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分子標的薬の皮膚障害は予防と適切な対応でコントロール可能

監修●植竹宏之 東京医科歯科大学大学院総合外科学分野教授
取材・文●町口 充
発行:2015年10月
更新:2015年12月


手足症候群対策は何よりも「除圧」

図3 手足症候群の予防ポイント

大腸がんの4次治療で使われるスチバーガなどマルチキナーゼ阻害薬の皮膚障害も深刻なものがある。この薬で強く発現するのは手足に現れる炎症や痛みなどの手足症候群だ。従来から使われているゼローダや5-FUなどフッ化ピリミジン系の抗がん薬でも手足症候群が見られるが、現れ方はかなり違う。

抗がん薬の手足症候群は、手のひら、足の裏全体が赤く腫れてくる。これに対して分子標的薬による手足症候群は、よく動かすところ、体重がかかったりして圧力(負荷)がかかるところが赤くなり、硬くなったり潰瘍へと進展したりする。進行すると強い痛みで歩けなくなるなど、日常生活にも支障を来してしまう。

「5-FUなどの手足症候群の場合は、保湿とビタミンB6の内服から始めて、症状が出てから対策を講じることが多いですが、スチバーガの場合は最初から予防を行うことが重要です。普段から保湿剤を用いて皮膚を保護し、乾燥や角化・角質の肥厚を防ぎ、かかとなど角質層が厚くなっているなら、あらかじめ取り除いておくといいでしょう」

そして何より重要なのが除圧、つまりなるべく圧力をかけないことだという。

「靴を少し大きめのものにするとか、締めつけの強い靴下を履かない、靴に中敷となるクッションを入れるなど、手足に圧力をかけないようにすることです。大きめの靴を履いても、靴紐をギュッと締めたら靴紐型に手足症候群が出たという人もいるし、車に乗ってシートベルトをしたらシートベルトの形に手足症候群が出たという人もいました。とにかく除圧が大事です」(図3)

ゼローダ=一般名カペシタビン 5-FU=一般名フルオロウラシル

スチバーガ減量・休薬の基準は?

表4 手足症候群を発現した際のスチバーガの用量調節

『スチバーガ錠 手足症候群対策ポケットガイド』を参考に編集部で作成

スチバーガによる手足症候群はほとんどの人に現われ、重症になって途中で薬を止めざるを得ない人も多い。スチバーガの用量は1日1回160㎎(4錠)の経口投与だが、副作用がひどい場合は減量するか休薬することになっている(表4)。

「スチバーガによる手足症候群はアジア人に症状が出やすく、全体の8割ぐらいの人に何らかの症状が出ます。グレード3以上のつらい症状は3割近くと比率が高い。このため、症状が出たときはステロイド剤を強くするとか、さらに除圧を行ったりします。またグレード2以上の場合には減量、あるいは休薬します。そもそもスチバーガのスタートの量が、日本人には多いのではとも考えられています。ですから、手足症候群で重篤な副作用が出た場合、4錠から3錠、3錠から2錠と2段階減量することも考慮に入れて、治療に当たることが重要です」

現在、大腸がん治療では4次治療としてロンサーフという薬剤もあり、もしスチバーガで手足症候群といった副作用で治療継続が困難になった場合には、ロンサーフという別の「武器」があることを考慮して治療を行うことも重要だという。

ロンサーフ=一般名トリフルリジン・チピラシル

予防のためには何よりも清潔・保湿

患者さんにぜひお願いしたいこととして、「日ごろのスキンケアをしっかり行っていただきたい」と植竹さん。

そのため、まず心掛けたいのは肌を清潔に保つこと。さらに、肌が乾燥するとバリア機能が損なわれ、傷つきやすくなるので、肌に潤いを保つ保湿も重要。また、皮膚への刺激を避けるため、なるべく直射日光を避け、化粧用具も刺激が少ないものを選ぶなどの工夫も。繰り返しになるが、締めつけがよくないので、靴は少し大きめを選び、靴紐で強く締めつけないようにする。

「治療を始めて、最初のCTを8週目ぐらいに撮りますが、もちろんひどい副作用が出た場合は別ですが、そこまでは頑張って治療を続けていただきたい。最初のCTを撮る前に減量してしまうと、減量したために治療効果がなかったのか、薬への感受性がなくて効果がなかったのかがわからなくなり、その後の治療が十分にできなくなってしまう恐れがあります。我々としても、つらくならないようしっかりとコントロールしますが、医療者と患者さんとで一緒になって頑張りましょうと言いたいですね」

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