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治験を受けられるのは〝代表選手〟 意義、メリット、デメリットを理解して参加

監修●宋 菜緒子 がん研有明病院臨床試験・研究センター臨床研究コーディネーター主任・看護師
取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2016年5月
更新:2016年8月


勧められても、断ってよい

さて、実際にどのような患者が被験者として治験に参加するのだろうか。インターネットでは現在行われている治験が複数のサイトで一覧できるので、それを見て自分に合った試験をしている施設を探して申し込んでくる人もいるが、多くは、試験への適格性を判断した主治医からの勧めだ。宋さんのいるがん研有明病院でもそのケースが多い。そこで宋さんのようなCRCの出番がある。

「治験という言葉すら良く分からないという患者さんもいます。丁寧にメリットとデメリットを説明して、『気が進まなければ断ってもいいんですよ』と話し、決して無理な勧誘はしません。『私から医師に断ってもいいのですよ。あくまで選択肢の1つとして考えてください』と誤解のないように説明します。安心して断って来る患者さんもいます」

希望しても参加できないことも

そして、試験を成立させる上で大切なのが、被験者の条件が試験のプロトコル(実施計画書)の参加基準に合っているかどうかだ。医師からの紹介の場合には基準を満たしていることが多いが、ネットを見ての応募などそれ以外の参加希望者もいるので、その場合は参加基準に適合しているかを確かめる。

「それぞれの試験により条件は変わってきますが、全身状態(PS)はどうか、予後は3カ月以上あるか、臓器機能はしっかりしているか、といったことが第一条件です。治療歴も重要です」

そして、参加前に納得してもらわなければならないこともある。治療効果がなかったり、予期せぬ副作用があったりする可能性があることはもちろんだが、とくに第Ⅲ(III)相試験において、無作為割り付けの場合には患者さんは自分で治療法を選ぶことができない、それでも、試験治療群に入ることを強く望む人が多いという。そのようなケースでは、対照群(標準治療)に入る可能性も半分あるということもしっかり納得してもらう。

「治験薬に当たらずに落胆する人もいます。しかし、参加するならそれも納得の上でお願いしています。軽率な言い方かもしれませんが、『治験薬に当たったらラッキー』くらいに思える人に向いているのかもしれません。対照群の標準治療になっても治療はできるし、治験薬が効くかどうかもわからないのですから。治験に参加するのは病気に悩む患者さんの〝代表選手〟です。その自覚を大切にできる方にお願いしています」

治験に参加する前に、しっかりと内容と条件について納得することが何よりも大切。

次号では、治験に入った後のことを中心に解説する。

 

 

治験コーディネーターの役割❶

患者さんや希望者が医師との話し合いで治験に参加する方向になったら、私たち臨床研究コーディネーター(CRC)が介入します。治験について説明をするのですが、CRCが一番聞きたいのは、その方の生活や考え方についてです。試験に入ったら入院しなければならなかったり、何度も通院しなければならなかったりと、生活スタイルに影響することがあります。

どんなに意欲があっても、例えば2週間に1回北海道から通院できるかとなると現実問題として難しいこともあります。それをクリアしてから、治験の詳しい内容説明に移ります。

自分の生活を大切に無理のない参加を

治験に入ったら、全部を背負うのは被験者です。参加について積極的に考えているときに、敢えてマイナス要素を強調して話します。通院回数、CTや心電図、採血など検査の数と頻度などを細かく説明します。始まってから「こんなはずではなかった」と途中で止めることを避けるためです。

候補者のみなさんがいざ治験に参加する決意をするときに参考になるのが、ほかの被験者の情報です。子育て中の主婦の方がいますよ、会社勤めの人でも続いていますよ、夜勤の仕事の人もいます……というと、『じゃあ私もできますね』と納得してもらえます。

「治験ありき」で生活を調整できるのはとても珍しいことです。最初から力むことなく、生活をそれほど乱さずに治験を組み入れようという人のほうが長続きします。それぞれの生活に治験を乗せる手助けをするのが我々の仕事でもあります。

 

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