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手術後の再発予防に加え、Ⅲ期の放射線化学療法後にも EGFR変異陽性肺がんタグリッソの治療対象さらに広がる!

監修●加藤晃史 神奈川県立がんセンター呼吸器内科医長
取材・文●柄川昭彦
発行:2025年1月
更新:2025年1月


Ⅲ期の放射線化学療法後の治療としても有効だった

タグリッソの適応範囲をさらに広げることに貢献したのが「LAURA試験」です(図4)。

この試験の対象となったのは、EGFR変異陽性小細胞肺がんの切除不能のⅢ期で、化学放射線療法を受け、SD(不変)以上の効果が保たれている患者さん。放射線化学療法実施後に、タグリッソを投与する群とプラセボを投与する群に、2対1の割合で割りつけられたランダム化比較試験です。

2024年に結果が報告されています。プライマリーエンドポイントの無増悪生存期間(PFS)中央値は、タグリッソ群が39.1カ月、プラセボ群が5.6カ月でした。ハザード比は0.16で、がんが増悪するリスクを84%低下させたことになります。

「1年後に増悪していない患者さんの割合を見ると、プラセボ群ではわずか22%でしたが、タグリッソ群では74%。タグリッソが強力に再発を予防していることがわかります。再発を防ぐ効果も驚きでしたが、標準治療である放射線化学療法を行っていても、1年で8割近く、2年で9割近くが再発しているという事実も衝撃でした」

「ADAURA試験」では、タグリッソによる術後補助療法は、もともと再発しなかったであろう3割くらいの患者さんにとっては不要な治療だったのではないかという議論がありました。しかし、「LAURA試験」の場合は、かなり状況が違っています。

「3期ではほとんどが再発するという背景があり、この試験でも2年で9割近くが再発しています。それを考えると、多くの患者さんにとって有益な治療だったと考えることができそうです。現在、保険申請中ですが、保険適用となれば、多くの患者さんがこの治療を受けることを選択するだろうと思います」

「LAURA試験」は日本も参加した国際共同試験で、日本人症例の解析結果も報告されています。ただし、全体の人数が216人(タグリッソ群143人 vs. プラセボ群73人)であるのに対し、日本人は30人(23人vs 7人)と少なく、日本人データの信頼性が脆弱であることは否定できません。

無増悪生存期間中央値は、タグリッソ群が38.4カ月、プラセボ群が6.4カ月でした。1年無増悪生存率は、タグリッソ群が74%、プラセボ群が29%。2年無増悪生存率は、タグリッソ群が65%で、プラセボ群が14%でした。

「いずれもグローバルデータと非常に似通った数値になっていますが、これはたまたまの結果でしょう。ただ、とくに日本人には効果が弱いといったことはなさそうです」(図5)

「LAURA試験」では、タグリッソの副作用の軽さも注目されています。

放射性肺臓炎は48%に見られましたが、グレード3以上に限るとわずか2%でした。下痢は3人に1人、皮疹は4人に1人程度に現れますが、生活に支障をきたすようなことはありません。爪囲炎はつらい場合がありますが、グレード3以上はいませんでした(図6)。

「タグリッソは効果が高いのに、副作用は軽く、社会生活や家庭生活を大きく変えることなく治療できることが、進行がんの治療でわかってきていました。内服薬なので、利便性の点からも、使いやすい薬剤と言えるでしょう。そうしたことが、治療ラインを前へ前へと進める原動力になってきました。とくに投与する人たちの中に再発しないかもしれない人が含まれる場合には、生活を大きく変えなければならない薬を使うのは、弊害が大きいと言わざるを得ません。副作用が軽いことは、タグリッソの治療ラインを前に進める重要なポイントだったと思います」

手術前に遺伝子検査を受けよう

EGFR変異陽性肺がんの治療ラインが前に進んできたことで、それに対応して検査も行なう必要が生じてきました。実はEGFR変異陽性肺がんだけでなく、現在ではALK陽性肺がんでも、アレセンサ(一般名アレクチニブ)が手術後の補助療法として使用できるようになっています。こうした状況を考えると、非小細胞肺がんで手術を受ける患者さんは、EGFRやALKを調べる遺伝子検査を受けておく必要があります。

「術後にタグリッソやアレセンサを使うことにより、再発予防効果を得られたはずの患者さんで、遺伝子検査を受けていない人が、まだ相当数いるのではないかと考えられています。EGFRだけなら、TKIコバス(Cobas)法という検査方法で陽性か陰性かを確認できます。ただ現在では、進行肺がんの場合には、何種類ものドライバー遺伝子をいっぺんに調べられるマルチ遺伝子検査が広く行われるようになっています。EGFRとALKを別々に検査する方法もありますが、再発したときのことを考えても、マルチ遺伝子検査のほうがよいのではないかと思います」

切除可能の非小細胞肺がんの患者さんで、EGFRやALKの検査を受けていない人が、まだ半分くらいいるのではないかと推定されています。患者さんが取り残されないように、検査の普及が望まれています。

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