治療薬に新たにボスチニブが加わる 慢性骨髄性白血病の最新治療
薬によって異なる作用点
しかし、鈴木さんは「新しい薬だから、あるいは倍率が高いからといって必ずしもよいとは言えません。その人に合った使い方をすべきです」という。
鈴木さんによれば、4つの薬はそれぞれに作用点が異なるという。「同じに効いているのではなく得手不得手がある」というのだ。
実は、BCR-ABL遺伝子が起こす点突然変異にはいくつもの種類があり、チロシンキナーゼの変形のタイプも様々にある。変形の種類によって結合しやすい分子標的薬の種類も異なるのだ。
ダサチニブ、ニロチニブ、ボスチニブの3つの薬は、イマチニブに抵抗性を示す点突然変異の多くに有効であることがわかっている。ただし、「T315I変異」と呼ばれる点突然変異には、イマチニブもほかの3つの薬も効果が期待できないという(表3)。
副作用も薬によって異なる。ダサチニブの副作用として肺高血圧症や胸水などの体液貯留が報告されており、呼吸器疾患や高血圧症などの持病を持っている患者さんは他の薬を選択する必要がある(表2)。
一方、ニロチニブの副作用で心配なのは末梢動脈閉塞性疾患(PAOD)、虚血性心疾患、血糖値の上昇、膵酵素の上昇など。このため糖尿病や膵炎の既往患者さんの場合は他の薬が勧められる(表2)。
一番新しいボスチニブはどうかというと、他のチロシンキナーゼ阻害薬と比べると副作用は少なく、下痢と肝障害が多少ある程度という。
そこで鈴木さんは語る。「ボスチニブは、他の薬と比べて安全性のプロファイルが異なるし、他の薬を使っていて点突然変異を起こし、効かなくなった患者さんにも有効であることから、2次治療や3次治療の新たな治療選択肢として期待できます」
その人に合わせた治療の選択
具体的な薬の使い方としては、従来、1次治療で使ってよいのはイマチニブのみだったが、10年にニロチニブ、11年にダサチニブが第1選択の薬として使用できるようになり、治療選択の幅が広がっているが、鈴木さんは次のように指摘する。
「基本的には最も薬の値段が安いイマチニブから治療を始めるのがよいと思います。その後、イマチニブに抵抗性が出てきたら、安全性の違いから合併症など患者さんの状態を考慮したり、点突然変異がどのタイプなのかを調べて、ニロチニブ、ダサチニブ、ボスチニブを使い分けていくのがよいでしょう。
最初にイマチニブから治療を始めて、それが効かなくなったらダサチニブ、ニロチニブに切り換え、その後にボスチニブという方法もあるでしょうし、イマチニブが使えないのがあらかじめわかっていたら、最初に���サチニブあるいはニロチニブを使って、効かなくなったらボスチニブに変えることもあるかもしれません」
このように治療選択肢が4剤に増え、その人に合った治療を選べる時代になって、造血幹細胞移植は、すべての薬が効かなくなったときの最終的な手段に変わってきているようだ。
薬を服用し続けなくてもよい時代へ
新たな薬の登場も待たれている。例えば、やはりチロシンキナーゼ阻害薬の*ponatinib(ポナチニブ)は、米国では12年に、ヨーロッパでも13年に承認済みで、日本では現在、臨床試験が進行中。15年には治療抵抗性または不耐容を示すCMLを対象に承認申請が行われる見通しという。ponatinibは、他のチロシンキナーゼ阻害薬では抵抗性を示すT315I変異にも有効といわれ、注目されている。
さらに将来的には、薬によって完全寛解(CR)に持っていき、そこで治療を終えることも可能ではないかと、その方法が探られている。
「イマチニブにしろ、他の薬にしろ、薬の値段がとても高い。イマチニブが1日分で約1万円、ダサチニブなど他の薬だと1日約1万8,000円。年間の薬代は数百万円にもなります。高額療養費制度があるといっても、個人負担の額はかなりに上るし、国の医療費への影響も大きなものがあります。患者さんは薬を服用し続ける必要がありますから、高い薬を一生飲み続けろというのは酷な話です。
そこで最近は、〝ストップ・イマチニブ〟といって、薬を止める方法が検討されています。しっかり治療を行えばどこかで薬を止められるのではないかというわけです。イマチニブより、ダサチニブとか他の薬のほうが止めやすいかもしれないと、やはり検討されています」
CMLの治療にあたっては「血液学的完全寛解(CHR)」「細胞遺伝学的完全寛解(CCyR)」「分子遺伝学的効果(MMR)」「分子遺伝学的完全寛解(CMR)」と段階的に判定基準が設定されていて、白血病細胞を限りなくゼロにしていくのが治療の目標となっている。
分子遺伝学的完全寛解とは、最初にCMLを発症したときのBCR-ABL融合遺伝子を100として、0.01%以下とか0.0032%以下にまで減らした状態をいう。まだ完全には白血病細胞は死滅していないが、この段階にまで至れば、あとは免疫療法などで残っている微小病変を叩いて、何とか治癒に持っていけないかと研究が行われているという。
ヨーロッパではSTIM試験(ストップ・イマチニブ・スタディ)という試験が行われ、イマチニブで分子遺伝学的完全寛解が得られた患者さんへの薬の投与を中止したところ、約4割の患者さんが2年を経ても再発しなかった。残りの6割はBCR-ABL融合遺伝子が出現してきたものの、イマチニブの服用を始めると再び効果が現れたという。
日本でも、JALSGによるSTIM試験が行われている。この試験は、イマチニブにより分子遺伝学的完全寛解を2年以上維持し、試験開始時に一定水準でいる人を対象に、その後の無治療分子遺伝学的完全寛解の維持率を検討するもの。試験は13年11月から14年6月まで行われ、現在結果を解析中。
薬を服用し続けなくてもいい時代が早く訪れることを望みたい。
*ponatinib(ポナチニブ)=商品名Iclusig
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