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進行・再発卵巣がんに選択肢が増える 初回治療から分子標的薬リムパーザが使える!

監修●平嶋泰之 静岡県立静岡がんセンター婦人科部長
取材・文●伊波達也
発行:2019年7月
更新:2019年9月


初回化学療法でもリムパーザが保険適用に

さらに今ホットなトピックは、6月18日「BRCA遺伝子変異陽性の卵巣がんにおける初回化学療法後の維持療法」として、リムパーザの適応追加が承認されたことだ。「SOLO−1試験」という、BRCA変異を有する患者を対象にした国際的臨床試験の結果が良好だったためである。

この試験では、リムパーザ投与群とプラセボ投与群との比較を行なったところ、病勢進行(PD)あるいは死亡のリスクを70%低減させ、無増悪生存期間において、2018年10月の時点で、プラセボ群では13.8カ月であるのに対し、リムパーザ投与群は未到達(カプラン・マイヤー曲線が50%を下回っていない)という状況だ。そして、現在もその追跡は継続中である。

この「SOLO−1試験」の結果により、2018年12月、FDA(米国食品医薬品局)において、BRCA遺伝子変異陽性進行卵巣がんの初回治療後の維持療法として保険承認を取得した。

これを踏まえて、わが国でもプラチナ系抗がん薬の治療後の維持療法としてリムパーザが保険適用になった。

「私たちも『SOLO−1試験』に参加しました。有効性を証明した試験結果を踏まえて、日本でも、つい最近6月18に承認されて、初回から使えることになり大いに期待しています」

その一方で、平嶋さんは、今後の問題点についても指摘する。

「『SOLO−1試験』の被験者はBRCA遺伝子変異のある人でしたから、保険適用後の治療もそれらの患者さんが対象になりました。ですから治療に当たっては、BRCA遺伝子の変異を調べる必要があります。BRCA遺伝子変異は、遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)の問題が絡んできますので、医療者側が診療態勢を整えて慎重に対応していかなければなりません。臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーによるバックアップやカウンセリングなどができる態勢を整えたうえで、患者さんやご家族と十分なコニュニケーションを取って、納得して検査を受けてもらうことが大切です」

卵巣がんに特化して説明すると、生涯に卵巣がんを発症する確率は、一般女性では1.3%であるところ、BRCA1変異があると80歳までに卵巣がんになる確率は44%、BRCA2変異があるとその確率は17%になるという。

カプラン・マイヤー曲線=生存率曲線

様々な薬の組み合わせで選択肢が増える

卵巣がんに対する薬物療法の可能性はまだまだある。現在、免疫チェックポイント阻害薬の有効性を調べる企業主導の治験が数々行われている。

例えば、プラチナ製剤抵抗性卵巣がん300例に対するオプジーボ(一般名ニボルマブ)と2次化学療法を比較したランダム(無作為)化比較第Ⅲ相試験や、未治療の卵巣がんに対して標準化学療法とオプジーボを併用し、さらにPARP阻害薬ルブラカで維持療法を行う第Ⅲ相試験、未治療の進行卵巣がんに対して標準化学療法にキイトルーダ(一般名ペムブロリズマブ)を併用して、PARP阻害薬リムパーザで維持療法を行う第Ⅲ相試験ほか、様々な試験が進行中だ。

有効性を認める結果も徐々に出てきている。今後もその結果いかんによっては、さらに化学療法の選択肢は増えるだろう。

「今後は、免疫チェックポイント阻害薬単剤での治療というよりは、従来のプラチナ製剤やアバスチンやリムパーザほか、性質の違う薬をいくつか組み合わせて行う、多剤併用による化学療法の選択肢が増えていくことになると思います」

ただし、高額な薬が多いため、「バイオマーカーにより個々の患者に対する効果を慎重に選別しなくてはならない」と平嶋さんは強調する。

2019年6月に保険適用となったがん遺伝子パネル検査は、卵巣がんではどうなのだろうか。

「遺伝子パネル検査では、適応する薬が見つかる確率は全体でも10%程度と言われています。現時点では卵巣がんに関する限り、肺がんなどのように、適応する薬が存在する遺伝子異常が見つかる可能性は低いと思われますし、適応する薬が見つかっても、その薬が未承認のものであるといったケースも考えられます。いろいろと難しい面があるかもしれません。しかし、いずれにせよ、将来的には遺伝子パネル検査によって、治療が大きく変わっていくことは期待してよいと考えています」

難治性と言われてきた進行・再発の卵巣がんだが、新しい時代とともに治療はさらに進化し続けていくだろう。

患者にとって福音となるニュースが次々と伝えられることを望みたい。

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