米国臨床腫瘍学会(ASCO)2008レポート 続々と出てきた分子標的治療薬、アービタックス、イレッサ、アバスチン等の新しい成果 「ターゲット症例に対するターゲット治療」の時代の幕開け
結腸・直腸がん
2つ目の分子標的治療薬の上乗せ効果、確認できず

分子標的治療薬の研究では、肺がんに1歩先んじている感のある結腸・直腸がんの領域では、標的分子が異なる2つの分子標的治療薬の上乗せ効果の検討結果が報告され、高い関心を集めた。
オランダUMC聖ラドバウドのコーネリスJプントさんが報告した臨床試験(CAIRO2)は、進行結腸・直腸がんの1次治療としての化学療法CapOx[ゼローダ(一般名カペシタビン)+エルプラット(同オキサリプラチン)]と分子標的治療薬アバスチンの併用療法に対するアービタックスの上乗せ効果を検討するもの。
主要評価項目(試験の主要な目的に直結する臨床的、生物学的に意味のある効果を反映する項目)である無増悪生存期間は、CapOx+アバスチン+アービタックス群が9.6カ月であったのに対し、CapOx+アバスチン群は10.7カ月と、統計学的有意差をもって前者が劣っており、2つ目の分子標的治療薬の上乗せ効果は否定された。また、生存期間中央値は両群で変わらず(20.3カ月対20.4カ月)、奏効率は同じ44パーセントであった。
重篤な副作用はアービタックス追加群のほうが多く、とくに下痢の頻度が高かった。アービタックスに特有とされる皮膚症状(ざそう様皮疹、爪の変化)も、追加群で多く発現した。また、皮膚症状が重篤なほど無増悪生存期間が有意に優れており、一部の薬剤にみられる副作用が強く発現する症例ほど治療効果も大きいという逆説的な特徴が観察された。
さらに、KRAS遺伝子型(野生型、変異型)と無増悪生存期間の関連を調べたところ、両治療群とも野生型と変異型との間に無増悪生存期間の差はなかったが、変異型の症例に限ると、アービタックスを追加しない群より追加した群のほうが有意に短かった���
「これは、変異型の症例の場合はアービタックスを追加することで標準治療よりもかえって効果が劣る可能性を示唆する」とディスカッサントのMDアンダーソンがんセンターのキャシー・エングさんは指摘する。
プントさんは、「CapOx+アバスチンにアービタックスを追加すると、無増悪生存期間が短縮したが、生存期間への影響はなく、副作用は十分に管理可能であった」と結論したうえで、「2つの分子標的治療薬の間に薬剤相互作用がある可能性は否定できない」としている。
KRAS遺伝子変異型の患者にはアービタックスの上乗せ効果なし
ベルギー・ガスチューズベルグ大学病院のエリック・ヴァン・カッツェムさんが報告した臨床試験(CRYSTAL)は、転移性結腸・直腸がんの1次治療としてのFOLFIRI(5-FU/ロイコボリン+イリノテカン)に対するアービタックスの上乗せ効果を検討した臨床試験であり、ドイツ・ユニバーシタッツクリニクム・エッペンドルフのカルステン・ボッケマイヤーさんが報告した臨床試験(OPUS)は、FOLFOX(5-FU/ロイコボリン+エルプラット)に対するアービタックスの上乗せ効果を評価した臨床試験(第2相試験)だ。
すでに、CRYSTAL試験ではアービタックス追加による無増悪生存期間および奏効率の有意な改善効果が確認され、OPUS試験でも抗腫瘍効果が優れる傾向を認めている。
今回、両試験ともにKRAS遺伝子型(野生型、変異型)が無病生存期間および奏効率に及ぼす影響について解析を行った。おもな結果は次のとおり。
CRYSTAL試験
・無増悪生存期間 KRAS遺伝子野生型の症例のうちアービタックス追加群(7.7カ月)は非追加群(7.2カ月)に比べ有意に優れたが、変異型の症例は逆に追加群(5.5カ月)が非追加群(8.6カ月)に比べ有意に劣っていた。
