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分子標的薬投入時期を「Window」で見える化 ホルモン陽性HER2陰性再発転移症例での適切な投与時期を示唆

監修●小林 心 がん研有明病院乳腺センター乳腺内科副医長
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2016年9月
更新:2016年9月


タイミングを逃さず分子標的薬を投与

今回、小林さんが説明するツール「Window」は、この両者の要素を1つのグラフで表し、患者1人ひとりのがんの状態と治療歴を考えながら、どのタイミングでどの分子標的薬を選択するのが適切なのか、どうすればタイミングを逃さずに投与できるのか、を示そうというものだ。

「Window」は、縦軸にホルモン感受性を取り、横軸にがんの勢い(Tumor pressure)を取っている(図3)。

図3 新しく作成されたツール「Window」の基本構成

HORMON SENSITIVITY:ホルモン感受性 Tumor pressure(site, load, speed, symptom):がんの勢い(部位、腫瘍細胞量、進行速度、症状の有無)
DFI:無再発生存期間 PFS:無増悪生存期間 Hormone therapy:ホルモン療法 Chemotherapy:化学療法

「この患者さんはこの状態だから次の治療選択はこれ、という検討ツールとして使いやすいと思います」と小林さん。

縦軸のホルモン感受性は、無再発生存期間(DFI)と無増悪生存期間(PFS)で評価し、横軸は「がんの勢い」として、がんの部位や腫瘍細胞量、進行速度、症状の有無などで判断する。

「基本的に、病状は左上から右下に経過をたどります。この中で分子標的薬の投入時期を判断します」

がん研有明病院が参加した国際共同試験「BOLERO-2」の適格基準を参考に、同病院における6サンプルで、どの段階でアロマターゼ阻害薬のエキセメタスンと分子標的薬のエベロリムスの併用療法を行ったかをマッピングしたところ、グラフのようになった(図4)。黄色は治療効果あり、黒は効果なしであった。

図4 がん研有明病院での6例におけるエベロリムス投与時期と無増悪生存期間(PFS)のマッピング

HORMON SENSITIVITY:ホルモン感受性 Tumor pressure(site, load, speed, symptom):がんの勢い(部位、腫瘍細胞量、進行速度、症状の有無)
DFI:無再発生存期間 PFS:無増悪生存期間

「分子標的薬の投与時期が遅いと効きません。一方で、左上の患者さんのように早く投与しても副作用で中止してしまった例もありました」とタイミングの難しさを話した。それらの研究を経て、「あくまでも一つの意見として」と前置きした上で、小林さんらはこのタイプにエベロリムス投与に適した時期を示した(図5)。

図5 エベロリムス投与時期の至適ゾーンの検討

HORMON SENSITIVITY:ホルモン感受性 Tumor pressure(site, load, speed, symptom):がんの勢い(部位、腫瘍細胞量、進行速度、症状の有無)
DFI:無再発生存期間 PFS:無増悪生存期間

小林さんらは、ほかにも血管新生阻害薬のベバシズマブ、CDK4/6阻害薬のpalbociclib(パルボシクリブ:日本未承認)の投与時期のポジショニングを行った。それを重ね合わせると、(図6)のようになる。患者がどこに位置するかにより、それぞれに合わせた薬剤と投与タイミングが図られることになる。

図6 分子標的治療薬のポジショニング

HORMON SENSITIVITY:ホルモン感受性 Tumor pressure(site, load, speed, symptom):がんの勢い(部位、腫瘍細胞量、進行速度、症状の有無)
DFI:無再発生存期間 PFS:無増悪生存期間 PAL:palbociclib(パルボシクリブ) EVE:エベロリムス BEV:ベバシズマブ

「今までは、すべての医師たちの頭にだけあった分子標的薬の投与時期を図式化することで、情報共有がしやすくなったと思います。また、このポジショニングは我々の意見に過ぎないので、最適な投与のタイミングの意見交換のツールとしても利用できます」

また、治療選択に有用なだけではなく、症例の治療歴の振り返りに有用、という医師からの反応もあったという。

分子標的薬は抗がん薬に比べて副作用が少ないというものの、エベロリムスの間質性肺障害や口内炎、ベバシズマブでの血栓症や消化管穿孔など特徴的な障害が起こりうる。特にエベロリムスの肺障害は日本人の25%に見られ、マネジメントも大切となる。

エキセメタスン=商品名アロマイシン エベロリムス=商品名アフィニトール ベバシズマブ=商品名アバスチン 一般名palbociclib(パルボシクリブ)=商品名Ibrance(イブランス)

あくまでも医師の情報共有用

治療選択を可視化する有用なツールではあるが、これはあくまでも医療者側の情報共有や意思疎通、情報集積による研究のために使うのが目的であり、患者に「自分はどの位置にいるか」と質問されても答えられるものではない。「患者さんには丁寧に説明してわかっていただいています」

転移再発がん治療の将来について小林さんは、「新薬は次々に出ますが、できるだけ副作用が少なくて管理のしやすいものが望ましいと思います。HER2阻害薬のようにピンポイントで効くようなターゲットの発見が期待されます」と話している。

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