有効な分子標的薬がなかったEGFRエクソン20挿入変異陽性肺がんに ついに承認された二重特異性抗体薬ライブリバント
二重特異性抗体薬のライブリバント
「そうした中で、唯一優れた治療成績を残したのがライブリバントでした。単剤での奏効率が40%で、無増悪生存期間が8.3カ月と、それまでの臨床試験結果を凌駕していました。続いて、ライブリバントと化学療法を併用する群と化学療法群を比較する臨床試験が行われました。PAPILLON試験です。この臨床試験の結果によって、ライブリバントはEGFRエクソン20挿入変異の治療薬として承認されています」
PAPILLON試験の対象となったのは、EGFRエクソン20挿入変異陽性で、手術できない進行・再発非小細胞肺がんの患者さんで、それまで化学療法を受けた経験のない患者さんです。「ライブリバント+化学療法群」と、対照群の「化学療法群」を比較する試験が行われ、次のような結果が得られました(図2)。

主要評価項目の無増悪生存期間(中央値)は、化学療法群が6.7カ月だったのに対し、ライブリバント+化学療法併用群は11.4カ月と延長されていました。ハザード比は0.4で、増悪のリスクを大幅に下げることが明らかになったのです。さらにライブリバント+化学療法併用群は、73%という高い奏効率も示しました。
この臨床試験結果により、『肺癌診療ガイドライン』に次の内容が加えられました。
「エクソン20の挿入変異にはカルボプラチン+ペメトレキセド+アミバンタマブ併用療法を行うよう強く推奨する」
ライブリバントは抗体製剤ですが、EGFRとMETという2種類の受容体と結合する特殊な構造をしています。このような抗体を二重特異性抗体と言います。
EGFRもMETも非小細胞肺がんのドライバー遺伝子で、がんの発生や増殖に関わっています。ライブリバントは自らがそこに結合することで、EGFRとMETのドライバー遺伝子としての働きを阻害するのです(図3)。

「EGFR変異陽性肺がんをEGFR-TKIで治療をしていると、MET遺伝子が増えてくることが知られていて、それが��性の原因になることがあります。たとえばタグリッソがよく効いた症例でも、次第にMET遺伝子が増え、がんが増悪してくるようなケースがけっこうあるのです。METも標的とするライブリバントは、そうした患者さんにも効くのではないかと期待されていて、現在、その臨床試験が進行しています。オシメルチニブの耐性化後の患者さんたちは、その承認を待ち望んでいます」
ライブリバントの適応となっているのは、現時点ではEGFRエクソン20挿入変異だけですが、将来的には、それ以外のEGFR変異も適応に加えられるだろうと考えられています。そうなると、この薬の恩恵を受ける患者さんは大幅に増えることになります。
EGFRエクソン20挿入変異の新薬開発が進行中
ライブリバントの登場により、EGFRエクソン20挿入変異陽性肺がんの治療は大きく変わりましたが、新薬の開発は現在も続いています。エクソン20挿入変異に対する臨床試験結果をまとめてみると、次のようになります(図4)。

「アミバンタマブの後にも、ジパレルチニブ(一般名)、スンボゼルチニブ(一般名)、ファーモネルチニブ(一般名)といった薬剤の臨床試験が行われ、良好な結果が報告されています。これらの新しい薬剤が、今後承認されて、登場してくる可能性があります」
10数年前までは、ほとんど研究が進んでいなかったEGFRエクソン20挿入変異陽性肺がんの治療ですが、ここ数年は新薬開発が活況を呈しています。こうした状況を迎えることになったのには、エクソン20挿入変異の構造解析といった基礎的な研究が役立っているのです。
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