・奏効率 野生型では追加群(60.7パーセント)が非追加群(37.0パーセント)に比べ有意に優れたが、変異型では追加群(32.7パーセント)と非追加群(48.9パーセント)は同等(有意差なし)だった。
OPUS試験
・無増悪生存期間 野生型では追加群(9.9カ月)が非追加群(8.7カ月)に比べ有意に優れたが、変異型では追加群(7.6カ月)と非追加群(8.1カ月)は同等だった。
・奏効率 野生型では追加群(59パーセント)が非追加群(43パーセント)に比べ有意に優れたが、変異型では追加群(36パーセント)と非追加群(40パーセント)は同等だった。
これらの結果は、KRAS遺伝子野生型の症例はアービタックスの追加で有効性が向上するが、変異型の症例では向上しないことを示唆する。
OPUS試験のディスカッサントであるバンダービルト・イングラムがんセンターのマイスLローゼンバーグさんは、「変異型の場合は、有意差はないとはいえ無増悪生存期間、奏効率ともに低下傾向にあることから、アービタックスが無効どころか、かえって効果を低下させる可能性にも留意すべき」と指摘しているが、これはCRYSTAL試験にもいえることであろう。
CRYSTAL試験のディスカッサントを務めたコロラド大学がんセンターのSゲイル・エックハルトさんは、この研究分野のさらなる進展への期待を込めて、「今回の成果が、結腸・直腸がんの個別化治療のほんの幕開けにすぎないことを希望する」と結んだ。
乳がん
アバスチンが転移性乳がんの無増悪生存期間を有意に延長
AVADOと呼ばれる26カ国104施設が参加した臨床試験は、HER2陰性の切除不能局所再発・転移性乳がんの1次治療としてのタキソテール(一般名ドセタキセル)に対するアバスチンの上乗せ効果を評価する臨床試験(タキソテール+プラセボ、タキソテール+アバスチン少量、タキソテール+アバスチン多量の3群を比較)。イギリス・マウントバーノンがんセンターのデヴィッド・マイルズさんが報告した。
主要評価項目である無増悪生存期間は、タキソテール単剤群が8.0カ月であったのに対し、アバスチン少量群は8.7カ月、アバスチン多量群は8.8カ月と、いずれの用量もタキソテール単剤に比べ有意に延長されたことから、アバスチンの上乗せ効果が明らかとなった。これは病態が安定した状態での生存の期間を64パーセント延長したことになるという。
また、奏効率はタキソテール単独群44パーセント、アバスチン少量群55パーセント、アバスチン多量群63パーセントであり、やはりいずれの用量もタキソテール単剤に比べ有意な改善が得られた。
解析時点での1年生存率はそれぞれ73パーセント、78パーセント、83パーセントであるが、観察期間が短いため生存期間中央値はまだ算出できない。
副作用については、アバスチンの追加がタキソテールの副作用に大きな影響を及ぼすことはなかった。
マイルズさんは、「HER2陰性の転移性乳がんの1次治療として、タキソテールとアバスチンの併用療法は臨床的に有効であることが確かめられた。この試験は、アバスチンの用量はどちらが優れているかを評価するものではないが、全般に高用量のほうがより良好な結果を示した」と結論している。
ディスカッサントのロヨラ大学シカゴ校医学部のキャシーSアルバインさんによれば、タキソテールと同じタキサン系抗がん剤であるタキソール(一般名パクリタキセル)をアバスチンと併用した臨床試験(E2100)では、11.8カ月というきわめて良好な無増悪生存期間が得られている。
この2つの試験では生存期間の改善効果は確認できていないにもかかわらず、米国食品医薬品局(FDA)は、優れた無増悪生存期間と安全性を根拠にアバスチンを承認したという。これは、進行がんでは延命効果そのものよりも生存中の生活の質を重視すべきとの考え方を反映していると思われるが、その正当性をめぐって活発な議論が続いているという。
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