深い寛解後に 70%が投薬中止可能~慢性骨髄性白血病の治療~
バイオマーカーの特定で対象患者を絞る研究も
高橋さんは今後のJALSG-STIM213の展開について、「2年目までプラトー(一定の状態)を保っているかを確認しなければなりません。これまでの試験では、再発のうち9割が半年以内に再発、残りが1年までに再発して、その後は再発しないとされているので、注意しながらモニタリングをしていきたいです。2年にわたって見れば安心とも思いますが、長期予後も追います」と話す。
また、次の展開もある。
「グリベックを服用している患者さんは多いので、その中に明らかに中止できそうな方を特定できれば、早い段階からの対応が可能です。対象者を見つけるためのバイオマーカーの発見と治療への導入が今後の課題になってきます」
今回の試験で採血した検体の残りから、遺伝子やリンパ球をプロファイリングして、バイオマーカーの特定につなげようという試みが続く。
相次ぐ臨床試験も
高橋さんらの試験と同じ時期に始まった別の投薬中止試験もあった。DADI試験といい、グリベックに次ぐ第2世代の分子標的薬である*スプリセルを服用し続けて1年以上CMRが得られた患者を対象に、投薬中止試験を行った。結果は、48%が薬を止めても1年以上再発しなかった。
また、高橋さんらはさらに2016年、JALSGグループで新しい試験を始める。
「分子標的薬はグリベックだけではなく、第2世代の*タシグナとスプリセルがあります。これらの薬を使っている患者さんも多く、この2薬について今回のグリベックと同じデザインで中止試験を行います」
それぞれの薬に50人ずつを登録する予定だ。結果は世界から注目されている。
「これまでの我々の予想では、グリベックが4割から6割の成功で、第2世代なら6~7割はいけるのではと考えていました。しかし実際の試験では、グリベックで7割が達成されたので、第2世代がそれを越えるのかどうかが大きな注目点です。患者さんの治療選択にかかわる大事な試験です」
同じデザインで臨床試験をすることで、3薬を比較することも可能になるということだ。そして、次のようにも語る。
「薬剤を切り替えて2年経ってから中止し、どれだけ止め続けられるかという試験もあり得ますが、薬の切り替えは患者さんにとって大変なストレスです。新たな副作用に対応しなければなりません。初めに服用した薬で止められればいいと思っていま��」
*スプリセル=一般名ダサチニブ *タシグナ=一般名ニロチニブ
第3世代分子標的薬の登場も近い
第3世代の*Iclusig(イクルシグ)の日本での承認も、今後1年程度で予想されるという。高橋さんは治療での利用法を考えている。
「試験の結果を見ても、100%の患者さんの投薬を中止することはできていません。治療再開をした後に、もう1回中止のトライをすることをセカンド・アテンプトというのですが、まずは薬を変えたり、併用したりで寛解に導いていくことになります。第3世代の薬がここで効いてくるかもしれません」
また、肺がんや腎がんなどの分野で研究が進む免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-1抗体)にも注目だ。慢性骨髄性白血病に対する第Ⅰ(I)相臨床試験も行われている。こちらもセカンド・アテンプトに応用できる可能性があるという。
「今回の試験でも、寛解を維持している患者さんは、免疫学的な細胞が活性化している人が多そう、という予測があります。それにつながってくるかもしれません」
高橋さんに今後の目標を聞いた。
「薬価の高い分子標的薬を使用しないで済むという社会経済的な見地もありますが、一番の目的は患者さんに喜んでいただけることです。薬からフリーになると、気持ちでも病気からフリーになれます。我々の目標は、あくまで100%の投薬中止を行い、治癒に近い状態を目指すことです」
*Iclusig(イクルシグ)=一般名ponatinib(ポナチニブ)
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