日本発の新ALK阻害薬に期待 より高い効果で副作用も少なく
第2世代のALK阻害薬 日本で開発
井上さんは2013年の世界肺癌会議(WCLC2013)で、ザーコリの次に当たる第2世代の分子標的薬について、発表を行った。日本で開発され、同年秋に承認申請が行われた*Alecensa(アレセンサ)である。
発表によると、化学療法による治療歴がありALK阻害薬による治療歴のないALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんにおいて、Alecensa(アレセンサ)が高い奏効率を示すことが第Ⅰ、第Ⅱ相臨床試験(AF-001JP)で明らかになり、その試験の1年間追跡データを解析したところ、PFS率が83%という非常に良好なデータが得られ、脳転移に対する効果も長く続くことが明らかになったという。
井上さんは、「試験の患者数が少ないので断定的なことは言えませんが、EGFR変異に対する分子標的薬や第1世代のALK阻害薬ザーコリと比べても、明らかに効果が長く続くという印象があります。副作用も軽度で、忍容性は極めて優れていると実感しています」
第Ⅱ相試験で分かったのは、46例中、完全奏効(CR)が7例、部分奏効(PR)が36例で、奏効率は93.5%ということだった(図4)。

「吐き気などの副作用もないに等しく、あっても従来よりも軽いという結果です。ALK融合遺伝子を有する非小細胞肺がんの特効薬となりえます」
*Alecensa(アレセンサ)=一般名alectinib(アレクチニブ)
ザーコリ、Alecensa(アレセンサ)の比較試験も開始
脳転移についても、良い結果が示された。治療開始時に脳転移が認められた患者は14例だったが、このうち9例では脳病変が消失し、全身を含めて増悪が12カ月を超えて見られていない。また他の5例も、Alecensa(アレセンサ)治療中には脳病変の増悪は認められなかった。
「脳転移に対する効果は、EGFR遺伝子変異に対する分子標的薬でも知られていますが、Alecensa(アレセンサ)は長く効く印象です」
また、ザーコリは、ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんの標準治療となっているが、過半数の症例で、奏効後1年以内に効果が見られなくなるとされている。
米国で、そのような症例にAlecensa(アレセンサ)が有効かを見る臨床試験(AF-002JG)が行われた。ザーコリに抵抗性の出た47例が対象とされ、奏効率54.5%、CRが1例、確定PRが16例、未確定PRが7例と、ザーコリ抵抗性症例でも高い有効性が認められた。
欧米も注目の新薬 今後の展開に期待
新薬Alecensa(アレセンサ)とザーコリの位置づけも注目���れるが、現在日本で、両者を直接比較する第Ⅲ相試験が行われている。
「結果が出るのはまだ先なので、2014年秋に予想されるAlecensa(アレセンサ)承認後は、どちらを優先して使うのかは、医師の判断となります。ALK融合遺伝子陽性の頻度は非小細胞肺がんの2~5%ですから、症例数が少なく、臨床試験が進みにくいという面がありますが、日本で開発された新薬には欧米も注目しており、ALK阻害薬の中では今後の展開が最も期待できる薬剤だと思います」と井上さん。
加えて、LDK378という開発名の薬剤の臨床試験も行われており、良い成績が報告されているという。
検査も進歩 より進む個別化医療
新薬開発も著しいが、検査も進歩している。「遺伝子異常は、可能な限り調べるべきです。これまではEGFRの変異があるかどうかを検査した後にALKを調べる、という順番で行われたため時間がかかっていましたが、同時にすべての遺伝子変異を調べてしまおうという研究が進められています。近い将来は短時間で複数の遺伝子変異の有無が分かるようになると思います。患者さんも、ご自身に合った治療を受けるため、積極的に医師と相談することを勧めます」と、井上さんは個別化医療がより進展することに期待をかけている。
「私は、肺がんを専門に十数年治療して来ました。以前は短期間で亡くなってしまうことが前提で、いかに限られた時間を苦痛なく過ごしていただくかを意識していました。しかし、分子標的薬が登場して、格段に余命が伸び、QOLも良くなりました。今は 〝いかに良く長く生きていただくか〟をテーマにしています。その努力を研究者一丸となって続けていきたいと思います」
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