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手術後の再発予防に加え、Ⅲ期の放射線化学療法後にも EGFR変異陽性肺がんタグリッソの治療対象さらに広がる!

監修●加藤晃史 神奈川県立がんセンター呼吸器内科医長
取材・文●柄川昭彦
発行:2025年1月
更新:2025年1月

「タグリッソは効果が高いのに副作用は軽く、社会生活や家庭生活を大きく変えることなく治療でき、利便性の点からも使いやすい薬剤と言えるでしょう。それが治療ラインを前へ前へと進める原動力になってきました」と語る
加藤さん

EGFR変異陽性の進行肺がんの1次治療薬として使われてきたタグリッソですが、2022年からは手術後の補助療法としても使用できるようになっています。また、2024年に報告された「LAURA試験」では、Ⅲ期で切除不能なEGFR変異陽性非小細胞肺がんの化学放射線療法後の使用によって、再発を強力に防ぐ効果が確認されています。

治療対象が前へ前へと広がってきたEGFR変異陽性肺がんの治療について、神奈川県立がんセンター呼吸器内科医長の加藤晃史さんにタグリッソを中心に解説してもらいました。

EGFR陽性肺がんの1次治療で最も使われている薬は?

肺がんは小細胞肺がんと非小細胞肺がんに大別されますが、全体の約8割を占めているのが非小細胞肺がんです。非小細胞肺がんの薬物治療は、がん細胞の遺伝子を調べ、ドライバー遺伝子を特定できた場合には、そのドライバー遺伝子に合った分子標的薬が使われます。

ドライバー遺伝子とは、がんの発生や増殖に直接関わっている遺伝子変異のこと。非小細胞肺がんにはさまざまな種類のドライバー遺伝子が発見されていますが、その中で最も多くに見られるのが、EGFR(上皮成長因子受容体)の変異です。日本人の非小細胞肺がんでは、約3割にEGFRの変異が見られるといいます。

EGFR変異陽性の非小細胞肺がんに対しては、分子標的薬のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)が使われます。2002年に、第1世代のEGFR-TKIであるイレッサ(一般名ゲフィチニブ)が初めて承認され、その後、2007年にタルセバ(一般名エルロチニブ)、2014年には第2世代薬のジオトリフ(一般名アファチニブ)が承認されています。そして、2016年に承認されたのが、第3世代薬のタグリッソ(一般名オシメルチニブ)でした。

タグリッソが登場してきたときの状況について、神奈川県立がんセンター呼吸器内科医長の加藤晃史さんは、次のように説明してくれました。

「EGFR変異陽性の進行肺がんに対して、第1世代薬と第2世代薬の3つを使った場合、耐性ができて再発するまでの期間は、中央値が10~12カ月程度でした。そして、再発する人の約半分が、同じ耐性機構を持っていることがわかってきました。T790Mという耐性遺伝子があることにより、再発が起きてしまうのです」

この耐性遺伝子の働きを克服する薬として開発されたのがタグリッソでした。

「タグリッソは、最初は第1や第2世代薬を使用した患者さんの再発後に使用する薬剤として承認されました。ところが、初回治療でも高い効果が得られることがわかってきて、初回治療におけるタグリッソ群と対照群(イレッサまたはタルセバ)の比較試験が行われました。その結果、タグリッソは1次治療でも使えるように適応が拡大されたのです」と加藤さん。

現在日本では、EGFR変異陽性肺がんの95%の患者さんが、1次治療でタグリッソを使っています。

手術後の再発予防にもタグリッソが使えるようになる

進行がんの1次治療で使われるようになったタグリッソは、さらに使用できる範囲を広げていきました。そのために行われた臨床試験に「ADAURA試験」があります(図1)。

対象となったのは、EGFR変異陽性のⅠb期、Ⅱ期、ⅢA期で手術可能な患者さん。手術して治療が終了する人も、手術後にプラチナ製剤を含む化学療法を4コース受ける人もいます。この人たちをランダムに2群に分け、一方にはタグリッソを投与し、もう一方には、プラセボを投与しました。

試験の結果は次のようなものでした。2020年に報告された無再発生存期間(DFS)中央値は、プラセボ群が27.5カ月だったのに対し、タグリッソ群は未到達。ハザード比は0.20で、再発のリスクを80%軽減するという結果だったのです。

その後、2023年に報告された結果では、無再発生存期間中央値は、プラセボ群が28.1カ月、タグリッソ群が65.8カ月で、ハザード比は0.27となっていました。かなり大きな差が開いていたのです(図2)。

「この試験はⅠ~Ⅲ期が対象なので、プラセボ群はタグリッソをまったく使わなかった人たちですが、それでも2年無再発生存率は5割を少し切るくらいです。5年でも3割くらいが再発していません。そもそも再発しない人が一定数いるわけで、その人たちにとっては必要ない治療だったという議論もあります。ただ、5年で7割が再発するところを、3~4割程度に抑えられているので、再発を半分くらいに減らす効果があることが明らかになったわけです」

「ADAURA試験」では、全生存率でも差が出ていました。多くの患者さんがクロスオーバーしています。つまり、プラセボ群の人でも再発後はタグリッソを使っているのですが、先にタグリッソを使うことで、全生存率が改善するという結果がはっきりと出ているのです(図3)。

「再発が起きると、再発に伴うさまざまなトラブルがありますし、合併症も出てきます。そこで、タグリッソを先に使って再発を予防できたことが、生存期間に影響したのではないかと考えられます」

これらの試験結果により、2022年、タグリッソは術後補助療法にも使えるように適応が拡大されています。手術後に再発予防の目的で使用できるようになったのです。

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