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夢の薬ではない!! 明確な意志を持って未承認薬を使おう

監修:今村貴樹 千葉ポートメディカルクリニック院長
発行:2009年10月
更新:2019年7月

データを鵜呑みにせず、オーダーメイド治療を行う

未承認薬を処方する医師を探す患者さんの多くは、再発進行がんでほかに治療方法がなくなったと思われる人たち。最近はそうした患者さんに対して、医師が未承認薬をデータどおりに処方し、薬が強すぎて患者さんが寝たきりになるケースも出てきているが、今村さんはいう。

「これは標準治療にもいえることですが、日本の抗がん剤治療はあらゆる人を十把ひとからげに、同じ量の投薬を行うことが少なくありません。でも、これからの医療の中心はオーダーメイド医療でなければ。隣の人とは薬の効き方から副作用まで違っているわけですからね。

とくに、未承認薬は欧米で承認された薬ですから、「日本人に投与する場合、少ない量からスタートするのが当然。分子標的薬など新しい薬の場合、わかっていない副作用が突然出ることもあります。ですから、3割、5割から始めて増量していく。感覚としては、70パーセントの投与なら70パーセントの効果かというと、実際には効果がもう少し大きい気がします」

最近の傾向として、薬の副作用が出るか予測したり、再発の可能性が高いか低いかを調べる検査システムも増えているが、未承認薬によるこうした検査を求めて来院する人も増えた。

「肺がんや転移性大腸がんの治療で使うイリノテカン(商品名カンプト、トポテシンほか)の副作用が使用前にわかる検査や、乳がんの再発転移をかなりの効率で予測できるオンコタイプDX、マンマタイプなど。また、最近はK-RAS遺伝子の有無を調べてほしいという患者さんも増えました。これは大腸がんにアービタックスが効くかどうかを判定するものですが、今やK-RAS遺伝子を調べずにアービタックスを使うことは考えられなくなりつつあります」

こうした検査を積極的に活用し、効果のない治療で体を痛める可能性を少しでも減らしたほうが得策だと言えるだろう。

膵がんの手術から5年目驚異的サバイバーも

では、このように未承認薬を駆使してがんと闘い、患者さんの平均余命はどのくらい伸びているのだろうか。

「もちろん、一概にはいえません。でも、エルプラット(05年3月承認)が未承認だった頃の患者さんが、何人もサバイバーとしてご健在です。

エルプラットが承認されて元の病院に帰り、それが効かなくなったので、未承認薬のアバスチンを使った。すると、数カ月後に認可されたので再び病院に戻り、これが効かなくなったのでアービタックスに換えた――というようにして、3年、5年という人は珍しくありません。唯一、生存期間がはっきり出ているのは膵がん、胆管がんの患者さんです。使える薬が少なく、最初からここで引き受ける場合が多いので。ここでの平均生存期間は2年���つまり、通常の倍です」

患者さんの中には、こんな人もいる。

(1)Aさん、40代男性。胆のうがんでリンパ節転移があり、手術不能。医療機関から「もう当院では治療できない」といわれ来院。ジェムザール(一般名ゲムシタビン)とアブラキサンの低用量治療を5月1日から開始し、現在腫瘍マーカーは正常に。手術する病院を探している。

(2)Bさん、50代女性。膵がんでジェムザール+TS-1の治療も効果がなくなり、エルプラットをプラスしたり、アバスチンをプラスしたりあらゆる手を尽くす。とうとう使う薬がなくなるが、最後にアブラキサンを加えたところ、腫瘍マーカーが再び低下。6~7もの治療を乗り越え、初発後5年、再発後まもなく2年を数える、膵がんで稀有なロング・サバイバーである。

[膵がん患者さんの腫瘍マーカーの推移]
図:膵がん患者さんの腫瘍マーカーの推移

膵がんの50歳代の女性。抗がん剤を変えながら、これまで様々な治療を実施。
腫瘍マーカーの上昇をおさえつつ、術後5年目に入った今もご健在

どんな治療をしたいか、具体的な要望をもって

輸入報告書

未承認薬を海外から個人輸入する際に必要な書類の1つ、輸入報告書 (関東信越厚生局ホームページより)

ただし、このような結果が出てくる背景には、患者さん自身の体力などもかかわりがあるだろうが、もう1つ共通点がある。患者さんが強い意志をもって来院している点だ。

千葉ポートメディカルクリニックに来院する患者さんの9割は、「がん患者のあきらめない診療室」を“訪問”し、今村さんが随時更新している最新治験情報などをチェックし、無料の医療相談(セカンドオピニオン)を依頼した人々だ。それだけに、ここに来て何をしてほしいか、明確な要望をもっている場合がほとんど。

「乳がんでハーセプチンとタキソールの治療をしている人が、ここでアバスチンだけ打ちたい、といって来られるなど、皆さん、じつによく勉強し、最新治験情報にも本当にくわしいです」

今村さんは「未承認薬による治療は、生半可な気持ちで受けてはいけない」と考えている。

「未承認薬は決して、夢の薬ではありません。結果が出ないことはもちろん、重篤な副作用が出ることもあります。ですから、とりあえず、とか、不安だけどやってみよう、ではなく、患者さんやご家族も情報を集めてしっかり勉強し、治療を続ける覚悟をもつことが必要です」

正しい情報を集め、強い気持ちで求めれば、必要な治療を受けられる道が開ける可能性はある、ということだろう。最後に、「鬼っ子」の未承認薬だけに、心配な点について尋ねた。金儲け目的の医師や輸入代行業者を見分ける方法はありますか?

「簡単です。今は輸入代行業者も増え、どの薬がどれくらいの価格で売られているか、だいたいわかります。薬の価格がそれよりずっと高い医師や輸入業者は避けたほうがいいでしょう」


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