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ピンポイントでがんを抑える 遺伝子異常に大きな効果

監修●笠原寿郎 金沢大学附属病院呼吸器内科臨床教授
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2014年6月
更新:2014年9月


QOLの向上にも有効

図3 EGFR遺伝子変異陽性症例におけるQOL(臨床試験IPASS)

Thongprasert et al. JTO vol.6, No.11 , 2011

遺伝子異常に対する分子標的薬の治療成績のよさが明らかに示されたことに加え、患者さんのQOLという点でも分子標的薬は化学療法に比べてよい結果が出た(図3)。呼吸の困難さや体重減少、咳などの面で化学療法と比較した場合、分子標的薬のほうが悪化の見られる時期が遅かった。点滴ではなく経口薬であることも、患者さんとしては負担が少なくなる。これらのことなどから総合的に分子標的薬の評価が高まっている。

次に、いつ分子標的薬の投与をするのが効果的か、という課題も出てきた。
最初からイレッサなど分子標的薬を投与するのか、従来のカルボプラチンやタキソールを使った化学療法を行ってから分子標的薬治療に移るのかということだ。

笠原さんは次のように話す。「分子標的薬は、1次治療、2次治療のいずれの時期に用いても有用性に明らかな差は認められません。化学療法をしてからイレッサやタルセバに移ってももいいし、逆でもかまわない。臨床試験では、どちらの順番でも全生存率に差はありません」

一方、日本肺癌学会が作成する「肺癌診療ガイドライン2013年版」には、現在、化学療法と分子標的薬療法がともに第1選択として記載されている。イレッサとタルセバに差はあるのだろうか。

「肺がんにおけるEGFR遺伝子変異では、エクソン19という部位とエクソン21という部位の変異がありますが、エクソン19に対しては、タルセバのほうが効果は高い可能性があります。21についてはどちらも同じ程度の効き目とされています」

カルボプラチン=一般名パラプラチンなど タキソール=一般名パクリタキセル

進行後の治療継続にも有効?

治療界に「Beyond PD」という概念がある。治療中に病勢が進行(PD:progression disease)してしまった後も同じ薬剤を継続するという方法だ。肺がんにおける分子標的薬に関して、進行が見られた後でも継続服用に効果があるという報告が出てきたという。笠原さんは治療例を説明した。
「タルセバを投与した患者さんで、2年間ほど良い期間が続きましたが、再発してしまいました。しかし、その後もタルセバを服用し続けたところ、途中で放射線治療もしましたが、かなり長い期間、病勢コントロールができました。普通なら同じ治療を続けても悪くな���一方だったら、その時点が薬剤の替え時という解釈でしたが、そうではないのかもしれません。『続けたほうがいい』とは言えませんが、『続けてもいい』のかもしれないということです」

笠原さんは、さらに治療選択肢について解説した。
「しかし、脳転移が生じたら続けないほうがいいです。放射線治療や手術をしなければならない。分子標的薬だけを続けるのが良いというのではなく、どのような治療法がいいかは結論づけられていないのが現状です。検討課題ですね。患者さんにとっては、担当医と相談して、化学療法に替えるのか、他の放射線治療などに替えるのか考えることが大切です」

治療の切り替えは臨機応変に行うべきで、あとに有効な療法が残っているかどうかで決めたり、年齢や全身状態(PS)などを考慮した上で、消去法でそのまま服用を続けたほうがいいというケースもあるという。

「私は、若い患者さんならEGFR-TKIを使って、悪くなったら早期に化学療法に切り替えます。有効な治療に移るのが筋だと思います。また悪くなったら、もう1回EGFR-TKIに戻ればいいのです。そういう選択肢もありますから、可能なら化学療法に移ったほうがいいと思います。生存期間が伸びるのは両方を受けた人というデータもあります」

副作用対策も大切 予防対策を

EGFR-TKIによる治療成功期間は従来の治療法に比べて長いため、副作用対策も重要となる。最も懸念されるのは急性肺障害(間質性肺疾患)で、投薬を始めてから2~4週間で発生することが多く、この期間はとくに注意が必要となる。長期的には、皮膚障害や肝機能障害、爪への影響や下痢などがある。タルセバのほうが、副作用が強いということも指摘されているという。

図4 副作用の予防治療の例

「皮膚障害では皮膚科医との連携も必要となってきます。皮膚障害の予防がこのところ普及してきました。ブツブツが出たり、赤くなったりすることを防ぐために、モイスチャー(保湿)クリームや日焼け止めクリームを塗ったり、ステロイドや抗菌薬を服用すると、障害が出にくくなります。出ても軽症で済みます」(図4)

笠原さんは、今後も患者さんを診ながら、肺がん治療における分子標的薬の研究に力を入れていくという。「注目は抗がん薬との併用療法です。有望なのは、タルセバをシスプラチン、ジェムザールの間に挟んで併用し、最後にタルセバを2週間投与する方法があります(図5)。しかしこの治療は、医師も患者さんも大変です。私も含め、より負担が少なく効果の高い併用療法の研究を進めています」

図5 分子標的薬と抗がん薬の併用療法臨床試験の概略(FAST-ACT II)

Wu YL, et al. Lancet Oncol 2013

シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダ ジェムザール=一般名ゲムシタビン

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