ウイルス療法が脳腫瘍で最も悪性の膠芽腫で高い治療効果! 一刻も早いウイルス製薬の量産化技術確立を
G47Δの第I-Ⅱa相臨床試験で安全性を確認、効果も
藤堂さんは、自ら開発した治療法の実用化を実現するべく、東京大学医科学研究所内で試験薬を作り、試験のプロトコルも作成するなどさまざまな努力を重ねてきた。
そして、2009年より5年間、G47Δの第I-Ⅱa相臨床試験「進行性膠芽腫患者に対する増殖型遺伝子組み換え単純ヘルペスウイルスG47Δを用いたウイルス療法の臨床研究」を実施した。
基準をクリアした再発膠芽腫の患者を対象として、定位的脳手術(腫瘍にアプローチ可能な部位の頭蓋骨に穴を開け、そこから脳腫瘍に針を刺入してG47Δ(ウイルス)を注入、2週間以内に2回の腫瘍内投与を行った。そしてG47Δの脳腫瘍内投与の安全性が確認された。
効果を示唆する所見も複数例で観察された。被験者13例のうちの1例は、試験投与以前に2回も再発している患者だったが、投与後10年生存し、今も元気でいるという。
このような長期的効果は特異的抗腫瘍免疫の寄与が大きく、それを活性化して治療効果を期待するにはG47Δ投与後、約半年かかるということもわかってきた。
医師指導第Ⅱ相試験で高い治療効果を証明
2015年からは、第Ⅱ相試験である「膠芽腫患者を対象にした増殖型遺伝子組換え単純ヘルペスウイルスI型の第Ⅱ相臨床試験」が医師主導試験として開始され、標準治療に対するウイルス療法の上乗せ効果を検討してきた。
臨床試験対象患者は、初期治療後残存もしくは再発した、KPS(カルノフスキー・パフォーマンスステータス:全身状態[PS]をスコア化したもの)が60%以上の膠芽腫患者を対象として、抗がん薬テモダール(一般名テモゾロミド)を併用して定位的脳手術により、2週間間隔で2回、その後、4週間間隔で最大4回までG47Δを繰り返し投与した(図3)。

患者13人が治療開始後1年経過した時点での中間解析では、1年生存率は92%と極めて高い成績だった(標準治療による膠芽腫患者の再発後1年生存率は通常14%程度)。
このように、単純ヘルペスウイルスI型を用いたウイルス療法が、悪性脳腫瘍で効果をもたらすことを臨床試験で証明したのは、藤堂さんが世界で初めてだ。
2016年には、G47Δは厚生労働省の先駆け審査指定品目、2017年には悪性神経膠腫を対象とした希少疾病用再生医療等製品に���定された。2019年2月には、「第11回日米癌合同会議」において、臨床試験の成績が発表され、高い関心を集めている。
しかし、残念ながら薬剤製造ラインの問題などにより、製品化が予定より遅れている。一刻も早いウイルス製剤の製品化と承認が待たれる。
ウイルス療法が根本からがん治療を変える可能性
米国では、2015年10月、メラノーマ(悪性黒色腫)に対する第2世代がん治療用単純ヘルペスウイルス1型のウイルス製剤イムリジック(IMLYGIC 商品名:日本未承認)という薬が、先進国初のウイルス療法薬として承認され、欧州でも承認された。
「イムリジックは第2世代のがん治療用ヘルペスウイルスですから、G47Δとは安全性が異なり、悪性脳腫瘍には不向きです。我々が開発した第3世代のG47Δの実用化が1日でも早く実現することを推進したいです。必ずや患者さんの福音になります」
免疫がウイルスを排除するという自然のメカニズムをうまく活用しているため、安全性、有効性はもちろん、副作用があまりない点も、従来の薬物療法に比べて大きなメリットだ。
「副作用は、免疫反応としての発熱がある程度ですが、それも長くは続きません」
ウイルス療法の実用化は、がん治療を根本から大きく変える可能性が出てきた。
「生検と同様な方法で、ウイルス投与は可能なわけですから、がんの3大治療(手術、放射線治療、化学療法)を行う前に投与しておけば、究極の治療前療法になると思います」
他のがん治療を受ける前にウイルス療法を行うことで、最初にがん細胞に対する免疫を引き起こせば、転移や再発のリスクが下がるということだ。
「将来的にはウイルス療法と免疫チェックポイント阻害薬を併用する方法も模索されるでしょう。さらに、さまざまなウイルスを組み合わせた〝ウイルス・カクテル〟と言えるようなウイルス療法薬の登場もそう長い先ではないと思います。そうすれば、悪性脳腫瘍はもちろん、固形がん全体を、ウイルス療法により根治(こんち)に導くことが大いに期待できます。ぜひともウイルス療法の重要性を多くの方々に知っていただき、がんのウイルス療法の1日も早い実用化を応援していただけると幸いです」
最後に、藤堂さんは力強くそう語った。