新たな治療薬も登場!肺がんALK阻害薬の最新情報
期待される第2世代のALK阻害薬アレセンサ
そういった中、登場したのが第2世代の
ALK阻害薬である*アレセンサだ。2014年9月に承認された。
「アレセンサは国内で第Ⅰ/Ⅱ相試験が行われました。その第Ⅱ相部分において奏効率93.5%と驚くべき成績が報告されています。無増悪生存期間も非常に良好で、まだ経過観察中ですが、現時点で中央値は27カ月を超えるものと推測されます」(図3)

さらに2つ目の臨床試験では、ザーコリによる治療歴のある患者さんに対して、ア
レセンサは評価可能な24例のうち18例で30%以上の腫瘍縮小効果をもたらし、奏効率は58%と学会報告されている。脳転移に対しても有効性が認められたという。
「ザーコリは一般に中枢神経系である脳や脊髄に入りにくいですが、アレセンサは中枢神経系にもある程度入っていくことができ、脳転移にも効果が期待できると考えられています」
また気になる副作用についても、アレセンサで報告されているのは、だるさや筋肉痛、むかつき、浮腫などで、いずれも軽度なものがほとんどとされている。一方、ザーコリでは、消化管障害や、視覚異常、薬剤性肺障害などが報告されている。
効果、副作用の両方の点から見ても、アレセンサは期待が高い薬だと言えるだろう。ただし注意も必要だと田村さんは指摘する。
「アレセンサはあくまでも新しい薬でまだ臨床データが少ないですから、きちんとしたエビデンス(科学的根拠)が出揃うまで、はっきりしたことは言えません。しかし、臨床現場で治療にあたっている医師たちの印象としては、〝優れた薬〟と感じているのは確かでしょうね」
現在、ザーコリとアレセンサを直接比較する第Ⅲ相臨床試験が進行中であるとのこと。数年後にはその結果が出る見込みだ。
*アレセンサ=一般名アレクチニブ
新たなALK阻害薬も開発中
ceritinib(セリチニブ)の効果(無増悪生存期間)

ALK阻害薬としては、国内3番手となる薬剤の開発も進められている。米国では既に承認・市販されていている*ceritinib(セリチニブ:一般名)だ。
ザーコリによる治療を受けたことの��る患者さんおよび、ALK阻害薬の治療歴のない患者さんを含む114人を対象に行われた第Ⅰ相試験で、無増悪生存期間の中央値が7.0カ月、奏効率が58.0%という結果が報告されている(図4)。
また、ceritinibはアレセンサに耐性となった一部の患者さんに対しても効果がみられたとする報告も出ているという。
有効な薬剤が次々と肺がん治療の現場に導入されていることはすばらしいことである。しかし、ほとんど全ての薬剤においていずれ耐性が出現し、残念ながら効かなくなってしまう。なぜがん細胞は耐性となってしまうのか、耐性のメカニズムを解明し、新たな耐性克服策を樹立することは極めて重要な課題といえる。
*ceritinib(セリチニブ:一般名)国内未承認
今後明らかになるALK阻害薬の治療戦略
ここ2~3年でALK融合遺伝子を持つ肺がん患者さんの治療は激変した。現時点ではザーコリとアレセンサの2剤が治療薬として使うことができるが、今後この2剤をどのように使っていくのか、その治療戦略も重要になってくる。
「これまでの治療の大原則は、1番効果が高く、かつ安全な薬を第1選択として使うことです。患者さんに説明するときには、効果と副作用を、それまでのエビデンスに基づいて、どこまでわかっているのか詳細に説明します。現時点で、ザーコリについてはいくつかのエビデンスが出され、標準治療として確立されているといえます。また世界中で使用され、日本の実臨床での使用経験も蓄積され、効果と安全性に関する情報も確かなものになりつつあります。一方のアレセンサは、世界で初めて日本で承認され、臨床データは極めて限られています。しかしその限られたデータでは、ザーコリの成績と直接比べるわけにはいきませんが、奏効率、無増悪生存期間、安全性とも極めて優れていることが示唆されます」
現時点では2剤をどのように使っていくのか、まだはっきりとしたことはわかっていないが、この辺りについても現在進行中の臨床試験の結果や現在使用中の患者さんの臨床経過の解析などから、今後明らかになっていくだろう。
ALK阻害薬はさらにいくつかの薬剤が開発中だそうだ。また肺がんの原因となる融合遺伝子など新たな遺伝子異常の解析も進んでいるという。ALK融合遺伝子とは別にRET融合遺伝子、ROS1融合遺伝子も発見され、これらの遺伝子異常を標的とした薬剤開発も意欲的に進められている。肺がん患者さんそれぞれのがん細胞の遺伝子異常など分子生物学的特性に基づいた個別化治療への道がさらに拓けていきそうである。
今後、最適な治療を受けるためにも遺伝子解析検査が重要になってくると田村さん。
「これだけ効果が期待できる治療があるのですから、EGFRやALKなど発がんやがんの増殖に直接関わる遺伝子異常のある患者さんを絶対に見落としてはなりません。
若くてたばこをあまり吸わない人だけではなく、腺がんの成分を少しでも含む肺がん患者さん全てについて調べなくてはなりません。また、遺伝子1つひとつではなく、可能性のある遺伝子を一括して解析できるような検査体制の樹立、検査キットの開発は必須といえます」
イレッサから始まった肺がんの薬物療法の〝革命〟は、今後さらに進化していきそうだ。
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