬だが、海外ではフェマーラ+フルベストラント併用療法の効果が証明されていた。経過は良好で、今年7月には骨転移が消滅。抗がん剤を使っていないので脱毛もせずに元気に暮らしている

フェマーラ=一般名レトロゾール

抗炎症療法で全身状態を改善

[エパデールが全身状態の改善に有効]
(症例)膵がん 女性(76歳)

  2011年4月25日 2011年6月20日 2011年8月22日
アルブミン 2.1 3.5 3.4
インターロイキン6 29.8 4.9 4.6
CRP 6.37 1.84 1.2
CA19-9 10080 1061 534
抗がん剤治療とともに、炎症を抑えるEPAの組み合わせで、全身状態が大きく改善された

ある膵がんの患者さん(76歳・女性)では、来院したとき非常にサイトカインの値が高く、正常値が4以下であるはずのインターロイキン6が29.8もありました。腫瘍マーカーも1万ぐらいありました。ジェムザールとアブラキサンを投与し、同時にEPA製剤のエパデール()も加えました。エパデールは高脂血症および閉塞性動脈硬化症の治療薬として用いられています。

すると、3カ月後には腫瘍マーカーが1000ほど下がり、インターロイキン6の値も4.9とほぼ正常値になりました。むくみも解消できたことで、車いすだったのに自力で歩行もできるようになり、全身状態が大きく改善されました。この結果から、抗がん剤とEPAの組み合わせは併用効果が大きく、ほかのがんでも同じような効果が得られる可能性がある、と今村さんは指摘します。

「だからこれからは、抗がん剤だけでなく、抗炎症療法もやるべきですが、その点が標準治療ではまだまだ不足しています」

こう語る今村さんは次のように力説します。

「未承認薬の承認スピードはかなり海外に追いつきつつあります。これは大きな成果ですが、次の課題として、標準治療で落ちこぼれた人たちをどうやって救うかということです。今の治療は、ガイドライン通りやるのが精一杯で、患者さん1人ひとりに目を向けるという点が欠けているように思えてなりません。患者さん1人ひとりのための、エビデンスのあるオーダーメード型治療こそがこれから求められると思います」


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