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第2世代の薬剤も登場。分子標的薬の長所と短所をきっちり把握しよう 分子標的薬――より効果的な使い方を求めて

監修:佐々木康綱 埼玉医科大学国際医療センター腫瘍内科教授
取材・文:祢津加奈子 医療ジャーナリスト
発行:2009年11月
更新:2019年7月

第2世代の分子標的薬

このように、分子標的薬の登場によって、薬物療法の常識は大きく変化しました。一方、分子標的薬は、その効果や限界もわかりつつあり、新たな段階に入っています。分子標的薬も、耐性ができて効果がなくなる場合があります。しかし、標的がはっきりしているので、従来の抗がん剤に比べて耐性のメカニズムも把握しやすいといいます。そこで、グリベックやハーセプチンの耐性メカニズムを研究して作り出されたのが、慢性骨髄性白血病に対するスプリセル(一般名ダサチニブ)やタシグナ(一般名ニロチニブ)、転移性乳がんに対するタイケルブなど第2世代と呼ばれる分子標的薬です。

[主な分子標的薬]

薬剤(一般名) 分類 主な標的分子 がん種
イレッサ(ゲフィチニブ) 低分子 EGFR 非小細胞肺がん
タルセバ(エルロチニブ) 低分子 EGFR 非小細胞肺がん
アービタックス、エルビタックス(セツキシマブ) 抗体 EGFR 大腸がん
ハーセプチン(トラスツズマブ) 抗体 HER2、EGFR 乳がん
タイケルブ(ラパチニブ) 低分子 HER2 乳がん
アバスチン(ベバシズマブ) 抗体 VEGF 大腸がん
スーテント(スニチニブ) 低分子 PDGFR、KIT、VEGFR 腎細胞がん、消化管間質腫瘍
ネクサバール(ソラフェニブ) 低分子 Raf、PDGFR、KIT、VEGFR 腎細胞がん、肝細胞がん
リツキサン(リツキシマブ) 抗体 CD20 悪性リンパ腫
ゼヴァリン(イブリツモマブ) 抗体 CD20 悪性リンパ腫
マイロターグ
(ゲムツズマブオゾガマイシン)
抗体 CD33 急性骨髄性白血病
グリベック(イマチニブ) 低分子 Bcr-Abl、PDGFR、KIT 慢性骨髄性白血病、消化管間質腫瘍、
フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病
タシグナ(ニロチニブ) 低分子 Bcr-Abl、KIT、PDGFR 慢性骨髄性白血病
スプリセル(ダサチニブ) 低分子 Bcr-Abl、KIT、PDGFR、
SRCファミリー
慢性骨髄性白血病、
フィラデルフィア染色��陽性急性リンパ性
ベルケイド(ボルテゾミブ) 低分子 プロテアソーム 多発性骨髄腫

また、分子標的薬の新たな可能性も検討されています。表をみてもわかるように、分子標的薬は血液がんにしても固形がんにしても、かなり限られたがん種を対象に開発されています。その理由について、佐々木さんは、「がんによる特性もあるのかもしれません。たとえば腎がんの場合、小分子化合物でシグナル伝達に働く複数のタンパクを標的とするマルチキナーゼ阻害薬が効くというのが、がんとしての特性なのかもしれません。また、全てのがん種に対する分子標的薬の効果を評価しきれていないという問題も考えられます」。

たとえば、ToGAと呼ばれる臨床試験では、HER2陽性の進行胃がんにシスプラチン(一般名)とゼローダ(一般名カペシタビン)または5-FU(一般名フルオロウラシル)を投与し、ハーセプチンを併用した場合としない場合で比較。ハーセプチン併用群のほうが、全生存期間の中央値が13.8カ月と併用しなかった群(11.1カ月)より高い効果を示しています。これまで、胃がんにはとくに有効な分子標的薬はなかったのですが、「ハーセプチンはHER2過剰の乳がんではなく、がん種を超えてHER2過剰の腫瘍に効くといえるかもしれないのです」と佐々木さんは話しています。

[胃がんに対するトラスツズマブの効果]
図:胃がんに対するトラスツズマブの効果

そして、新たなメカニズムで働く分子標的薬の開発も期待されています。

現在、治療に使われている分子標的薬の多くは、(1)EGFR(2)VEGF(血管内皮細胞増殖因子)やその受容体を標的としたもので、最近では腎がんに対するアフィニトール(一般名エベロリムス)などmTOR(血管新生を阻害するとされる)を標的とした薬も開発されています。それ以外の標的分子も次々に出てきており、こうした新しい分子をターゲットとした薬も、「特異的ながんに効果があるのではないか」と期待されています。

[腎がんに対するエベロリムスの効果]
図:腎がんに対するエベロリムスの効果


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